死んだはずの夫には別の家族がいた第2話
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朔也の顔に驚きが走ったが、答えは返ってこなかった。
私も、それ以上は追及しなかった。
その夜は一睡もできず、何度も寝返りを打った。
これまで腑に落ちなかったことが、今になってすべてつながった。
湊人が事故に遭ったとき、私は彼の最期の姿すら見ていなかった。
遺品も何一つ残されていなかった。
事故があまりにもひどく、身元を確認できる状態ではなかったと聞かされただけだった。
知らせを受けた瞬間、私は気を失い、それ以上問いただす力も残っていなかった。
後日、事故現場へ行きたいと言うと、朔也に止められた。現場はすでに立ち入り禁止で、遺族でも近づけないのだと言われた。
母も、人が亡くなったのだから、今さら確かめて何になるのかと私を諭した。
葬儀も、遺骨ひとつないまま行われた。
翌日、私はおぼつかない足取りで、千紗が以前よく通っていた花屋へ向かった。
店主は私を覚えていて、「千紗さんの親友でしょう」と笑いかけてきた。
「昨日も、ご主人が千紗さんに花を注文していったんですよ」
胸が詰まったが、何気ないふりをして尋ねた。
「二人はよく花を注文するんですか?」
「最近はそうでもないけど、数年前まではよく使いの方が受け取りに来ていましたよ。お子さんが生まれた頃は特に多かったですね。ご主人も何度か取りに来ていました。千紗さんを大切にしているんでしょうね」
子どもが生まれた頃。
話を聞いているうちに、何度も目眩に襲われた。
家へ戻ると、朔也はすでに帰っていた。
キッチンではカレーが煮込まれ、テーブルには薬が用意されていた。
何もかも、これまでと変わらない。
まるで何一つ起きていないような穏やかさだった。
そのとき、彼のスマホが鳴った。
画面を確認した朔也は、電話を手にバルコニーへ向かった。
一瞬だけ、画面に表示された名前が見えた。
千紗。
息が止まり、心のどこかに残っていた最後の期待も砕けた。
もう迷わなかった。
彼が電話をしている隙に、私は家を出た。
今度こそ、自分の目で確かめたかった。
湊人が私をどのように裏切ったのか。
千紗が、どんな顔で私の居場所を奪っているのか。
店主から聞いた住所を頼りにマンションへ着くと、真っ先に目に入ったのは母だった。
両手に、ベビー用品が詰まった大きな袋を二つ提げていた。
管理人も、母を見るなり笑顔で会釈した。
その瞬間、ぎりぎりでつながっていた心の糸が、完全に切れた。
私は母のあとを追い、同じ階でエレベーターを降りた。
廊下は静まり返っていた。
母は慣れた様子でドアをノックした。
すぐに扉が開いた。
出てきたのは、湊人だった。
私はその場に立ち尽くし、息をすることさえ忘れた。
部屋着姿の湊人は、幼い女の子を抱いていた。
泣いたばかりなのか、頬が少し赤い。母を見ると手を伸ばし、幼い声で「おばあちゃん」と呼んだ。
耳の奥で激しい音が鳴り、体が動かなくなった。
母はすぐに子どもを抱き取り、あやしながら、熱は下がったのかと尋ねた。
湊人は母を中へ通し、手にしていた荷物を受け取った。
「千紗はさっき起きた。奥にいる」
その名を口にする声は、あまりにも自然だった。
ドアはすぐには閉まらなかった。
中のリビングが見えた。ソファには小さな毛布が掛かり、ローテーブルには哺乳瓶、床には積み木が散らばっていた。
どこから見ても、紛れもなく一つの家庭だった。
私が長い間望み続け、誰もがそれを知っていたのに、とうとう手に入れられなかったものだった。
奥から千紗が出てきて、母から子どもを抱き取った。
部屋着をまとい、髪を緩くまとめていた。顔にはまだ眠気が残っていた。
湊人は手を伸ばし、頬に落ちた髪を耳へかけてやった。
私はとっさに壁へ手をつき、どうにか倒れずに踏みとどまった。
以前、料理中に私の髪が落ちてきたときも、彼は同じように耳へかけてくれた。
冬にマフラーが乱れれば、立ち止まって整えてくれた。
私だけのものだと思っていた優しさが、今は別の女へ向けられていた。
それも、かつて一番信頼していた親友に。
母は子どもを抱いて腰を下ろし、満面の笑みで、今回持ってきた離乳食のことや、次は新しい服を買ってくるという話をしていた。
ベビーシッターがキッチンから出てきて、ご飯を温めるかと尋ねた。
湊人はコップに水を注ぎ、千紗は子どもに話しかけていた。
あまりにも隙のない、家族の光景だった。
ドアの外に立つ私だけが、そこにいてはならない人間のようだった。
涙がこぼれても、拭おうとは思わなかった。
背を向け、エレベーターへ向かった。
そのとき、スマホが鳴った。
朔也からだった。
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