灰色の約束~裏切りの十年~第2話
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声のする方を見ると、さっき涼とキスを交わしていた女が、こちらへ歩いてくる。
口紅はキスでほとんど落ちてしまい、少し腫れた唇が光を浴びて、なまめかしく光っている。その魅力的な姿が、今の私にはひどく皮肉に映る。
彼女は手慣れた様子で涼の腕に抱きつき、見下すような目で私を見る。
「あら、あなたが外で囲っている可愛い彼女の、小林奈々(こばやし なな)さんじゃないか?
どうしてここへ?もしかして、私たちの結婚をお祝いしに来てくれたのかしら?」
彼女の指にはめられているのは、昨日の夜、ベッドの中で涼と未来を語り合っていた時に話した、あの憧れのブランド、IGの指輪だ。
あの時、私は涼の胸に顔をうずめ、期待を込めて約束をねだった。
「足が治ったら、あの指輪を買ってね。そうしてくれたら、一生愛してあげるから」
それは、バイトを何年も続けてようやく買えるかどうかというほど高価な代物だけど、純潔な愛の象徴でもある。あんなことを言ったのは、本当に高価な指輪が欲しかったわけじゃない。
ただ、私がもう少し頑張るための理由が欲しかったし、涼に治療を諦めないでほしいという励ましのつもりだった。
それなのに。たった一日で、涼はこの値が張る指輪を買い上げ、私ではなく、自分と釣り合う家柄の女に贈ったのだ。
長年、私を支え続けてきた何かが、音を立てて崩れ落ちていく。私は青ざめた顔で涼を見つめ、かつてないほど声を震わせる。
「神崎涼……この1000万円を他の女のために使っても、陸の耳を治したくないって言うの?どうして私にこんなひどい仕打ちをするのか分からないけど、あの子には何の罪もないのよ!」
涼の顔に、罪悪感の色は微塵もない。ただ迷惑そうに眉をひそめ、私をこの場から追い出そうとする。
「ナナ、その話は後で説明するから。今はとりあえず、ここから出て行ってくれないか」
「そんなのダメよ。せっかく奈々さんが来てくれたんだから、大切なお客様だわ」
雨宮玲子(あまみや れいこ)はあざ笑うように私を見る。
「私も別に、そんな心の狭い女じゃないのよ。涼が結婚する姿を見たいなら、その願いを叶えてあげる。ただ……
ここにあなたの席はないから、後ろで立って私たちが愛を誓うのを見てるしかないけどね」
そう言って、彼女は隅にあるゴミ箱を指さし、その横の空きスペースに立つように促す。
周りの招待客たちはそれを聞いてどっと吹き出し、ヒソヒソと囁き合う。
涼の強張った表情が一瞬だけ崩れた。彼は眉を寄せて玲子を見る。
「玲子、これ以上俺に恥をかかせないでくれ。先に行っててくれないか、彼女と少し話がある」
しかし玲子は聞こえないふりをして、冷ややかな笑みを浮かべたまま私を見つめる。
「彼がどうしてあなたを騙したのか、知りたいんでしょう?
実はね、この一件はすべて……私のちょっとしたいたずらから始まったのよ」
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