消えゆく愛の行方第2話
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今住んでいる古いアパートに戻ると、佳之は無造作にショップバッグをソファへ放り投げた。
私はその時初めて、ショップバッグの表面にほんのわずかにマニキュアがこすれた跡があるのに気づいた。
その跡を見つめたまま、立ち尽くした。
着信音が鳴り響き、佳之はそこでようやくスマホの画面が点きっぱなしだったことに気づいた。
電話に出ながら、私の様子をうかがうように、恐る恐る視線を送ってくる。
「わかった、すぐ行く。仕事の話なら次からは仕事用の番号にかけてくれ。
今は家で彼女の相手をしてるんだ。俺が恐妻家だって知ってるだろ?」
けれど、画面に表示された【橘川実】という登録名が、すべてを裏切った。
先月、佳之が何気なく「新しい秘書を雇ったんだ」と言い、その名前を見せてくれたことがあった。
「実(みのる)」という名前は男性に多い印象があるため、私は深く考えもしなかった。
けれど、それが本当は「枝実子」の略だった。
そして、秘書なんて最初から存在しなかったのだ。
「会社の連中からだ。勤務時間外は連絡してくるなって言ってるのに、まったく融通が利かないんだから。
明日会社に行ったら、たっぷり絞ってやるからさ」
佳之は平然と言い放った。
あまりにもあっさりとしたその口ぶりに、信じざるを得なかった。
私はかろうじて口元を引きつらせた。胸の奥がひっくり返るように激しく波立ち、酸っぱいものがこみ上げてきて、吐き気に襲われている。
佳之は私のそんな変化に気づかず、まだべらべらと喋り続けている。
「佳之」
私はたまらず言葉を遮った。
彼が振り返った。
「どうしたの、亜矢?」
「明日、新居に引っ越そう。住むところを変えたいの」
濡れた髪を拭き取りながら呟いた私の声は、ほとんど喉の奥に消えかかっている。
佳之の手がピタリと止まった。
「亜矢、前に話し合っただろ?新居には結婚式を挙げてから入るって。それでもっと結婚の実感ができるって言ったのは、お前じゃないか」
彼には、いつも私を諦めさせるための完璧な理由があった。
けれど、私がまだ足を踏み入れてさえいないあの場所は、とうの昔に他の女に踏み荒らされていたのだ。
佳之は手慣れた様子で私の手からタオルを奪い取り、優しい手つきで髪のしずくを拭いてくれた。
口を開けば甘い言葉で呼びかけ、誰に会っても私の自慢をし、私が怒っていても忘れずに機嫌を取る。
だから私も、この男が心から自分を愛してくれていると錯覚してしまっていた。
「少し具合が悪いから、今夜は別々に寝よう」
私は冷ややかにそう言い残し、部屋へ入って鍵をかけた。
佳之がドアを叩き、どこが悪いのかとしつこく尋ねてくる。
私は無視して、布団を頭から深くかぶった。
それなのに、涙が止めどなく頬を濡らしていく。
おかしくてたまらない。
丸2年もの間、何一つ気づいていなかったのだ。
真夜中、ドア越しに、佳之が電話で話す声がかすかに聞こえてきた。どこか甘えたような響きだ。
その後、何度も深いため息をつく気配があり、リビングの明かりは一晩中点いたままだ。
……
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