消えゆく愛の行方第1話
この話は約2180字。当サイトでは第1〜3話を試し読みできます。
国岡佳之(くにおか よしゆき)と付き合って8年、私たちはすでに新居となるマンションを買っていた。
大学院を卒業したら、すぐに籍を入れるつもりだった。
今日、夜遅くまで図書館で勉強していて、ようやく家に帰ろうとしたその時、SNSで見知らぬ女の子からDMが届いた。
アイコンの画像を見ると、とてもきれいな子だ。
その子から何枚もの写真が送られてきた。
すべて彼女と佳之のツーショット。しかも撮影場所は、私と佳之の大切な思い出の場所ばかりだ。
彼女はメッセージを送ってきた。
【先輩が院試勉強をしていた時から、私たちは付き合っています】
* * *
今年の梅雨入りは、例年よりもずっと早かった。
肌にまとわりつく湿気で息が詰まりそうになり、国岡佳之(くにおか よしゆき)はこういう天気が嫌いだと言っていた。落ち着かず、胸がざわつくのだと。
図書館から外に出ると、私・会田亜矢(あいだ あや)の後れ毛にきらきらとした小さな雨のしずくがいくつか止まっている。
こんな天気は佳之のぜんそくを引き起こしやすい。毎年この時期、私はいつも神経を尖らせ、部屋の隅々まで徹底的に除湿している。
彼はいつも、自分の体はそんなに弱くないと言っている。
ある日、小雨の降る中へ飛び出しては、服が濡れるのも構わずに向かいに来た彼に、私は怒りで目が真っ赤になった。
すると、背中から名前も知らない白い小さな花束を不意に差し出してきた。黄色いおしべがちょこんと覗いていた。
「ほら、近くの花屋で新しく仕入れた花。お前みたいにきれいだ。お店の人がよかったらどうぞって、ただでくれたんだ」
あの頃の私たちは二人とも貧乏学生だったので、ただでもらった花束でも私の心は踊るほど満たされていた。
財布はすっからかんだったが、愛だけは溢れていた。
去年、佳之は起業に成功して自分の小さな会社を持ち、先月、私たちは新居を買ったばかりだった。
実家にはすでに話を通してあり、来月卒業したらすぐに婚姻届を出す予定だった。
SNSで突然、見知らぬ人からDMが届いた。
アイコンの画像を見ると、とてもきれいな女の子だと分かった。
写真が、津波のように押し寄せてきた。
どれもこれも、彼女と佳之がぴったりと寄り添っているツーショットばかりだ。
【L公園って、会田先輩が告白された場所ですよね?彼、ここでも私に告白してくれたんです!】
【ここ、見覚えありますか?先輩の大学のグラウンドですよ。彼とここでキスしました!】
私は凍りつき、指先がちくちくと痛んだ。
【それから二人の新居で……あのベッドにもう一緒に寝ちゃいました!】
挑発的な最後の一言。
【先輩が院試勉強をしていた時から、私たちは付き合っています】
その場に立ち尽くし、何度も何度も写真を拡大して見返した。
そして、ようやくその顔を思い出した。
学部を卒業した時のこと。写真部の部員である橘川枝実子(きつかわ えみこ)が、私と佳之の記念写真を撮ってくれたのだ。
「先輩たち、本当にラブラブですね!末永くお幸せにお過ごしください!」
彼女は佳之に向かって、「浮気なんかしたら許しませんよ。一生一途に先輩を愛し続けてくださいね」と諭しさえした。
心臓が太い縄で思いきり締め付けられ、粉々に砕け散りそうだ。
これらの写真は激しい嵐のように、骨の髄の隙間へ容赦なく突き刺さってくる。
乱暴にスマホの画面を消すと、不意に雨が止んだ。
小さな花柄の傘が霧雨を遮り、どこかで嗅いだことのあるフリージアの香りが漂ってきた。
「こんなところで、ぼさっと立ち尽くしてどうしたんだ?」
佳之はショップバッグを提げたまま、手を伸ばして私を抱き寄せた。大きな手のひらで、乱れた私の髪を優しく撫でた。その口調はこれ以上ないほど優しい。
「今日も俺に会いたかった?」
まるで、私たちが本当に愛し合っている恋人同士であるかのように。
「どうして何も言わないのか?今日は付き合って8周年の記念日だぞ。
ほら、何を持ってきたか当ててみてくれ」
鮮やかなオレンジ色のショップバッグが目の前でゆらゆらと揺れている。嫌でも目に入る華やかなロゴマーク。
私がずっと欲しかった、憧れのハイブランドのバッグだ。
佳之は本当に気の利く男だ。毎年の記念日には、いつも趣向を凝らしたサプライズを用意してくれる。
これほど高価な贈り物をくれるのは、特別な日だけだ。
ふと思い出した。
あの送られてきた写真には、数え切れないほどのブランドロゴが入った紙袋が写っていたことを。
――佳之、あの子と過ごした毎日は、そんなに手の込んだサプライズが必要なほど特別な日だったの?
「いつまでも本ばかり読んでないでさ。まさか本当に博士課程まで進むつもり?
それよりも、俺を支えてくれる妻になって、のんびりとした生活を送ってほしい」
顎をくいっと持ち上げられ、顔を上に向けられると、唇にそっとキスが落とされた。
佳之は気づいていなかった。自分の手がうっかりスマホの画面に触れてしまったことに。
枝実子とのトーク画面が、まだ閉じられないまま表示されている。
【わかった。明日はお前のところに行くからな。俺が愛してるのはお前だけだ】
これ以上見ていられず、私はきしむ胸を押さえながら視線を逸らした。
――佳之、一体いつからだったの?
愛しているふりさえ、こんなに完璧に演じられるなんて。
昔のあなたは、ほんの小さな嘘をついただけで、耳たぶまで真っ赤にしていたのに。
……
縦書き表示中:本文は右から左へスクロールします(← → キーでも移動できます)