無垢を求めた夫と、離婚を決意しました第1話
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結婚前夜、私・清水澪(しみず みお)は丸一日監禁された。
救い出されたあと、周囲は口をそろえて言った。監禁された女は、もう傷物なのだと。
それでも牧野諒(まきの りょう)は、そんな私を一生愛すると誓ってくれた。
私は信じていた。彼だけは違うのだと。
けれどある日、偶然耳にしてしまった。
「昔は守ってやりたいと思っていた。でもいつからか……彼女のことが、どこか汚れて見えるようになった」
その瞬間、私は気づいてしまった。彼がもう3ヶ月、私に触れようともしなかったことに。
やがて彼は、私ではなく、私に似た目元をした清純で綺麗な女子大生を選んだ。
ふくらみはじめたお腹にそっと触れ、私は呟く。
「ごめんね、赤ちゃん」
私を汚いと思う男に、この子を望む資格なんてない。
* * *
ある荷物をきっかけに、私は諒を疑い始めた。
それは、彼が買ったばかりのメンズ香水だった。
出会ってから7年。一度だって、彼が香水をつけているところを見たことはない。
私はその香水を手にしたまま、しばらく立ち尽くしていた。
「最近暑くて汗をかくだろ。ゼミで学生と会うとき、少し気になってな」
諒はそう言って、何でもないことのように、私の手から香水を受け取った。
「そうだ、澪。夕飯はもう作ってあるから、先に食べていてくれ。今夜は研究で遅くなるし、帰れないかもしれない」
その言葉を聞いた瞬間、胸の奥に小さな棘が刺さったような気がした。
夜遅くまで学校に残ると言うのは、これでもう5回目だった。
嫌な予感を振り払えないまま、私は寝室へ戻り、諒のラインを開いた。
彼のアカウントはパソコンにログインしたままだ。きっと、ログアウトし忘れたのだろう。
トーク一覧を下へスクロールしていく。なぜか、その名前にだけ目が留まった。
法学部4年生の天野ひなた(あまの ひなた)。
背筋がひやりとした。震える指で、そのトークを開く。
残されていたやり取りは、たった2件だけだった。
一件目は、彼女からのメッセージ。
【牧野先生、今夜も7時に校門に来てくださいね。新しく焼き肉のお店ができたんですけど、先生と一緒に食べに行ってみたくて】
返信は、たった一言のようにそっけなかった。
【7時に着くよ。試しに食べてみようか】
それ以前の履歴は、ひとつ残らず消されていた。諒は毎日、欠かさずトーク履歴を消していたのかもしれない。
ひなたのインスタを開く。昨夜投稿された写真が目に入った。
街灯の下に伸びた2つの影。背の高い影と、低い影。男と女。その男の影を、私は見間違えるはずがなかった。
添えられた言葉は、こうだった。
【今日、彼に告白した。彼は受け入れてもくれないし、ちゃんと断ってもくれなかった。私がまだ若いから、私のことを縛りたくないんだって。でも、先生は私の勇気を甘く見ている。
牧野先生、もう一度告白します。拒否は禁止!絶対にOKしてくださいね!】
その投稿は、どう見ても諒に向けたものだった。
昨日、彼は同窓会に行くと言っていたのに。
さらにスクロールすると、彼女自身の写真が目に入った。目元が私によく似た、綺麗な女の子だった。
閉じようとした、そのとき。
彼女のフィードに、新しい投稿が追加された。
【これが私のファーストキス。牧野先生、ちゃんと最後まで責任取ってくださいね~】
写真はない。
たったそれだけの言葉なのに、心を鋭く抉られたようだった。息が詰まり、胸の奥がきりきりと痛んだ。
信じたくない。けれど、確かめずにはいられない。震える指で、諒に電話をかけた。
相手はすぐに出た。
「どうした、澪?」
私は声が震えないよう、必死に平静を装う。
「ううん、なんでもない。もう終わったのかなって思っただけ」
「まだ終わらないよ。今夜はチームで徹夜になりそうだから、帰れない。澪は待たなくていいよ。眠くなったら先に寝ていて」
「うん」
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