渡り鳥に、遅すぎた愛は届かない第2話
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翌日の午後、愛莉は休暇を取り、その人物とカフェで会った。
相手の目的は明確で、彼女を引き抜くためだった。いや、引き抜くというより、もともと彼女自身が辞めるつもりだったのだが。
愛莉は相手が提示した条件に納得し、双方が合意に至ると、相手はからかうように言った。
「木崎さん、もし坂井社長が、『彼女』が俺の会社に来たと知ったら、お二人の関係も危うくなるんじゃないですか?」
愛莉は一瞬固まった。彼女、ね……もうすぐ、そうではなくなる。
愛莉が答える前に、スマートフォンがピコンと鳴り、陽平からのメッセージが目に飛び込んできた。
【カフェで会ってる男は、誰だ?】
愛莉は瞳孔が収縮し、無意識に周りを見回した。
すぐにまた陽平からメッセージが届いた。
【わざわざ午後休を取ったのは、俺の知らない男とカフェで会うためか?】
愛莉は怒りに任せて文字を打ち込んだ。
【私のこと、つけてるの?】
【いや、友達がカフェにいる君を見かけたから、聞いたまでだ】
愛莉はほっと息をつき、適当な理由で彼をごまかした。
【ただの高校の同級生よ。こっちに出張で来てるから、会ってただけ】
陽平からの返信は早かった。
【そうか。なら、今夜は俺も一緒に、そいつにご馳走してやろう】
もし以前の陽平がこんな風にヤキモチを焼いてくれたなら、愛莉はどんなに喜んだことだろう。しかし今は、ただただ意味が分からないと感じるだけだ。
【いいわ。彼は今夜もう帰るから。ただ昔話をしてただけよ】
【そうか。君には彼氏がいるんだ。同級生だとしても、距離は保つべきだろう。周りの人間は、君たちがただの高校の同級生だなんて知らないんだからな】
その言葉に、愛莉は呆れて白目を剥いた。
自分こそが浮気しているくせに、よくもまあ、彼女の正常な付き合いに口を出せるものだ!
その夜、愛莉は新しいオファーを得たお祝いに、親友と食事の約束をした。
すき焼きを食べた後、二人はバーでもう一杯飲むことにした。
久しぶりの再会だったので、ゆっくり話せるように静かなバーを選んだ。
店に入るなり、愛莉は陽平の背中を見つけた。
彼は入り口に背を向け、角のボックス席に座っていた。周りには数人の同年代の男たちと、二、三人の女性がいた。
愛莉は一瞬立ち止まり、親友に店を変えようと言いかけた時、感嘆の声が聞こえてきた。
「陽平、ますます羽振りが良くなったな。俺たちの中じゃ、一番の成功者だよ!」
周りの男たちも、羨望の混じった笑みを浮かべて頷いた。
「成功した男の陰には、必ず支えてくれる女がいるって言うけど、愛莉さんは本当に幸運の女神だな!」
陽平は彼女に背を向けているため表情は見えないが、その声はどこか得意げだった。
「『内助の功』って言うだろ?女房のおかげで出世したからには、大金で報いてやらねえとな」
一同がまたどっと笑った。
愛莉は少し離れた場所でそれを聞きながら、胸がひどく詰まるのを感じた。
九年。陽平と共に過ごした九年間、彼が苦労して坂井グループを今の地位にまで築き上げるのを、ずっと支えてきた。その結果が、「内助の功」の一言で片付けられた。
まるで、それまでの努力や犠牲が金銭で清算できるかのように、陽平は恩着せがましく「大金で報いる」と言い放った。だが実際には、彼女に金を与えるどころか、裏では数えきれないほどの愛人を作っていた。
まさに「『内助の功』には、愛人二人で報いる」ということだ。
愛莉は胸に苦いものが込み上げ、親友の手を引いてその場を去った。
その夜も、陽平は帰ってこなかった。
翌日、九時少し前になって、陽平は慌てて会社に駆け込んできた。手には、小さなイチゴのショートケーキを提げていた。
彼は愛莉をオフィスに呼び、手にしたケーキを差し出した。
「君のために、わざわざ買ってきたんだ。ここのケーキ、好きだろ?」
彼は服を着替えていたが、その全身からは、甘ったるい香水の香りが微かに漂っていた。
愛莉は嫌悪に眉をひそめ、何か仕事の用かと尋ねた。
彼女がケーキを受け取らないのを見て、陽平は愛莉の両肩に手を置いた。
「愛莉、昨夜俺が帰らなかったのは、君の昨日の態度に腹が立ったからだ。それで友達と飲みに行って、飲みすぎて、ホテルでどうにか一晩やり過ごした。だから、君は……」
愛莉は、平然と彼の言葉を遮った。
「分かったわ。説明は要らない。何も気にしてないから」
陽平の顔から真剣な表情が消えぬまま、不意に遮られた言葉が、宙ぶらりんになった。
愛莉は陽平の手を振り払った。
「もし坂井社長に他に御用がないのでしたら、仕事に戻ります」
陽平は彼女のその冷静でよそよそしい様子を見て、苛立ち紛れに眉をひそめて口を開いた。
「毎回毎回、そういう態度を取るのはやめてくれないか。俺が説明してるんだから、ちゃんと聞けないのか。聞く耳も持たずに、気にしてないと言いながら、不機嫌な顔ばかりして。本当にヤキモチを焼いてるなら、直接そう言えばいいだろ?」
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