死んだあと、法医学者である兄は私の遺体を繋ぎ合わせた第3話
この話は約1325字。当サイトで読める3話の試し読みのうち、最後の話です。続きの第4話からは公式アプリで読めます。
母の事件?
兄は、私のためにケーキを買いに行って、酔っ払い運転の車に轢かれたと説明していたはず。
どうして麻薬組織なんかと関わっているの。
私が信じられない気持ちで兄を見つめる。
「あり得る!こんな非道な真似ができるのは、あの連中のような人でなしだけだ」
兄の顔色が急に変わった。
「しまった!奈々がまだ一人で家にいる!」
兄は慌ててスマホを取り出した。
山下警部は周囲を見回し、言った。「お前たちもだ、家族に連絡を取れ!」
兄は何度も電話をかけたが、応答はない。
その手は震え、声も掠れていた。
「大丈夫だ、奈々に何か起きるはずがない!」
呟いたかと思うと、兄は出口へ駆け出した。
山下警部が兄の様子を見て叫ぶ。「止めろ」
「放せ!」
兄は必死に抵抗し、なんと三人の大柄な警官を押し倒してしまった。
「俺は妹を探しに行く。邪魔するな!」
目尻を赤く染め、兄は怒りに任せて全員を振り払った。
その必死な姿に、私は呆然と立ち尽くした。
母の事故のときでさえ、彼はここまで取り乱さなかったのに。
兄は、それほどまでに奈々を大切に思っているのだ。
胸が張り裂けそうに痛み、息が詰まる。
その時、兄のスマホが鳴り響いた。
「もしもし、お兄ちゃん?」
どこか眠たげな奈々の声が聞こえ、兄は大きく息を吐いて安堵した。
電話を切ると、周囲に向かって深々と頭を下げた。「ごめん、取り乱した」
冷静さを取り戻した兄の姿を見つめ、私は悲しみに打ちひしがれる。
私だって、彼の妹なのに。
どうして私の行方には目も向けてくれないの。
唇を噛みしめても、涙は止まらず頬を伝った。
そのとき、一人の刑事が入ってきた。「山下警部、また新たに人体組織が見つかりました」
その刑事が黒いビニール袋を解剖台に置く。
開けた瞬間、強烈な血の匂いと腐敗臭が広がり、誰もが顔をしかめた。
ただ一人、兄だけは平然としたまま、中の骨片や肉片を一つひとつ取り出していく。
6時間かけ、ようやく兄は手を止めて山下警部を見た。「これで被害者の遺体はほぼ揃ったはずだ」
「新しい発見は?」
山下警部が焦りを滲ませて問う。
兄の表情が険しくなる。「被害者は腎臓を一つ欠いている」
その言葉に、私は息を呑んだ。
腎臓?
私は失ってなどいない。その腎臓は、兄の体内にある。
あの時、兄が家系の遺伝で若くして腎不全になった。
兄を救うため、母に協力して、私はひそかに腎臓を差し出した。
真相を知った兄は狂ったように取り乱し、包丁を自分の首に突きつけて医者に「この腎臓を美知に返せ」と叫んだ。
私は膝をつき、頼み込んだ。「自分を傷つけないで。もしそんなことをするなら、私も一緒に死ぬ」
その言葉で兄はようやく刃物を落とし、私を抱きしめて声を上げて泣いた。「ごめん、美知、全部俺のせいだ。お前にこんな痛みを背負わせて。
麻酔の注射だって痛かったろう。腎臓を一つ失って、この先どうすればいいんだ」
それ以来、兄は私を過剰なほど大切に扱った。
あの頃が、私にとって一番幸せな日々だった。
兄……まだ覚えていてくれている?
だが次の瞬間、兄は何かを思い出したように顔色を失い、慌てふためいた。「そうだ、思い出した」
その声に、心臓は喉元まで跳ね上がる。
兄は気づいたのだろうか?解剖台の上に横たわるのが、この私だということに。
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