死後3年、婚約者は私に罪を着せる第1話
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私・杉本美夕(すぎもと みゆ)が炎に包まれて死んでから、3年が経った。それなのに、社長である私の婚約者・木下辰哉(きのした たつや)は、またしても妹・木下遥香(きのした はるか)の罪を私に被せようとしている。
辰哉は偽造した供述書を手に、かつて私が暮らしていたアパートへ押しかけ、遥香の代わりに放火の罪を認めろと迫ってくる。
しかし、私はもうとっくに死んでいる。
辰哉は信じようとせず、大家の肩をつかんで、怒鳴り散らした。
「杉本美夕はどこだ!」
辰哉の剣幕に怯えながらも、大家は哀れむような目を向けて告げる。
「美夕ちゃん?3年前の商業ビルの火事で亡くなったんだよ。
逃げ遅れた小さな女の子を助けようとして、落ちてきた梁に足を挟まれて、動けなくなったまま炎に巻き込まれて……」
辰哉の顔から、血の気が引いていく。けれど次の瞬間、鼻で笑った。
「俺から逃げるつもりか?どうやら、あいつは自分の立場を分かってないな。
美夕に伝えろ。今すぐ姿を見せないなら、あいつの弟の移植用の心臓は、すぐにでも他の奴に回すってな!」
大家は目の前の男を見つめた。その目は、まるで正気を失った人間を見るようだ。
「心臓って、何の話?
美夕ちゃんの初七日に、弟の律希くんは病院の屋上から飛び降りたんだよ。
姉ちゃんが向こうで一人きりだと、暗くて寂しいから、自分がそばにいてあげなきゃって……」
* * *
私は宙に浮いたまま、辰哉を見下ろしている。
尊大なまでに自信に満ちていた辰哉の顔が、見る間に青ざめ、次第に土気色へと変わっていく。やがて信じられないと言わんばかりに、その顔が引きつった。
彼は大家をつかんでいた手を乱暴に離すと、よろめきながら後ずさり、階段の手すりに背中をぶつける。ドン、と鈍い音が響き渡る。
「そんなはずない」
歯を食いしばり、喉の奥から無理やり絞り出すように呟く。
「美夕は、あの病弱な弟を何より大事にしてたんだ。あいつが、弟を死なせるわけがない。
俺の気を引くために、こんな真似をしてるだけなんだろ?」
大家は哀れむように辰哉を見つめ、首を横に振った。それ以上は何も言わず、震える足取りで自分の部屋へ戻っていく。そして、静かにドアを閉める。
薄暗い廊下には、辰哉の荒い息遣いしか聞こえない。
私は冷ややかな目で、その姿を見つめる。
確かに、私は弟・杉本律希(すぎもと りつき)を何よりも大切にしていた。
心臓移植の費用を工面するため、学業もプライドも捨てた。そして、人として生きることすら、諦めた。
まるで忠実な飼い犬のように辰哉に付き従い、何を言われても、逆らわなかった。
遥香が私を気に入らないと知れば、言われる前に自分から姿を消した。
辰哉が不機嫌なときは、八つ当たりされながらも、必死に笑顔を作って耐えた。
すべては、律希を救ってやると辰哉が約束してくれたから。
しかし今、私も律希も、もうこの世にはいない。
それなのに辰哉は、私が死んで3年が経った今も、放火をした遥香の罪を私に被せようとしている。
これほど滑稽な話があるだろうか。
辰哉はその場に長く立ち尽くしていた。あまりにも長くて、廊下の人感センサーライトまで消えてしまう。
暗闇の中、スマホを取り出す。画面の冷たい光がその歪んだ顔を青白く照らし出した。
そして、どこかへ電話をかける。
「……俺だ。美夕と、その弟の律希が今どこにいるか調べろ。
そうだ。国内の病院を全部調べろ。出入国の記録もだ。どんな手を使っても、夜が明けるまでに、あいつらの居場所を突き止めろ!」
電話を切ると、辰哉は拳を壁に叩きつけた。
「美夕、絶対に見つけてやる。
死んだら、すべてが終わったと思うなよ」
階段を下りていくその背中を見つめながら、私の心は完全に冷え切っていた。
辰哉、あんたは間違っている。
死こそが、本当の始まりなのだから。
……
辰哉の車は夜の街を猛スピードで駆け抜け、やがて高級住宅街にある1軒の豪邸の前で急停車した。
辰哉の妹、遥香が暮らす家だ。
私はそのまま辰哉の後を追って屋敷の中へ入る。
リビングでは、遥香が落ち着かない様子で歩き回っている。辰哉の姿を見るやいなや、命綱にすがりつくように駆け寄る。
「お兄ちゃん!やっと帰ってきた!警察からまた電話があったの。もう一度、事情を聞きたいって!」
辰哉はジャケットをソファに放り投げ、険しい顔で言う。
「慌てるな」
遥香の目がたちまち潤む。
「慌てるに決まってるじゃない!あの火事で人が死んだのよ!もし私がやったってバレたら……」
「黙れ!」
辰哉は苛立たしげな目を向け、鋭い声で遥香の言葉を遮った。
「ちゃんと始末したんじゃなかったのか?どうして警察に目をつけられている?」
遥香は唇を噛み、恨めしそうに答える。
「そんなの知らないわよ!私はただ、あの女が目障りで、あいつのしょぼいギャラリーを燃やしてやりたかっただけだもん!
まさか、あの馬鹿な女が、ガキを助けるために火の中へ飛び込むなんて思わなかったのよ!」
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