消えていったあの夢第1話
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上流社会では、政略結婚の夫婦はお互いに好きに遊んで良いという不文律がある。
ただし、外で愛人に何かを買い与えた場合は、必ず家にいる相手にも同等のものを贈らなければならない。
江崎律(えざき りつ)は礼儀を重んじる人であったため、後に白野家が破産しても、そのルールを百倍にしてでも白野清子(しらの きよこ)に本来あるべき敬意を示し続けた。
愛人のカードに毎月百万円のお小遣いを振り込むなら、清子のカードには必ず一千万円を振り込む。
愛人に百万円の宝石を贈った直後には、オークションで競り上げて、清子には一億円のエメラルドのアンティークリングを贈るのだ。
男たちの奔放な遊びには慣れている名門の奥様たちでさえ、清子と律が街中を賑わせた恋愛劇には、ため息交じりに心を打たれたのだ。
それでも周囲からは、「満足することを知るべきよ」と諭す声が絶えない。
満足?清子はもちろん満足していた。
だからこそ、律が郊外の価値もないマンションを愛人に公然と贈ったあの時だけは、彼から岸辺一号の別荘の権利証を受け取ると、彼女は何気なくこう言ったのだ。
「なんだか急に飽きちゃった。離婚しない?」
* * *
上流社会では、政略結婚の夫婦はお互いに好きに遊んで良いという不文律がある。
ただし、外で愛人に何かを買い与えた場合は、必ず家にいる相手にも同等のものを贈らなければならない。
江崎律(えざき りつ)は礼儀を重んじる人であったため、後に白野家が破産しても、そのルールを百倍にしてでも白野清子(しらの きよこ)に本来あるべき敬意を示し続けた。
愛人のカードに毎月百万円のお小遣いを振り込むなら、清子のカードには必ず一千万円を振り込む。
愛人に百万円の宝石を贈った直後には、オークションで競り上げて、清子には一億円のエメラルドのアンティークリングを贈るのだ。
男たちの奔放な遊びには慣れている名門の奥様たちでさえ、清子と律が街中を賑わせた恋愛劇には、ため息交じりに心を打たれたのだ。
それでも周囲からは、「満足することを知るべきよ」と諭す声が絶えない。
満足?清子はもちろん満足していた。
だからこそ、律が郊外の価値もないマンションを愛人に公然と贈ったあの時だけは、彼から岸辺一号の別荘の権利証を受け取ると、彼女は何気なくこう言ったのだ。
「なんだか急に飽きちゃった。離婚しない?」
……
律はタブレットで朝倉雪菜(あさくら ゆきな)の二十三歳の誕生日プレゼントを選んでいる。
清子の言葉を聞いても、顔を上げることはなかった。
「雪菜ちゃんにあげたマンションは安いものだよ。仲介料だって含めても、全部で千四百万円にもならない。
あの岸辺一号の別荘、街で一番の好立地じゃないか。損はしてないよ」
「清子、俺が一番大切にしているのは、やっぱりお前なんだ」彼の穏やかな声に、清子は思わず目が潤んだ。
律の言う通り、結婚して七年、彼は確かに清子を一番大切にしてきた。
雪菜の口座には毎月百万円のお小遣いが振り込まれ、清子の口座には毎月変わらず一千万円が入っていた。
雪菜に百万元の宝石を贈った直後、彼はオークションで競り上げ、清子に一億元相当のエメラルドアンティークリングを贈った。
しかし、その一千万円は江崎家が毎月ファミリーファンドからの給付金だった。
エメラルドの指輪の競売にも、律は姿を見せず、執事に任せきりだった。
一方で雪菜が雑炊が食べたいと一言つぶやけば、彼は自ら台所に立ち、鍋を二つも焦がしながら作ってくれた。
友人は彼女にこう忠告した。
「清子さん、だって今はお金も地位もあるし、ご主人だって遊んでるだけで、清子さんを大切にしていないわけじゃないんだから。恵まれてるのにそれに気づかないなんて、もったいないよ」
「そうだよ、清子さん。お父さんは亡くなって、お母さんは植物状態になって、今はご主人があなたを受け入れてくれてるんだから、それだけは、ありがたいことだと思わなくちゃね」
清子だって、現状に満足したいと思っている。
しかし彼女の心には、付き合い始めた頃のあの夜のことが、今でも鮮明に焼きついていた。律が街の半分を照らすほどの花火を、ただ彼女のために打ち上げてくれた、あの夜が。
白野家が破産し、律を巻き込みたくなくて、彼女が無理に別れを切り出したときのことも忘れられない。
あの男は土砂降りの中、ずぶ濡れになりながら待っていた。目は真っ赤に染まっていた。
彼は言った。「清子、お前は俺の命なんだ。お前がいなきゃ、生きていけない」
あれから七年が過ぎ、清子は離婚を切り出した。
律はまるで何でもないかのように、淡々と一言だけ言い残した。
「雪菜の誕生日が近いんだ。分別を持てよ。こんな時に余計な騒ぎを起こすんじゃない」
鼻の奥がツンとして、涙がこみ上げるのを感じた。清子は、事前に準備していた離婚届を取り出し、平静を装って軽い口調で言った。
「署名して。署名してくれたら、もう騒がないから」
彼女は、律が激怒するだろうと思っていた。奪い取っては離婚届をビリビリに破り、怒声をあげる。「清子、夢を見るな。お前をどこにも行かせないぞ」
しかし予想に反して、律は彼女を一瞥しただけで、書類を最後のページまでめくった。
そして署名しながら言った。
「言ったこと、ちゃんと覚えておけよ。俺が署名したら、もう騒がないってな」
清子はうなずくと、風に消えそうな、かすかな声で答えた。
「分かった。もう騒がない」
今、二人の間には、財産分与が終わるまで、後30日しか残されていない。
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