母は養妹を救い、実の娘を見殺しにした第2話
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真帆が5分近く扉を叩き続けた末、固く閉ざされていた扉がようやく開いた。
母は険しい顔で出てきた。
「佐伯さん、何を騒いでいるの?」
真帆は床に横たわる私を指さし、緊張でつかえながら説明した。
「高梨院長、千紘さんは内出血を起こしているかもしれません!」
母は眉をひそめ、私のそばにしゃがみ込むと、背中の服を無造作にめくった。
「傷はあるけれど、ただの表皮の損傷よ」
立ち上がって手を払い、あからさまに苛立った目を真帆に向けた。
「佐伯さん、看護学校で何を学んできたの?こういう擦り傷は見た目こそひどいけれど、細い静脈がいくつか傷ついて、出血が多く見えるだけよ。待合の患者ならともかく、あなたまで大騒ぎしてどうするの?」
真帆は顔を真っ赤にして訴えた。
「院長、本当に、下に硬いものが……」
「もういい!」
母は真帆の言葉を遮った。
「背中は骨の構造が複雑だから、看護師のあなたが骨を異物と勘違いしても無理はないわ。慎重に確認した姿勢だけは評価するわ。でも、これ以上、救命処置の妨げになるなら、実習評価を見直さなければならないわね」
そう言い終えると、母は私の腕を乱暴に引いた。
「いつまで床に寝ているつもり?」
ガラス片がずれ、どこか別の場所に突き刺さった。
私は歯を食いしばり、母のズボンの裾をつかんだ。
「お母さん、助けて。本当に痛いの……」
裾が勢いよく引き抜かれた。母の声が耳の奥で鈍く響いた。
「拓海も言っていたでしょう。事故のとき、あなたは一番安全な後部座席にいたって。美月は助手席にいて、あなたの代わりにけがをしたのよ。それなのに、まだ順番を争うつもり?」
真帆が突然、私の手首を指さした。
「高梨院長、千紘さん、赤いタグをつけています!」
母の声が一瞬止まった。
だが次の瞬間、その目には、すべて分かったというような色が浮かんだ。
「搬送を担当した医師に、私のことを話したのね?院長の娘だからと赤いタグをつけてもらって、優先的に運び込ませたんでしょう?千紘、私はあなたをそんなふうに育てた覚えはない」
母は突然声を張り上げた。救急外来の隅々まで響くほどの大声だった。
「外では大勢の患者が処置を待っているのよ。それなのに、私との関係を使って順番を抜かそうとするなんて。私が許したところで、ほかの患者が納得すると思う?」
待合スペースが一気に騒がしくなった。
「ふざけるな!こっちは何時間も待ってるんだぞ!」
「院長の娘だから何だっていうの?順番くらい守るべきでしょう!」
「若いくせに、よくそんな厚かましいことができるわね」
母は片手を上げ、次第に大きくなる非難の声を鎮めた。
そして、私を見下ろした。
「聞こえた?恥ずかしくないの?公平を期すために、今日はあなたを最後に診るわ。勝手に赤いタグをつけた搬送担当の医師についても、厳正に処分する」
待合スペースから拍手が起こり、親指を立てる者までいた。
「さすが院長先生だ。身内にも甘くない」
母は満足そうな表情を浮かべた。
そのとき、処置室の扉が再び開き、拓海が飛び出してきた。
床にいる私を見て、足を止めた。
「千紘?どうして……」
「甘えているだけよ!」
母は拓海の言葉を遮った。
「それより、美月はどうなの?」
拓海の視線は私の上をかすめただけで、すぐに母に向けられた。
「傷口が不規則なので、縫合すると痕が残るかもしれません……」
「そんなの駄目よ!若い女の子の腕に傷痕が残ったら、どれほどつらいと思っているの?」
母は拓海の腕をつかみ、処置室へ引き戻した。
「私が縫うわ。あなたは助手に入って。ほかの医師にも、万全の態勢で臨むよう伝えて!」
引っ張られた拓海はよろめき、ためらうように私を見た。
そのとき、処置室から美月の泣きそうな声が聞こえた。
「拓海くん、縫われるのが怖い……そばにいてくれない?」
拓海の顔にわずかに浮かんでいた気遣いは、すぐに消えた。
彼は振り返りもせず、処置室へ駆け込んだ。
扉が閉じる直前、母の優しい声が聞こえた。
「美月、大丈夫よ。お母さんがいるからね」
冷たい床に横たわりながら、母が最後にあんな優しい声を自分にかけてくれたのは、いつだっただろうと考えた。
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