柳散って人去りて第1話
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夫を助けようとして両足が不自由になった私に、彼は深く心を打たれ、自ら結婚を申し出た。結婚後も「愛」という名のもとに、ささやかに私を支えてくれた。けれど、その思いは時が経つにつれて薄れていき、罪悪感に縛られたくない彼は、会社の社員と関係を持ち、子どもまで作ってしまった。
彼女は正妻の座を狙って裏でさまざまな手を使い、私は嘘と屈辱の中で生きるのがつらくなり、別れを決意した。
ところが愛人の企みを見抜いた夫は言った――「一生離婚なんてあり得ない」と。
* * *
雪が降っていた。
藤原美咲(ふじわら みさき)は車椅子を窓辺に寄せ、手を伸ばして雪のひとひらを受け止めた。雪はまだ溶けきらないのに、彼女は寒さで思わずくしゃみをした。
音に気づいた藤原恭介(ふじわら きょうすけ)が、慌ててキッチンから駆け出してきた。「どうした?」
彼は窓を閉めて冷気を遮り、ソファから毛布を持ってきて彼女の足に掛けた。しゃがみ込み、毛布の中に手を差し入れて、美咲の手を温める。その手は乾いていたが、心地よくあたたかい。
「どうして窓辺に座ってるんだ。風邪ひくぞ」
美咲はじっと彼の目を見つめた。その瞳は昔と変わらず澄んでいて、やさしさが含まれていた。
「お腹すいただろ。もう少しでできるからな」
彼女は無理に笑みを作ってうなずき、早く行ってと目で合図した。
恭介は少し気がかりそうにキッチンへ戻り、手慣れた様子で生地をこねていた。粉が少し鼻先に付いて、なんとも滑稽に見えた。
外には雪が積もり始め、室内は暖房でぬくもりに包まれていた。穏やかで何不自由ない時間が流れているように見えた。
けれど美咲の胸の内は、キッチンから立ちのぼる湯気のように、苦しみに煮え立っていた。
彼女は声にする勇気さえなかった――あの女は誰?なぜ夫にあんなメッセージを送れるの?
【恭介くん、外で試してみない?想像するだけでゾクゾクする。】
あの言葉を思い出すたび、目の前で優しさを装う夫が、まるで彼女を真っ二つに引き裂くように痛みをもたらした。
彼女はただ、毛布の下で細くやせ細った両手を必死に握りしめ、力の入らない足を掴むしかなかった。
役立たずで惨めな自分が、夫の見せかけの愛情にすがりついている――それが情けなくてたまらなかった。
やがてラーメンができあがった。美咲は目の前の熱々の椀を、上の空でかき混ぜていた。
恭介が額に触れる。「体調悪いのか?前は何杯でもぺろりと食べてたのに。今日はどうした?口に合わない?」
そんなはずはない。彼女がラーメンが好きなのを知って、豚骨ラーメン、味噌ラーメン……ありとあらゆるラーメンを作ってくれる。大手会社の社長なのに面倒がることなく、自分の手でこねて、何度でも作ってくれるのだ。
美咲は話題をそらすように言った。「さっき、スマホに通知があったよ。社員の人が明日の登山のこと聞いてるみたい」
恭介はいつも彼女に警戒心を見せない。彼女が人のスマホを勝手に覗くはずがないと信じ切っていて、パスワードもかけていない。
彼女だって探る気などなかった。ただ物を取ろうとして偶然スマホを倒し、その画面にあの生々しいメッセージが表示されたのだ。見なければ、ずっと何も知らないままだっただろう。
恭介は一瞬だけ固まったが、すぐに落ち着きを取り戻した。「俺のスマホ、見たのか?」
「ちょうど通知が出ただけ。開いてはない」
彼は安堵の笑みを浮かべた。「会社の週末のレクリエーションさ。みんなで山登りして、体を動かしながら同僚同士の仲を深めるんだ」
同僚との仲を深める?
半分は信じたい気持ちがあった。あれほど自分を大切にしてくれる夫が、そんな裏切りをするなんて信じられない。
でももう半分は、目の前のラーメンも夫の笑顔も吐き気がするほど嫌悪を覚えた。自分には愛を装いながら、裏では別の女と寝ている。
「山登りか……私も行きたいな。もう長いこと外に出てないし」
彼女の言葉に、恭介は彼女の足を見て、何かを言いかけて口をつぐんだ。
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