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死後3年、婚約者は私に罪を着せる第2話

この話は約1994字。当サイトでは第1〜3話を試し読みできます。

私は宙に浮いたまま、辰哉と遥香を見下ろしている。まるで氷水を浴びせられたように、魂の芯まで冷え切っていた。

遥香が言っている「あの馬鹿な女」、つまりギャラリーのオーナーは、穏やかで優しいシングルマザーだった。

「ガキ」とは、彼女の5歳の娘のことだ。

そして私は、その子を助けるために炎の中へ飛び込み、落ちてきた梁に足を挟まれ、そのまま焼け死んだ。

それなのに、彼らにとって人の命なんて、こんなにも軽いものなのか。

辰哉はこめかみを押さえ、少しだけ声を和らげて言う。

「もう泣くな。美夕の奴は見つかった。あいつにお前の罪を被せればいい」

遥香の泣き声がぴたりと止まる。

「本当!?あいつ、納得したの?」

「あいつの意思など関係ない。拒否する権利もない」

辰哉は鼻で笑う。その声には、すべてを自分の思い通りにできるという傲慢さがにじんでいる。

「ただ……」

そこで言葉を切る。その目に、一瞬だけ私には読み取れない感情が浮かんだ。

「今日、あいつのいたアパートへ行ったんだが、大家が言うには……あいつは3年前に死んだそうだ。

弟も、飛び降りて死んだってな」

「はあ?」

遥香は目を大きく見開き、次の瞬間には鼻で笑った。

「お兄ちゃん、騙されてるよ!美夕って、昔からずる賢いじゃない?私たちが身代わりを探してるって知って、逃げおおせるためにわざとこんな芝居を打ってるのよ」

そう言いながら遥香は辰哉のそばへ寄り、腕に絡みつく。

「よく考えてみてよ。あいつにとって弟は何より大切な存在だよね。そんな弟を死なせるわけないじゃない。絶対に嘘よ!」

辰哉の顔から険が落ちる。どうやら遥香の言葉に納得したようだ。

「お前の言う通りだ。あいつは昔から、こういう小細工ばかりするからな」

「お兄ちゃん、絶対に同情なんかしちゃだめよ」

遥香の目に、ぞっとするほど冷たい光が宿っている。

「今回は絶対に、あいつに罪をかぶせるの。そうしないと、私たちまで巻き込まれるんだから!」

「分かっている」

辰哉はなだめるように、遥香の手を軽く叩いた。

「もう部下に調べさせてる。すぐに結果が出るはずだ。

あいつを見つけ出したら、たっぷりと思い知らせてやる」

兄妹が仲睦まじく寄り添う姿を見下ろしながら、私はただ、あまりにもバカバカしくて笑ってしまった。

辰哉、あんたはもうすぐ思い知る。

真実は、嘘なんかよりずっと残酷だということを。

……

空がまだ白み始める前、辰哉のスマホが鳴った。

彼はほとんど反射的に電話に出る。

「分かったか?」

電話の向こうから、部下の緊張した声が聞こえてくる。

「社長、確認が取れました。杉本律希は……確かに3年前に亡くなっています」

辰哉の顔がこわばる。

「なんだと?」

「病院の死亡診断書と、除籍の記録を確認しました。杉本律希は3年前の秋、心臓病の悪化による多臓器不全で亡くなっています。死亡診断書には、当時の主治医の署名もあります」

辰哉の呼吸が、にわかに荒くなる。

「主治医は誰だ」

「心臓血管外科の高橋先生です」

「そいつに代われ」

電話の向こうが数秒、沈黙する。何かためらっているようだったが、すぐに指示通りに動いた。

やがて、年老いた、疲労のにじむ声が響く。

「どちら様ですか」

「木下辰哉です」

辰哉の声は、ひどく掠れている。

「高橋先生、杉本律希のことですが……」

「木下……さん?」

高橋先生は辰哉の言葉を遮る。その声には、隠そうともしない冷たさと嫌悪がにじんでいる。

「今さら何の用ですか?律希くんのお墓がどこにあるのかでも聞きたいんですか?」

辰哉は言葉に詰まり、顔をさらにこわばらせる。

「俺はただ、あいつが本当に……」

「本当ですよ」

高橋先生の声が急に大きくなる。怒りが、堰を切ったように爆発した。

「美夕さんの初七日の直後、律希くんは亡くなったんです。病室でずっと美夕さんのことを話していました。向こうで一人ぼっちになって、暗くて寂しいだろうって……

鎮静剤を使っても、カウンセリングを受けさせても、どうにもならなかったんです。

律希くんは何度も言ってましたよ。木下さんが美夕さんに、必ず適合する心臓を見つけて、律希くんを助けると約束したって。

その約束だけを信じて、ずっと待っていました。しかし、美夕さんが亡くなったと知って、律希くんの最後の希望まで絶たれてしまったんです。

看護師の目を盗んで、体につながっていた管を全部抜いて、病院の屋上から飛び降りました。律希くんの最後の言葉を知ってますか?

美夕さんのところへ行って、暗くないように照らしてあげるんだって……

これで満足ですか、木下さん」

高橋先生の言葉が、氷の刃となって辰哉の胸に突き刺さっていく。

スマホを握る手が、激しく震えている。手の甲には青筋が浮き出ている。

「……そんなはずない」

辰哉はまるで、自分自身に言い聞かせるように呟く。

「俺は……ちゃんと美夕に金を渡して、律希の治療費にしろって……」

「お金?」

高橋先生が冷たく笑った。

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