春とは、巡り逢えぬまま第1話
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電話が鳴ったのは、蘇原菫(そはらすみれ)が段野寒夜(だんのかんや)と、別荘のソファで激しく抱き合っている最中だった。
熱気が一気に高まり、彼女は思わず首を反らし、細い首筋をさらけ出しながら長く息を吐き出した。
「や、優しくして……」
その時、寒夜は片手で電話に応答した。向こうからは、焦った声が飛び込んできた。
「寒夜、璃宛が、あなたが身代わりを探してるって知って、泣きながら飛び降りようとしてるんだ!」
その言葉に、重なっていた男の動きがぴたりと止まる。欲望に染まったその瞳も、次第に冷静さを取り戻していく。ただ、何も言わず沈黙していた。
電話の向こうではまだ声が続く。
「彼女、昔あなたと別れたくなくて、死んだふりまでして海外に行ったじゃないか。今さら苦しかったとか言って、こんな騒ぎまで起こして……本当に何考えてるんだか……」
菫には、なぜ彼が黙り込んだのかわかっていた。
七年前、彼の幼なじみである草薙璃宛(くさなぎりおん)が亡くなったという知らせが届いた。
だが、ほどなくして彼は知ることになる。彼女は死んでなどいなかった。新しい名前で海外で生きていたのだ、と。
* * *
電話が鳴ったのは、蘇原菫(そはらすみれ)が段野寒夜(だんのかんや)と、別荘のソファで激しく抱き合っている最中だった。
熱気が一気に高まり、彼女は思わず首を反らし、細い首筋をさらけ出しながら長く息を吐き出した。
「や、優しくして……」
その時、寒夜は片手で電話に応答した。向こうからは、焦った声が飛び込んできた。
「寒夜、璃宛が、あなたが身代わりを探してるって知って、泣きながら飛び降りようとしてるんだ!」
その言葉に、重なっていた男の動きがぴたりと止まる。欲望に染まったその瞳も、次第に冷静さを取り戻していく。ただ、何も言わず沈黙していた。
電話の向こうではまだ声が続く。
「彼女、昔あなたと別れたくなくて、死んだふりまでして海外に行ったじゃないか。今さら苦しかったとか言って、こんな騒ぎまで起こして……本当に何考えてるんだか……」
菫には、なぜ彼が黙り込んだのかわかっていた。
七年前、彼の幼なじみである草薙璃宛(くさなぎりおん)が亡くなったという知らせが届いた。
だが、ほどなくして彼は知ることになる。彼女は死んでなどいなかった。新しい名前で海外で生きていたのだ、と。
何の説明もなく、一夜で消えた。
寒夜はその日から抜け殻のようになり、深い泥沼にはまってしまった。この出来事は彼の逆鱗となり、誰も触れることを許されない傷になった。
だが今、璃宛は一週間前に帰国し、彼が自分の身代わりを用意していたことを知って自殺騒ぎまで起こしている。
ほんの一瞬の沈黙の後、寒夜はすぐにいつもの冷静さを取り戻し、上着を羽織ると外へ向かった。
玄関の前で、ふと振り返り、ソファの残り香を見やる。
「きれいに片付けとけ」
菫は乱れた服のままソファにもたれ、長い脚を肘掛けに投げ出す。
がらんとした別荘の中、ライトの影がワインレッドの長い髪に反射し、まばゆいほど。
彼女は五年前を思い出す。
寒夜の母から10億円を提示され、「五年間だけ身代わりをやって、過去に囚われた寒夜を救ってほしい」と頼まれた。
当時、卒業したばかりで一文無しだった彼女は、病気の母の治療費のため契約書にサインし、まず1億円の前金を受け取って母を救った。
京市で有名な御曹司は、初恋の偽りの死で性格が一変し、陰鬱で冷たくなっていた。
ある令嬢が一夜の情事を狙って彼に薬を盛ったが、逆に片手を切り落とされる羽目になったという。
菫は彼を追いかけて別荘に引っ越し、ボディーガードに十八回も荷物を外に放り出されても、自分で全部拾い集めて戻った。けれど、彼は一度も彼女に目を向けることはなかった。
仕事で海外に行くときも、彼女は自ら秘書役を買って出て、あらゆる手配をこなしたのに、わざと人を使って彼女を現地に置き去りにし、飢えと寒さを味わわせた。
彼女は彼の初恋の情報をかき集め、あらゆる面で模倣しようとした。
そして、あの夜、璃宛の服を身にまとい、彼に飛び込んだ。
寒夜が驚愕したあの瞬間、彼女は今も鮮明に覚えている。
その後、彼は初めて彼女の前で笑った。嘲笑だったけれど、その美しさに心が眩んだ。
初めて、彼は彼女に触れた。真っ赤な瞳で、狂おしく絡み合い、一夜の熱。
だが、ベッドの上以外では、彼は相変わらず人を寄せ付けず、冷たく、情け容赦なかった。
今、初恋の人が戻ってきた。菫と寒夜の母の契約も、もしかしたら前倒しで終わるかもしれない。
そう思いながら、菫は不動産業者に電話をかける。
「短期の賃貸を探してほしいの。ええ、京北(きょうほく)エリアで」
話がまとまった後も、彼女はしばらくソファを見つめてから、跡を丁寧に消していった。
どれほど時間が過ぎたのか、半分眠りかけていた菫は、電話の着信音で目を覚ました。寒夜の低い声が耳元で響く。たった一言だった。
「降りてこい」
身代わりである以上、菫は常に彼の感情に気を配り、望みを満たさなければならない。
パジャマのまま、靴も履かずに階段を降りると、下からエンジン音が響き、雨音、雷鳴が混じる。
リビングにはすでに二人の人影があった。
一人は薄い服の少女で、全身びしょ濡れで立っていた。どこか儚げで、守ってあげたくなるような雰囲気だった。
「寒夜、あなたが私を恨んでいるのは分かってる。でも、あの時私は本当に……」
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