無垢を求めた夫と、離婚を決意しました第3話
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聞き間違えるはずもない声だ。長い時間を経て、ようやく彼の本音を聞いた気がした。
私の手は、勝手に震えていた。
4年前。諒と結婚式を翌日に控えた夜、私は拉致された。
清水グループの令嬢と知るや否や、犯人は身代金の要求額を吊り上げた。身代金は最終的に10億円にまで跳ね上がり、父が奔走した末、私が解放されたのは翌日のことだった。
週刊誌は、そのたった一昼夜の出来事を面白おかしく取り上げ、好き勝手に書き立てた。複数の男に暴行されたかもしれない。もう汚れた女だ、と。
私は何度も説明した。金目当ての拉致で、暴行はなかったのだと。それでも噂は止まらなかった。野火のように広がって、街中を覆い尽くした。
あの頃、私は世間の悪意の真ん中にいた。
ある日、買い物に出た先のショッピングモールで、大勢の記者に囲まれた。カメラとマイクが、一斉に私へ向けられた。
「清水さん、犯人のもとで何があったのか、詳しく聞かせてください」
「相手は複数だったんですか?」
「今も事件の影響は残っていますか?」
私は為す術もなく、立ち尽くすことしかできなかった。そこへ諒が駆けつけた。彼は私を背に庇い、マイクを奪い取るようにして言い放った。
「澪が何を経験しようと、僕にとって彼女は少しも汚れてなんかいない。僕は澪を一生愛し抜く、一生守り抜く。彼女を貶める者は、誰であろうと許さない」
親族も友人も、傷物の女を娶ることはないと彼を止めた。それでも彼は反対を押し切り、盛大な結婚式を挙げてくれた。
だから私は、信じていた。彼は本当に、気にしていないのだと。
「あの時も言っただろ。格好つけるなって。いや、お前が悪いわけじゃないよ。そういうのは、どんな男でも引くって」
諒の重いため息が聞こえる。
「僕も正直、知りたいんだ。あの夜、何人いたのか。でも澪は、その話になるとひどく嫌がる。少しでも触れようとすると、『何もされてない』ってムキになって否定するんだ」
泣き崩れると思っていた。けれど、涙は出なかった。むしろ、怖いほど静かだった。
私は足音を忍ばせ、その場を離れた。
歩きながら、気づいてしまった。諒はもう3ヶ月、私に触れていない。
結婚したばかりの頃、彼は私を安心させるように、執拗なほど身体を求めてきた。まるで、何も気にしていないと示すかのように。一晩に何度も。
それが少しずつ減っていき、この3ヶ月は、一度もない。
私は頭の中で時期をたどった。ひなたが彼のゼミに入ったのは、ちょうど3ヶ月前だった。
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