植物状態の夫が目覚めたら、離婚を求めた第2話
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部屋の中では言い争いがますます激しくなっていった。
「……もう連絡してくるな!」和成はそう言い捨てると、ドアを力強く開けて飛び出してきた。
あまりに突然のことで避ける間もなく、私は彼にぶつかって床にへたり込み、持っていた内服液剤をこぼしてしまった。
「羽純さん!大丈夫か?」
和成は私を起こすと、私が首を振るのを見て、重いため息をついた。
「辛いだろうけど、何かあったら俺に電話してくれ」
和成は振り返ることなく、足早に立ち去った。
部屋から出てきた亘は、私に視線を向けた。その瞳に一瞬だけ冷たい色がよぎり、すぐに取り繕うような焦燥が浮かんだ。
「羽純、どうしてここに?怪我はないか?部屋で待っててくれと言っただろう」
差し伸べられた手を、私は拒んだ。彼は気まずそうにその場に立ち尽くしている。
――もしここへ来なければ、彼の優しさがすべて、佳純を守り抜き、私に離婚を承諾させるための演技だと気づかないだろう。
「佳純から電話よ。早く帰ってきてほしいって」
「そうか、わかった」
佳純の名前が出た途端、亘は私への追及をやめた。その瞳には、隠しきれないほどの喜びが滲んでいる。
針で刺されたような痛みが、一瞬胸を走った。その痛みは、実家のドアをくぐった瞬間、さらに深く鋭いものへと変わった。
佳純は甘えるように、亘の胸に飛び込んだ。
彼は拒むことなく彼女を受け入れ、ポケットからオークションで約二億円で落札された水色のネックレスを取り出し、彼女に贈った。
佳純は喜んでそれを身につけると、勝ち誇ったような笑みを私に向けた。
「お姉さん、お義兄さんからこんなに高価なものをもらったけど……気にしないよね?」
「ええ、気にしないわ。そのネックレス、名前はあまり良くないけれど、モチーフは素敵ね」
ネックレスの名前は「綺麗な月」。それを贈ることは、すなわち「月が綺麗ですね」という想いを伝えることに等しい。
二億円という価格には、品物自体の価値だけでなく、その背後にある物語も含まれている。
――義理の妹に贈る愛の証を、ここまで大々的に示すとは、なんと一途なことだ。
振り返ってみると、亘がこれまでに贈ったジュエリーは、どれもモチーフを持つものばかりだった。
恋に溺れた私は、彼が五年間看病してくれたのは佳純だと勘違いし、その感謝で贈っているのだと本気で信じ込んでいた。
無意識に、自嘲気味の笑みがこぼれた。
――私が捧げた五年間は、一体何だったのだろうか。
「いい加減にしろ。たかがネックレス一本で、そこまで妹を皮肉る必要があるのか?」
父の長次郎は顔を曇らせた。私が何も言わなくても、彼は私が佳純をいじめていると決めつけている。
「佳純、相手はお義兄さんよ。そんなにベタベタしてどうするの?お姉さんは早くに実の母を亡くしてるんだから、あなたが譲ってあげなきゃダメよ。
羽純ちゃん、怒らないでね。お母さんはいつだってあなたの味方よ。実の娘の佳純よりも、あなたのことを大切に思ってるんだから。
たとえあの時の婚約者が佳純だったとしても、あなたが嫁いだ以上、佳純にもそれをわきまえさせるからね!」
継母の越路智里(こしじ ちさと)は、私が幼い頃からずっとそうだ。私を庇っているように見えるが、実際には言葉の端々で私を陥れようとしている。
彼女が佳純に目配せをすると、佳純はすぐにネックレスを外して亘に返そうとした。上目遣いのその瞳には、言いようのない怯えと悲しみが宿っている。
「お姉さん、怒らないで。もうプレゼントなんていらない。お義兄さん、これを返すよ」
「お義兄さん」という呼びかけは、とても艶やかな響きを持っている。
亘の顔は瞬時に険しくなった。私に向ける眼差しは、先ほどの優しさが嘘のように冷酷で鋭い。
「金杉羽純(かなすぎ はすみ)、お前というやつは……甘やかされすぎだ!金杉家に嫁いだ以上、そのわがままなお姫様気質はいい加減に捨てたらどうだ!
佳純は五年間も俺を支えてくれた。妻であるお前こそ、彼女に感謝すべきだろう。今すぐ佳純に謝って、ネックレスを彼女に返せ!」
――「甘やかされすぎた」って?
実母の越路恵(こしじ めぐみ)が亡くなってからというもの、「甘やかされる」という言葉は、私の辞書にない。
もし本当にこの家族が私のことを大切に思っているのなら。
亘が意識を失った時、私は後ろ手に縛られ、佳純の身代わりとして金杉家に放り込まれることなどなかったはずだ。
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