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植物状態の夫が目覚めたら、離婚を求めた第1話

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植物状態となった夫、金杉亘(かなすぎ わたる)を支えて五年。私は甲斐甲斐しく尽くし、あらゆる苦労を乗り越えてきた。

しかし、彼が目を覚ましたその日に贈ったのは、私の妹への何億円ものジュエリーと、溢れんばかりの愛の告白だ。

――これは何かの間違いだ。そう信じたい。

根気よく説明すれば、この五年間にわたって彼を支え続けてきたのは私なのだと、きっと分かってもらえるはず。

そう思っていたのに、彼の親友との会話を耳にするまでは。

「亘、この五年間お前を支えてきたのは羽純さんだって分かってるんだろ?なぜ彼女を裏切るんだ?少しも情はないのか?」

「もう何年も俺の妻でいたんだ、彼女もそれで満足だろう。俺が愛してるのは、いつだって佳純だ。羽純には申し訳ないと思ってる。もし彼女が本当に傷つくのなら、金杉グループの株を5%譲ってもいい」

扉一枚を隔てた廊下で、私は涙をこぼした。

――彼は最初から知っていたのだ。彼を介護していたのが私であることを。

ただ、私を愛していないだけだ。

それならば、若かりし頃の自分のためにも、最後の一度だけ彼に道を譲ろう。

これからは、お互いに他人となり、二度と会うこともないだろう。

* * *

植物状態となった夫、金杉亘(かなすぎ わたる)を支えて五年。私は甲斐甲斐しく尽くし、あらゆる苦労を乗り越えてきた。

しかし、彼が目を覚ましたその日に贈ったのは、私の妹への何億円ものジュエリーと、溢れんばかりの愛の告白だ。

――これは何かの間違いだ。そう信じたい。

根気よく説明すれば、この五年間にわたって彼を支え続けてきたのは私なのだと、きっと分かってもらえるはず。

そう思っていたのに、彼の親友との会話を耳にするまでは。

「亘、この五年間お前を支えてきたのは羽純さんだって分かってるんだろ?なぜ彼女を裏切るんだ?少しも情はないのか?」

「もう何年も俺の妻でいたんだ、彼女もそれで満足だろう。俺が愛してるのは、いつだって佳純だ。羽純には申し訳ないと思ってる。もし彼女が本当に傷つくのなら、金杉グループの株を5%譲ってもいい」

扉一枚を隔てた廊下で、私は涙をこぼした。

――彼は最初から知っていたのだ。彼を介護していたのが私であることを。

ただ、私を愛していないだけだ。

それならば、若かりし頃の自分のためにも、最後の一度だけ彼に道を譲ろう。

これからは、お互いに他人となり、二度と会うこともないだろう。

書斎の外で、内服液剤が入った器を持つ指先が白く強ばっている。

亘の言葉の一つひとつが重く響き、ズタズタになった私の心に、汚れて湿った雑巾を押し付けられたかのようだ。

重苦しく、息が詰まるほどの痛みの中で、意識だけが残酷に冴えわたっていく。

「意識がなかった五年間、嫁いできたのが佳純じゃなくて本当によかった。彼女は優しい性格だし、母さんは気が強い。きっと佳純なら耐えられなかったはずだ。

植物状態になった当時は、彼女を引き留められなかった。でも、これからの人生、もう二度と彼女を裏切りたくないんだ」

ドン!

亘の親友である岩辺和成(いわべ かずなり)は、昔から血の気が多い。

「自分が何を言ってるか分かってるのか?用が済んだら切り捨ててもいいと言うのか!まじで最低で勝手だな!

羽純さんが五年間もお前を支え続ける姿を、俺たちは見てきた。あんなにできた女性はいない。

それに比べて、あの佳純はどうだ?当時はわがまま放題で、お前が植物状態になった原因を作っておきながら、さっさと逃げ出したじゃないか!

目覚めた後も、お前が義理の兄だと知りながら思わせぶりな態度を取りやがって。そんな女のために、お前を心から愛する女性を傷つけるのか?お前にプライドはないのか!」

「和成、愛は強いるものじゃない。羽純と結婚したこと自体、俺の本意じゃなかった。できることなら、彼女とは出会いたくもなかった。

それに、俺のせいで佳純の評判を傷つけてしまったから、いずれ彼女を正式に妻にしないと」

部屋の中は静まり返っている。

しばらくして、和成は苦々しげに声を絞り出した。

「……じゃあ、羽純さんはどうするんだ?佳純と愛し合ってるなら、なぜすぐに離婚して羽純さんを自由にしてやらないんだ?」

「何だかんだ言っても、羽純は五年間も俺の看病をしてくれた。今、彼女を刺激して騒ぎ立てられたら、佳純にとって良くない。

和成、俺はただ佳純を愛しすぎてるだけだ。最高のものをすべて彼女に与えたい。

羽純には申し訳ないが、時間をかけて離婚を進めるつもりだ。彼女をあまり悲しませないように、離婚後の補償は金杉家として望むままに与えるんだ」

そこまで聞いた時、私は立っていられなくなった。精一杯の力を振り絞り、ようやく手の中の器を支えた。

けれど、胸を締め付けるような激しい痛みが抑えきれず、喉元までこみ上げてきた。

――この五年間の屈辱はすべて、最後には「本意じゃなかった」という一言で片付けられた。

越路佳純(こしじ かすみ)が彼と浮名を流しただけで「評判を傷つけてしまった」というのなら、彼に嫁いで五年の歳月を捧げてきた私はどうなるのか。

「愛は強いるものじゃない」という一言で、すべてを消し去ることができるのか。

私は一歩、また一歩と後退した。脳裏には、走馬灯のようにこの数年間の出来事が次々と駆け巡った。

もともと亘と婚約していたのは、血の繋がらない妹の佳純だった。

しかし、亘が事故で植物状態になったため、苦労を嫌った佳純は結婚を拒んだ。父の越路長次郎(こしじ ちょうじろう)も金杉家との縁を切るわけにはいかず、私を身代わりとして嫁がせたのだ。

五年間、義理の母・金杉雅子(かなすぎ まさこ)からどれほど理不尽な仕打ちを受けても、私は耐え抜いてきた。

その間、何度も危篤に陥った亘を、私は寝る間も惜しんで看病した。それは妻としての責任であり、何より、かつて私がいじめに遭っていた際に傘を差し伸べてくれた彼への恩返しでもあった。

ついに、彼に少しずつ反応が見られるようになった。雅子が私を罵る時、彼は私の手をぎゅっと握ってくれた。

私がニュースや物語を読み聞かせると、彼の口角がわずかに上がった。

最後には、私の介助だけを受け入れるようになり、他の人が近づくと眉をひそめるようになった。

その一つひとつの反応に、私は「この五年間の看病で、ついに彼の心の中に私の居場所ができたのだ」と信じ込んでいた。

目覚めた時、亘は私に誓ったはずだ。「お前が俺の妻になったのだから、一生お前だけを妻として認める」と。

私はその言葉を心から信じていた。たとえ彼が「妹なんだから譲ってやってくれ」と言い、佳純に何億円ものジュエリーを贈ったとしても。

「ただ感謝のためだ」という彼の言い訳を、私はすべて信じていた。

彼は、病床での出来事を覚えていないだけだと思っていた。

けれど、彼はすべてを覚えている。すべてを知っているのだ。

ただ、私を愛していないだけだ。

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