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月はかつて、君を想う第2話

この話は約2623字。当サイトでは第1〜3話を試し読みできます。

ステージの上では、二人が上質なスーツとドレスに身を包んでいる。

フラッシュと優雅なピアノの旋律に包まれ、その姿はまるでドラマの主役カップルのようにお似合いだ。

それに引き換え、私は長旅の疲れがにじみ出て、顔には倦みが残る。

壇下に立てば、まるで幸せな式をぶち壊しに来た悪役のように見える。

その場での押し問答が、さらに招待客たちの視線を集める。

やがて、ひそひそ声が耳に入ってくる。

「瀬戸汐里(せと しおり)ってどういうつもり?普段から実績がいいのをいいことに、社長に距離近すぎるのもどうかと思ってたけど、ついにプロポーズの場まで来るなんて……」

「ほんとよ。須藤さんが優しすぎるんだよね、あんなに長く張り付かれても我慢してるなんて」

「どうせまた辞めるとか言って社長に何か迫ってるんでしょ……」

嘲り混じりの言葉が、曲の合間に私の耳へ流れ込む。

社員たちが裏でこんなふうに私を見ていたなんて、初めて知る。

思えば当然かもしれない。遥香は入社以来ずっと慎也の秘書。

私はプロジェクトのため全国を飛び回り、会社に戻るのはせいぜい数日。

普段の彼の生活も私が管理しているが、私が不在の間は心配で、身の回りのことを遥香に任せてきた。

だからこそ、二人が付き合っていると思われているのだろう。

けれど胸がえぐられるのは、以前社員の一人が私と慎也の関係を疑った時のこと。

彼は激怒し、その社員を降格処分にし、給与停止まで行い、全社に通達して厳しく叱責した。再び同じことがあれば解雇だとまで言い渡した。

今耳にする噂からは、皆がすでに二人を恋人同士と見なしているのが分かる。

オフィスに常にいる慎也が、それに気づかないはずがない。

目を閉じると、先ほど遥香に指輪をはめた時の、あの幸せそうな笑顔が浮かぶ。

その瞬間、すべてが腑に落ちる。

彼は社員たちの誤解を知っている。むしろ、それを楽しんでいる。

そしてあの笑顔と、遥香を守ろうとする必死さは、私が一度も向けられたことのないもの。

入籍した日でさえ、彼は私の隣で無表情のまま、喜びの色など欠片も見せなかった。

ぼんやりしている私を見て、慎也は腕を引き、不機嫌そうに言う。

「……遥香に経営を学ばせたのは、会社で役に立ってもらうためだろ。連れ戻されたら、これまでの投資が無駄になる。

汐里、俺だって損失を抑えたいだけだ。落ち着いて考えろ、感情的になるな」

結婚して数年、彼が私を「汐里」と呼ぶことはほとんどない。

夫婦の営みにも、名字で呼ばれるだけ。

それが今日は、遥香のためにその呼び方を口にする。

取り繕ったような顔を見て、私が思わず笑ってしまう。

「何がおかしい?」

はっきり答えない私に、彼は眉を寄せ、警戒するような目を向ける。

その一瞬で、私はむしろ完全に冷静になる。

軽く息を吐き、これまで一生言うことはないと思っていた言葉を口にする。

「慎也、離婚しましょう」

言葉が落ちた瞬間、ピアノの音もぴたりと止まる。

「どういうつもりだ!こんなことで拗ねてるのか?」

静まり返った空間に、彼の怒声が響く。

私は言い争う気もなく、手を振りほどいてそのまま歩き出す。

彼はすぐ追いかけてくるが、口を開く前に、背後から震える声が彼の名を呼ぶ。

足を止め、ステージに一人残された遥香を見る。しばらく迷った末、私の背中を一度見やり、結局彼女の方へ向かっていく。

足音が遠ざかるにつれ、最後の期待も完全に消える。

私は自嘲気味に笑い、その場を後にしてタクシーを拾う。

家に戻っても休まず、わずかな荷物をまとめ始める。

長年一緒にいながら、私の持ち物は仕事用のスーツが数着と腕時計二本、簡単な化粧品だけ。

二人の関係を証明するものも、婚姻届受理証明書と、告白が成功した日に無理やり撮った写真しかない。

八年という時間が、二十四インチのスーツケース三つに収まる。

ソファに腰を下ろし、弁護士に連絡しようとした時、クッションの下に冷たい感触を覚える。

見れば、それはシャネルの口紅。

考える間もなく、慎也から電話がかかってくる。

反射的に出ると、彼は淡々と告げる。

「遥香が風に当たって少し体調を崩した。今から病院に連れていく。成林建設の中村社長との森ホテルでの打ち合わせは、お前が代わりに行け。

瀬戸、その案件を取ってくれたら、離婚の話はなかったことにしてやる」

恩を着せるような口調に、胸の冷えが増す。

以前はまだ形だけでも気遣う素振りがあった。

今は遥香の体調ばかり気にして、私はフランスから帰ったばかりで何日も休んでいないことなど、まるで頭にない。

しかも成林建設の中村社長は、業界でも有名な酒好きで女好き。

かつて何度も遥香に好意を示し、一晩付き合えば契約するとほのめかしていた。

それを知った私は激しく怒り、慎也に彼女を守るよう強く言った。

彼は眉をひそめて言い放つ。「これまで会社は遥香の支援に多額の費用を投じてきた。彼女も会社の一員である以上、会社のために力を尽くし、これまでの育成に報いるのが当然だろう。

成林建設プロジェクトは利益が大きい。これさえ手に入れれば、会社は向こう一年安泰だ。瀬戸、あまり正義の味方を気取って、感情的になるな」

私は激怒して言い争い、大きな口論になる。

それ以来、彼はこの話題を出さなくなる。私はてっきり諦めたのだと思っていた。

だが実際には諦めていないどころか、今度は私を差し出そうとしている。

私は思わず冷笑が漏れる。「自分の妻を餌にするなんて、本当にやることが徹底してるわね」

反発を感じ取ったのか、彼は説得を続ける。

「考えすぎだ。もう話はほとんどまとまってる。今日は契約するだけだ。

それに遥香は契約に弱い。お前は得意だろう。だから任せる」

さらに念押しするように言う。

「うまくいけば手柄は半分お前にやる。副社長に昇進させてもいい」

創業から今まで七年、会社の価値は億単位になっても、私はまだちっぽけなプロジェクトリーダー。

副社長という餌も、これが初めてではない。

だが今回は、断らない。

「分かった。時間通りに行く」

安堵した彼は、機嫌よく私を褒める。

私は軽く鼻で笑い、通話を切ると、口紅をゴミ箱へ放り込む。

ウェットティッシュで手を拭き、連絡先の中から名前のない番号を見つけて発信する。

「宇佐美社長、御社は副社長を探していると聞きました。フランス・マルセイユと成林建設の新規案件、私の実績として十分でしょうか」

誰かの空約束を待つより、自分で掴む方が早い。

彼が情を捨てるなら、私も遠慮なく自分を優先するだけ。

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