植物状態の夫が目覚めたら、離婚を求めた第3話
この話は約2106字。当サイトで読める3話の試し読みのうち、最後の話です。続きの第4話からは公式アプリで読めます。
彼らが一丸となって私を責め立てる姿を見て、ようやく悟った。私はずっと、この家のよそ者なのだ。
長次郎と智里にとっても、そして亘と佳純にとっても。
この家で、たった一人、私は余計な存在だ。
私がどれほど尽くしてきたかを知りながら、彼らは幾度となく、私の真心と愛を泥のように踏みにじってきた。
彼らが愛しているのは佳純であり、私は彼らの目に映る、目障りな石ころに過ぎない。
それならば、私は身を引こう。永遠に、この場所を去る。
――亘、望み通りにしてあげるわ。もう私を騙す必要はない。あなたを自由にしてあげる。
熱い涙を喉の奥に飲み込み、私は静かに謝罪の言葉を口にした。
「佳純、ごめんね。そのネックレスは、最初からあなたにこそふさわしいものなの。
私はお母さんの墓参りに行ってくる」
――亘、あなたへの恩はすべて返し終えた。これが、私からあなたへの最後の譲歩よ。
背を向けて立ち去る私の胸は焼けるように痛み、手足は感覚を失うほど氷のように冷え切っている。
心臓の鼓動だけが、太鼓のように激しく私を打ち据えている。
「羽純!」
亘の大きな声が響いたが、私は二度と振り返らなかった。
去りゆく私の後ろ姿を見送りながら、彼は説明のつかない不安に一瞬襲われた。
その寂しげな背中に、彼は思わず駆け寄り、引き留めたい衝動に駆られた。
しかし、佳純に腕を掴まれただけで、その一瞬の動揺は霧散してしまった。
一家が睦まじく、佳純の婚約について語り合っているその頃、私は恵の墓前で弁護士の角誠(すみ まこと)に電話をかけている。
「もしもし、金杉羽純です。離婚届と離婚協議書の準備をお願いします。それから、私の身分情報をすべて抹消する手続きも進めてください」
電話を切った後、私は別の番号にかけた。
「もしもし。七日後に、私の偽装死を手配してもらえますか?」
七日後、私は亘の世界から永遠に姿を消す。
すべての手続きを終え、家に戻った頃には、すでに深夜になっている。
広い一軒家の中には、誰の気配もない。
一日中、亘からは一通のメッセージも届かなかった。彼が佳純と一緒にいる時は、いつもそうだ。
――これほどあからさまな無関心に、なぜ今まで気づかなかったのだろうか。
私の荷物は多くない。金杉家に来てからは、さらに少なくなった。片付けを終えても、小さなスーツケース一つに収まる程度だ。
身の回りの品は郵送で送り出した。残っているのは、私が亘のために買い揃えたものばかりだ。
――あんなに私を嫌っている彼のことだから、私の残したものなど欲しがるはずもないだろう。
私はそれらを一つ一つ粉々に砕き、火の中へ投げ入れた。
揺らめく炎を見つめながら、五年間住んだ家を見渡した。
そこにはもう、私の痕跡が一つも残っていない。
……
亘が帰宅したのは、翌日の夜だ。
私は書斎で原稿の仕上げに取りかかっている。
三日後のコンクールは私にとって非常に重要で、憧れの会社に入社できるかどうかがかかっている。
亘が入ってきたことにも気づかないほど、私は集中している。
むしろ彼の方が、私の後ろで長い間立ち尽くしていて、やっと口を開いた。
「お前は母親の墓参りの後、なぜ実家に戻らなかったんだ?お義父さんとお義母さんがどれほど心配してたか、わかってるのか?」
突然声をかけられ、私は驚いた。
画筆を置き、問い詰めるような彼の表情を見つめると、笑いがこみ上げてきた。
――彼が「お義母さん」と呼んでいるのは、私の実母ではなく継母だなんて。
それもそうね。彼が結婚したかった相手は、最初から私ではないのだから。
「あちらの邪魔はしなかったでしょう?これからも、あなたたちの邪魔をするつもりはないわ」
私が少し皮肉を込めて言うと、亘の顔色が変わった。
かつて私を夢中にさせたその優しさと気遣いが、今では鳥肌が立つほど不気味に感じられる。
「羽純、お前が実家に戻らなかったのは、俺のこと誤解してたから?昨日はお前を責めたかったわけじゃない。ただ、佳純は俺の命の恩人なんだ。俺たちは彼女を大切にすべきだろう?」
彼は知っている。私が彼の甘い言葉に弱いことを。私が怒っていても、抱きしめられればすぐに機嫌が直ることを。
けれど今回、私の視線は彼の襟元に釘付けになった。そこには一本の茶色い長い髪が付いている。
漂ってくるレディース香水の香りに、吐き気を催した。
――昨夜、彼は佳純と寝たに違いない。夫と妹が私の実家で。彼らはそれほどまでに待ちきれなかったのか。
胃の底からこみ上げる不快感に耐えていると、ちょうどその時、スマホが鳴った。
私は力強く亘を押しのけ、外へ飛び出した。
スマホに誠からのメッセージが届いた。
【金杉様、ご指示のとおりすべて完了いたしました。六日後に金杉様の身分情報は完全に抹消されます。新生活が幸多きものとなりますよう】
「何を申し込んだんだ?なぜ身分情報を消すんだ?六日後に何をするつもりだ!」
亘が突然私の肩を掴み、その表情は必死だ。
彼の焦燥感がどこから来るのか、私には分からない。
私は慌ててスマホの画面を消した。
「ゲームのアカウントのことよ。もう遊び続ける気になれなくて。
そうだわ。六日後にあなたへのサプライズを用意してるから、楽しみにしててね」
縦書き表示中:本文は右から左へスクロールします(← → キーでも移動できます)
第4話は公式アプリで
当サイトでの試し読みはここまでです。アプリをインストールし、下のアプリ用コードを入力すると、この作品の第4話からそのまま読み進められます。
R69245- 下のボタンから公式アプリをインストールします(無料)。
- アプリを開き、「コードを入力」にこのコードを入れると、この作品が本棚に入ります。
作品ページへ戻る 当サイトに掲載しているのは試し読みの章だけです。