月はかつて、君を想う第1話
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会社の海外重要プロジェクトを勝ち取ったその日、社長である夫・橘慎也(たちばな しんや)は私に盛大な結婚式をプレゼントすると言う。
私は嬉しさのあまり涙があふれる。恋愛五年、極秘結婚三年を経て、ようやく私の存在を公にしてくれるのだと思う。
その夜のうちに飛行機で帰国するが、目に飛び込んできたのは、豪華な式場で彼が女性秘書に甘くプロポーズし、成功している光景。
夜空を埋め尽くす花火の下で、二人は指輪を交換し、幸せそうに抱き合っている。
長旅のまま立ち尽くす私を見て、行き交う招待客たちの目には面白がる色が浮かぶ。
誰もが私が騒ぎ出すと思っている中、私は冷ややかに笑い、先に拍手する。
「お似合いの二人ね。入籍はいつにするの?お祝いを用意しなきゃ」
私の口調に棘を感じ取ったのか、須藤遥香(すどう はるか)は一瞬で目を真っ赤にして涙ぐむ。
慎也は彼女を庇うように背後へ引き寄せ、低い声で私を叱る。
「遥香はろくでもない伯父に、知的障害のある男との結婚を強要されている。俺たちは何年も支援して、やっとここまで育てたんだ。本当に田舎に戻してそんな相手に嫁がせるつもりか?
それにこれはただの式だ。本当に結婚するわけじゃない。お前とはもう入籍しているんだ、これでも不安なのか?」
騒ぎになるのを恐れているのか、彼は私の手首を掴み、声をやわらげる。
「安心しろ。半年後には破局を発表する。その時に俺たちの関係も公にする。いいだろ?」
これまで何年も待ってきた。けれど今回は、もう待つ気になれない。
彼の手を振り払い、背を向ける。「結構よ」
* * *
会社の海外重要プロジェクトを勝ち取ったその日、社長である夫・橘慎也(たちばな しんや)は私に盛大な結婚式をプレゼントすると言う。
私は嬉しさのあまり涙があふれる。恋愛五年、極秘結婚三年を経て、ようやく私の存在を公にしてくれるのだと思う。
その夜のうちに飛行機で帰国するが、目に飛び込んできたのは、豪華な式場で彼が女性秘書に甘くプロポーズし、成功している光景。
夜空を埋め尽くす花火の下で、二人は指輪を交換し、幸せそうに抱き合っている。
長旅のまま立ち尽くす私を見て、行き交う招待客たちの目には面白がる色が浮かぶ。
誰もが私が騒ぎ出すと思っている中、私は冷ややかに笑い、先に拍手する。
「お似合いの二人ね。入籍はいつにするの?お祝いを用意しなきゃ」
私の口調に棘を感じ取ったのか、須藤遥香(すどう はるか)は一瞬で目を真っ赤にして涙ぐむ。
慎也は彼女を庇うように背後へ引き寄せ、低い声で私を叱る。
「遥香はろくでもない伯父に、知的障害のある男との結婚を強要されている。俺たちは何年も支援して、やっとここまで育てたんだ。本当に田舎に戻してそんな相手に嫁がせるつもりか?
それにこれはただの式だ。本当に結婚するわけじゃない。お前とはもう入籍しているんだ、これでも不安なのか?」
騒ぎになるのを恐れているのか、彼は私の手首を掴み、声をやわらげる。
「安心しろ。半年後には破局を発表する。その時に俺たちの関係も公にする。いいだろ?」
これまで何年も待ってきた。けれど今回は、もう待つ気になれない。
彼の手を振り払い、背を向ける。「結構よ」
いつもと違って従わない私を見て、慎也の表情が一瞬曇った。
大股で追いつき、私の前に立ちはだかり、苛立ちを隠さず言う。
「瀬戸(せと)、こんな大勢の前で俺と遥香の顔を潰すつもりか?
それに遥香は長年お前を姉として尊敬してただろ。それくらいの思いやりも持てないのか?
忘れるな。あの時、彼女が可哀想だから積極的に助けてやれと言ったのはお前だろう。俺がその通りにしたら、今度はその態度か?」
冷たい視線に問い詰める色が混じる中、彼は再び私の手を強く掴む。
「瀬戸、俺たちは夫婦だ。これくらいの信頼もないのか?」
責任転嫁にもほどがあるその言葉に、私の目の奥がじわりと熱くなる。
「よくも信頼なんて言えるわね」
鼻の奥がつんとしながら、かつて夢中になったその深い瞳を見据え、必死に怒りを抑える。
「慎也、あなたを信じすぎたからこそ、今ここに立ってる私はこんなにも滑稽なのよ」
八年。
八か月でも八週間でもない。
この八年間、慎也は私の世界の中心そのもの。
彼の言葉は何でも信じ、疑うことすらしない。
大学院時代、交際を公にすると面倒な人間関係が増えるから、卒業後に発表したいと言われた。
卒業すると会社を立ち上げ、今度は上に立つ者として社内恋愛は控えるべきだと言い出した。
私はそれをそのまま信じる。毎晩、まるで後ろめたいことでもしているかのように、社員が全員帰った後にこっそり彼の車に乗り込む。翌朝は夜明け前に起きてバスで出社する。
社内の誰にも関係が知られないよう、ひたすら気を張り続ける。
息が詰まるような五年目、会社に初めての大型案件をもたらした時、慎也は私にプロポーズした。
当時の私たちは郊外の古い安アパートに住んでいた。
その夜、彼は珍しくミルクレープを買ってきた。
揺れるろうそくの光の中、小さなダイヤの指輪を差し出して求婚した。
言葉は誠実で、あと二年待てば会社も軌道に乗る、その時には関係を公表し、盛大な結婚式を挙げると約束した。
私は胸がいっぱいになり、涙を流しながら彼に抱きつき、そのプロポーズを受け入れる。
入籍後、私はまるで疲れを知らない働きづめの存在になる。
一日でも早く公表できるように、昼夜問わず働き続け、会社を彼の言う軌道に乗せようとする。
結婚してからの三年間、プロジェクトのために数えきれないほど酒を飲み、十数回も病院に運ばれる。
目を覚ますたび、彼は目を赤くしてベッドのそばにいて、私の手を握り、次こそは発表すると約束する。
その「次」を信じ続け、私は三年も引き延ばされる。
そして一日前。会社に海外で億単位のプロジェクトをもたらした時、彼はついに口を開き、忘れられない盛大な結婚式を挙げ、公にすると言う。
私は連日の疲れも顧みず、胸を躍らせて帰国する。
ようやく彼と並んでスポットライトを浴びられると思ったその瞬間、目の前にあったのは、私がずっと望み、そのために努力し続けてきた結婚式が、慎也と遥香のプロポーズの場に変わっている現実だった。
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