気づけば、愛も遅すぎた第2話
この話は約1548字。当サイトでは第1〜3話を試し読みできます。
彼女が再び目を開けたとき、頸には固定具が巻かれて動かせなかった。
顔に走る激しい痛みが彼女を次第に正気に戻し、全身の痛みはまるで骨がすべて折れたかのようだった。
ベッドのそばに立っていた恒志は、晴美が目を開けるのを見ると、安堵のため息をついた。
「生きててよかった。さあ、琴星に謝ってくれ。あの日、お前が来なかったせいで、彼女を屋上から引き戻すのにすごく苦労したんだ」
晴美は普段涙を嫌っていたが、今は鼻の奥がツンとしてたまらなかった。
彼を目にしたとき、一瞬だけ喜びが込み上げた。
だが、彼は痛くないかと一言も聞いてはくれず、開口一番、琴星への謝罪を求めてきた。
晴美は自分が何か間違いを犯したのか分からなかった。
ただ、琴星がうつ病で、自殺の可能性があるからといって、世界中が彼女を中心に動くべきなのか?
晴美は口を開こうとしても、声が出なかった。
「まあいい。考えがまとまったら、俺に言え。琴星は薬の時間だ。俺は行く」
晴美は今、自分の体が動かないことをただただ悔やんでいた。もし動けるなら、彼をぶん殴っていたかもしれない。
頬を伝う涙が一筋、流れ落ちた。
心の奥で、何かが確かに壊れた。
隣室の看護師たちが小声でひそひそ話していた。
「米村社長、柳本さんのためにフロアを丸ごと貸し切ったらしいよ。それに、注射が苦手だからって、うちの看護師長まで呼び出したって」
「本当に羨ましいわ」
「私もこんなふうな社長さんに大事にされてみたいなあ」
「聞いた話じゃ、米村社長は柳本さんにピッタリ付き添ってて、何かあったら大変だからずっと守ってるらしいよ。私も様子を見に行ったけど、ケガはもうとっくに治ってるみたいよ」
晴美は窓の外を見つめ、眩しい陽射しに目を開けられず、言葉を発する気になれなかった。
少し目を閉じて休もうとしたとき、晴美の両親が病室に入ってきた。
「晴美、なんてひどい怪我なの」
晴美は心の中で思った。やはり、両親は自分のことを大切に思ってくれている。
母である水村美代子(みずむら みよこ)は晴美の手を握って言った。
「晴美、あなたは強い子よ。小さい頃から、手がかからなかったの。今回のことだって、きっと乗り越えられるわ」
晴美の笑みは一瞬で冷めた。
「ねえ、琴星はただ、あなたに謝ってもらいたいなの。だって、ずっと私たちと一緒に豊かな生活をしてきたのはあなたでしょ?あの子は何もないの」
晴美は冷たく手を引き、顔を背けた。もう彼らの顔すら見たくなかった。
父である水村弘文(みずむら ひろふみ)はもう我慢できず、晴美の病床を指さして大声で怒鳴りつけた。
「お前が恒志と結婚しようと強要したから、琴星が傷ついたんだ!謝るだけで済むのに、それすら嫌がるとはどういうことだ!
事故ってまで謝りに行きたくないなんて、お前、なんであんなに冷たい子に育てたんだ!」
晴美はじっと窓の外を見つめたまま、何も言わず、関わろうとしなかった。
かつて彼女を大切にしてくれた両親は、もうどこにもいなかった。
ただ、彼女が彼らの実の娘でないがために、ここまで苦しまなければならないのだろうか。
そのとき、恒志が病室に飛び込んできた。
「おじさん、おばさん!早く琴星を見に来て」
三人は部屋を飛び出していき、晴美を一瞥もせずに去っていった。
晴美は、自分が琴星からすべてを奪ったのか、それとも奪われたのか分からなかった。
そのとき、スマホに通知が届いた。
それは、前に依頼したDNA鑑定機関からの結果だった。
晴美は以前から、琴星が提出した親子鑑定書に疑念を持っており、密かに両親の毛髪を採取して検査に出していた。
そこにはこう記されていた。
水村晴美と水村弘文が親子である可能性は、99.99%と判定された。
晴美の頬を、静かに一筋の涙が流れた。
やはり、皆が琴星の嘘に踊らされていたのだ。
縦書き表示中:本文は右から左へスクロールします(← → キーでも移動できます)