水無月の彼方へ第3話
この話は約1735字。当サイトで読める3話の試し読みのうち、最後の話です。続きの第4話からは公式アプリで読めます。
私と彼は無様に地面に倒れ込み、彼は血走った目で私の肩を掴んだ。
「狂ったのか!今お前が飛び降りたら、ご両親はどうなる?姉さんはどうなるんだ?世間からどれだけ後ろ指を指されると思ってる!」
私は呆然とした。
なんと、私を助けたのは、姉が非難されないためだったのだ。
大粒の涙が地面に落ちると、陸は慌てた。
「何を泣いてるんだ?」
彼は伸ばしかけた指を途中で引っ込めた。
「さっき澪と相談して、結愛をお前のことを第二の母親として尊敬させるように育てると決めたんだ。これで文句ないだろう?」
第二の母親?
彼のその施しを与えるような口調に、私は笑いが込み上げてきた。
私は彼の手首を掴み、問い詰めた。
「あなたたちは、いつからそんな関係になったの?」
彼は視線を彷徨わせ、顔を背けた。
「もう聞くな」
「答えなさいよ!」
私は声を荒らげ、彼の目をじっと見据えた。
「せめて、私に納得させてよ」
陸は言葉に詰まり、きつく目を閉じた。
「お前が不慮の事故で流産した日、俺は一人でやけ酒を飲んでいた。澪がお前の着替えを病院に届けるためにまとめに来てくれて、俺は飲みすぎていて、それで……」
彼は伏し目がちになり、酷く掠れた声を出した。
「彼女の責任をとらなければならなかった。すぐに妊娠が分かって、俺はこの子を諦めきれなかった。だから……」
「私を切り捨てるしかなかった、そういうこと?」
私は自分で思うよりも冷静だった。
頭の中は、私が入院していた時、看病してくれていた陸が姉に追い出された光景で埋め尽くされていた。
私はてっきり、姉が陸の看病の仕方が不器用だと文句を言っているのだと思っていた。だが実は、彼女は彼を気遣っていたのだ。
私は傍らの欄干につかまりながら、ふらふらと立ち上がった。
陸は恐る恐る私を見た。
「落ち着いてくれ。俺と澪の結婚式まであと3日なんだ。
お前が出席してくれさえすれば、澪が略奪したと周囲から誤解されずに済む。頼む、この通りだ!」
頼む?
私は彼を見つめ、ひどく歪んだ笑みを浮かべた。
陸が私にこの言葉を使ったのは、これが初めてだった。
彼のスマートフォンが鳴り、姉の甘えたような声が聞こえてきた。
「あなた、今検診が終わったの。迎えに来てよ」
彼は私を一瞥すると、踵を返して去っていった。
私は一人、川辺で一晩中座り込んだ。
翌日、家に帰るとすべての荷物をまとめた。
母がドアを開けて入ってきた。
「お母さんのお願いを聞いてちょうだい」
ウェディングドレスの店に引きずり込まれるまで、母が私に姉のドレスの試着に付き添わせようとしているとは夢にも思わなかった。
「実の姉なんだから、水に流しなさい」
鏡の中では、姉が口紅を引いていた。
「私を恨まないでね。感情に早い遅いは関係ないの。お互いの気持ち次第よ」
私は掌をきつく握りしめ、胃の中が激しく掻き回されるのを感じた。
「如月澪。あなたは私が持っていないものを全て手に入れたのに、どうして陸まで奪う必要があったの?」
彼女はふと笑い、声を極端に潜めた。
「あの時のあなたの流産が、本当にただの事故だと思ってるの?」
私はその場に釘付けにされ、背筋が凍りついた。
「あの頃、あなたは社長と出張や残業ばかりしていたでしょう。陸はとっくに、あれが自分の子じゃないと疑っていたのよ」
彼女は意味深長な視線で私を見た。
「記憶が確かなら、あの日、彼が作ったスープを飲んでから切迫流産の兆候が出たのよね?」
私は勢いよく顔を上げ、彼女の瞳の奥にある憐れみと視線がぶつかった。
「嘘よ!」
私は店を飛び出し、陸を問い詰めようとした。
母が入ってきて、声を潜めて言った。
「澪、あんたの言ったことは本当なの?」
「こうでも言わないと、あの子が完全に諦めきれないでしょ?」
私は頭が朦朧としたまま、店の外へ飛び出した。
けたたましいクラクションの音が鳴り響き、顔を上げると、結愛が道路の真ん中に立ちすくんでいた。大型バスとの距離は10メートルもなかった。
私は無意識に飛び出し、彼女を抱えて歩道へとダイブした。
群衆の悲鳴が上がり、私の背中はタイヤにすれすれで掠った。
陸が反対側から飛び出してきて、結愛を奪い取るように抱え上げた。私が立ち上がるよりも早く、彼の怒鳴り声が頭上から降ってきた。
「如月紬!死にたいなら俺の娘を巻き込むな!」
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