死んだあと、法医学者である兄は私の遺体を繋ぎ合わせた第1話
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母の命日の日、私は墓地に押し入ってきた密売人たちに連れ去られた。
法医学者である兄への報復のため、彼らは私の身体を血まみれになるまで痛めつけた。
私は必死に一週間耐え続け、ようやくの思いで兄に電話をかけた。
だが兄がこう言った。「どうしてお前を殺し損ねたんだ?母さんを死なせた人に、生きる資格なんてあるものか」
すぐさま密売人に見つかり、私は骨の一本残らず叩き折られた。
翌日、清掃員がゴミ箱の中からいくつもの袋を見つけた。中に詰め込まれていたのは私の身体だった。
兄は無残な遺体を自らの手で繋ぎ合わせた。だがこれが彼が憎んでやまない妹の身体だとは気づきもしなかった。
やがて密売人たちが逮捕されたとき、兄は狂った。
* * *
拷問の末に命を落としたあと、私、橋本美知(はしもと みち)の魂は兄の家へと戻ってきた。
三年が過ぎても、ここは記憶の中と何ひとつ変わらない。
私は一つひとつの部屋を歩き回り、兄の痕跡を探そうとした。
そのとき、兄と橋本奈々(はしもと なな)が帰ってきた。
「奈々、少し休んでいて。大好物の唐揚げを作ってあげる」
兄は甘やかすように奈々を寝室へ送り届けると、台所へと向かった。
その光景を目にした私は、胸の奥がひりつくように痛んだ。
昔は、兄も私にこんなふうに優しかった。
けれど母が亡くなってから、すべてが変わってしまった。
兄は「母さんを殺したのはお前だ。こんな不吉な妹はいらない」と言った。
私は必死に訴えた。母は奈々のためにケーキを買いに行ったのだと。
だが兄は聞き入れなかった。
薬物密売人の車にはねられたとき、母の腕に抱えられていたのはマンゴーケーキ。
そして奈々はマンゴーアレルギー。
そのせいで、兄は私を憎み、家から追い出した。
そればかりか、母の命日には毎年一週間、七日七晩土下座して罪を償えと命じた。
あの密売人たちが墓地に現れたのは、ちょうど母の命日の初日だった。
そして今、不意に兄のスマホが鳴った。
「栄太(えいた)、至急警察署へ!」
兄が警察署に着いたのは、すでに夜だった。
「また事件か?」
兄は横に立つ刑事課の山下(やました)警部を見やった。
「自分で確かめろ」
山下警部の顔は険しい。
兄は解剖台の上に置かれた黒いビニール袋を開いた。
血と腐敗臭が混じった匂いが一気に広がり、思わず眉をひそめる。
中にあったのは、暗赤色の肉片と砕けた骨のかけら。兄の顔色が一瞬で蒼白になり、袋に触れる手が震え出した。
「これは……まるで獣の仕業だ」
彼の声は低く、哀しみに満ちていた。
兄は手袋をはめ、袋から一つひとつの肉片と骨片を取り出した。
「なんて残酷な……」
兄の目は赤く充血し、怒りに震えていた。
その姿に、私はふと三年前を思い出した。あの時、兄も同じように目を真っ赤にして怒っていた。
家の玄関先で、私が必死に泣きながら追い出さないでと懇願したからだ。
思わず口元に苦い笑みが浮かんだ。
兄は肉片と骨を慎重に並べ、繋ぎ合わせていく。
二十時間ものあいだ、一瞬たりとも休まずに。
そしてようやく、私の身体を形に戻すことに成功した。
ただ頭部だけはなかった。
密売人たちが憂さ晴らしに、私の首を犬に食わせたのだ。
「うっ……」
その場にいたのは経験豊富な刑事や法医学者ばかりだったが、誰もが吐き気をこらえきれなかった。
私でさえ、解剖台に横たわる無残な身体を見て、胸が詰まる思いだった。
山下警部の顔は青ざめ、吐き捨てるように言った。「人間の所業じゃない!」
「人間以下だ」兄は全身を震わせながら怒りの声をあげた。「遺体の状態からすると、生きたまま骨を砕かれ、肉を削ぎ取られたとしか思えない。
歯も、眼も、爪まで全部抜かれている!」
その言葉に、全員の顔が一瞬で青ざめ、場の空気は一気に凍りついた。
だが私の胸には、わずかな誇らしさが灯った。
兄はさすが国内で最も名を知られた法医学者だ。この無惨な身体から、私の最期を言い当てたのだから。
「だが……」
兄の視線が暗く沈み、遺体の右腕へと移った。
私の心臓は一気に締めつけられるように強張った。
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