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朝露のように、かすかな光を待ってる第2話

この話は約1730字。当サイトでは第1〜3話を試し読みできます。

美礼は生まれながらにして月城家の令嬢だった。

幼い頃から厳格に育てられ、あらゆる教養において秀でており、誰の目にも「完璧な名家の淑女」と映っていた。

だが――それがどれほど息苦しいものかを知っているのは、彼女自身だけだった。

起床の時間も、ピアノの練習時間も、読書の時間も。さらには笑うとき、口元をどれだけの角度で上げるかまで、すべて決められていた。

彼女はまるで丹念に磨き上げられた陶器人形のようだった。美しく、完璧で――けれど、魂がない。

そんな彼女の前に現れたのが、祐だった。

南山市で最も名の知れた放蕩者。スピード違反まがいの走りも、喧嘩も、エクストリームスポーツまで何でもこなす男だった。

自由奔放で、型にはまらず、何者にも縛られない風のような男。

彼女が初めて彼を見たのは、両家の集まりの席だった。

彼は一時間も遅れて、バイクで轟音を響かせながら現れた。

ヘルメットを外すと、風にかき乱されたままの、それでも目を奪うほど整った顔が現れる。

彼は周囲に向かってにやりと笑い、「渋滞しててさ」と軽く言い放ち、そのまま無造作に席へ座ると、妙に人を惹きつける目で彼女を一瞥し、顎で軽く合図を送った。

その夜、美礼は眠れなかった。

あんな人を、自分は見たことがなかった。

彼の全身から「自由」が溢れているようで、一方で自分は、豪華な檻に閉じ込められたまま、羽ばたくことすら許されない鳥だった。

両家に婚約があると知った日、彼女は一晩中眠れないほど嬉しかった。

――だが、祐は美礼を嫌っていた。

初対面の時から、ずっと。

彼は彼女を「取り繕っている」と言い、「つまらない」と言い、「まるで波一つ立たない水面みたいだ」とさえ言った。

やがて彼は、雫を好きになった。

奨学金で通っている雫に向ける眼差しは、今にも溶けてしまいそうなほど優しかった。

祐は何度も婚約解消を試みたが、うまくいかなかった。

結局、開き直るしかなく、名ばかりの婚約関係を保ちながら、結婚の話は先延ばしにし続けた。

美礼が嫌がることを、彼はむしろ意地になってやり続けた。

雫を連れて堂々と街を歩き、婚約者である美礼の面目を潰した。

美礼は仕方なく、毎日のように彼の後を追い、口出しし、止めに入った。

まるで鬱陶しい追っかけのように。

それでも――

いつかは彼が気づいてくれると信じていた。

自分はつまらない人間なんかじゃない。ただ、不器用なだけなのだと。

けれど一年、また一年と過ぎても、彼が振り向くことはなかった。

心がすっかり冷え切るまで待っても、彼は一度も自分を見ようとしなかった。

だが一週間前、すべてが変わった。

美礼は両親に呼び出され、人生を覆す真実を告げられた。

彼女は、月城家の娘ではない。

当時、病院で取り違えられ、本当の令嬢は別にいるのだと。

両親の表情は複雑だった。

申し訳なさ、戸惑い――だがそれ以上に、どこか安堵したような解放感があった。

「美礼、受け入れがたいのは分かっているが」美礼の父・月城隆一(つきしろ りゅういち)の声は低く重かった。「だが由奈(ゆな)は外でずいぶん苦労してきた。私たちは彼女に償いたい。彼女は月末には帰ってくる……だからお前には、出て行ってほしい」

美礼は長い沈黙のあと、ただ一つだけ尋ねた。「……木野家との婚約は?」

母の月城恵美(つきしろ えみ)は美礼を一瞥し、顔をそらした。

「それはもともと両家の取り決めよ。取り違えだった以上、その婚約も……本来の娘のものになるのが筋でしょう。

あなたにはここを出て、祐とも、完全に縁を切ってほしい。両家の結婚式はすぐにでも進めるわ。その時も、あなたは来なくていい」

その瞬間、美礼は自分の中で何かが完全に砕け散る音を聞いた。

それでも彼女は何も言わず、ただ静かに頷いた。

これまで、どれだけ努力しても祐に好かれることはなかった。

もう疲れていた。

長年「名家の令嬢」を演じ続けるのも、限界だった。

すべてが自分のものではなかったのなら、何もいらない。

ただ一つ、取り戻したいものがあった。祖母が生前にくれた、あのお守り。

それだけが、この世界で美礼に残された、最後の「自分のもの」だった。

美礼の意識は次第に遠のいていく。

遠くから近づいてくる救急車のサイレンが聞こえる。

彼女は、静かに目を閉じた。

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