星降る空、暁を待つ第1話
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白鳥心羽(しらとり みう)は、膵臓癌の診断を受けた日、夫・白鳥響矢(しらとり きょうや)が篠崎和奏(しのざき わかな)の足に両手を添えているのがぼんやりと見えた。
余命わずか三か月と宣告され、心羽は治療への意欲を失ってしまう。
八年前、響矢は心羽を救うために自らの視力を犠牲にした。
そして今、心羽は人生最後の時間に、彼に視力を取り戻させる決意をする。
響矢が光を取り戻した朝、心羽にとっては人生最後の日の出となった。
全てを知った響矢は激しい後悔と狂気に駆られ、取り戻したばかりの両目を自ら抉り取り、炎に包まれながらこう言った――
「心羽、もし来世があるなら、俺には二度と会わないでくれ」
* * *
【白鳥さん、もう一度確認させてください。本当に治療を放棄すると決めたんですね?】
白鳥心羽(しらとり みう)は一瞬言葉を詰まらせ、スマホの画面を素早くタップした。
【ええ、もう治療はしないわ】
顔を上げると、涙で視界がぼやけていたが、それでも夫の白鳥響矢(しらとり きょうや)が、今まさに満足げに地面に跪き、篠崎和奏(しのざき わかな)の足に両手を添えているのがぼんやりと見えた。
彼の首には黒い首輪が付けられており、リードのもう一端を和奏がそっと握っている。
リビングには騒がしいジャズが大音量で流れていたため、響矢は心羽がドアを開けた音に気づいていない。
響矢の目には明らかな陰りが見えるが、それでも彼の魂から発せられる敬虔さを隠すことはできていない。
彼は和奏の足の甲にそっとキスを落とした。
心羽は彼の呟きを読み取った。「俺のミューズ」と。
スマホが床に叩きつけられる音が、音楽にかき消された。
点灯した画面には、まだ医者とのチャット画面が表示されている。
【白鳥さん、余命3ヶ月とはいえ、生きる希望を捨ててはいけません!】
今日の午後、彼女は突然の腹痛で病院に行った。
まさか自分が膵臓がんで、しかも末期だとは思いもしなかった。
心羽はぼうぜんとしながら帰路につき、このことをどう響矢に話すべきか、まだ考えあぐねていた。
彼女は響矢が事実を知ったら、自分以上に打ちのめされるのではないかと恐れた。
誰もが知っている。響矢がどれほど彼女を愛しているかを。
10年前の一目惚れから、2年間の苦しい片思い、そしてあの事故。響矢は迷うことなく心羽を突き飛ばし、その結果、角膜を損傷した。
美術の才能を持つ彼にとって最も大切なものを失ったのだ。
しかし響矢は、失明した後も一言も不満を漏らさず、当時の心羽を見たときの彼は、まだ目に包帯が巻かれていたが、顔には穏やかな笑みを浮かべていた。
「君が無事でよかった」と。
だから心羽には、そんな響矢が、彼女を裏切るようなことをするとは想像もできなかった。
ましてや、彼女にとっていつも穏やかで上品、原則を重んじ、初めて手を繋いだときでさえ耳まで真っ赤にしていたあの響矢が、このような……卑しい行為をするとは。
もともと心羽は治療に協力するつもりだった。それはごくわずかな奇跡に賭けていたからであり、自分が死んだ後、響矢が一人で生きていけるかどうか心配だったからだ。
彼はここ数年、精神的な病気がますます悪化していたため、心羽は彼が自分に和奏を心理カウンセラーとして雇うことに同意したのだ。
彼女は響矢が和奏に対して抱いている特別な感情に気づいていないわけではなかったが、これはただの患者が医者に抱く正常な依存心に過ぎないと、自分を欺いて慰めるしかなかった。
しかし今となっては、彼はすでにその一線を越え、もはや自分を必要としていないのだ。
それなら、いっそ治療はやめよう。
死よりも、治療のたびに味わう痛みと苦しみの方が恐ろしい。
響矢は心羽の顔に浮かんだ苦痛と絶望に気づいていないが、和奏はいつの間にか彼女の姿に気づいていた。
和奏は大学時代から響矢が好きだった。しかし、その頃の響矢の目には心羽しか映っておらず、彼女に対しては常に人を寄せ付けないような態度だった。
心理カウンセラーとして再び響矢の生活に現れ、響矢がますます自分に依存していく姿を目の当たりにし、二人の立場が大きく変化したとき、彼女はたまらなく嬉しかった。
和奏は立ち上がり、音響を消すと、足で響矢の顎を掬い上げ、赤い唇を彼の耳元に寄せ、命令口調でこう言った。
「答えて。私と心羽、どっちが好きなの?」
響矢は陶酔していた顔に、突然、躊躇の色を浮かべた。
和奏は不満そうに彼の股間を踏みつけ、赤いハイヒールで軽く捻った。それはまるで催促するかのように、あるいは罰を与えているかのようだった。
響矢の額にはすぐに冷や汗が浮かび、苦痛と歓喜が入り混じった表情を浮かべた。
「わ……分からない……」
彼は嘘をつけない。それは和奏が最初から彼と決めたルールだった。
和奏はさらに足に力を込めた。
響矢は痛みに耐えかねてうめき声を上げ、続けて声の調子を上げた。
「和奏、俺は今、目が見えないから、こんな俺が君を愛する資格なんてないんだ!」
和奏はようやく満足そうに足を上げ、少し離れた場所にいる心羽に眉をひそめると、くるりと向きを変え、響矢の手を取り、自分の顔に当てた。
「じゃあ、心羽を助けたせいで目を失ったことを後悔してる?もし彼女がいなければ、あなたは今、私の姿を見ることができたのに」
今回、響矢は迷うことなく答えた。
「もちろん後悔してるよ。君がどれだけ美しいか、この目で見たかったんだ!」
心羽はこの言葉を聞いた後、心が痛んで立っていられなくなりそうになり、片手で壁に寄りかかり、裏切りによって激しく鼓動する心臓を必死に抑えた。
彼女は振り返って寝室に戻り、二度と後ろのばかげた光景を見ようとはしなかった。
しばらくすると、和奏からラインが送られてきた。
【よく我慢できるわね。彼が今や私の犬同然だってこと、分かってないのかしら?】
和奏は続けて、10枚以上のわいせつな写真を送ってきた。
そこに写っているのは響矢だ。
卑屈な響矢、服従する響矢。彼女の心の中にいる、あの冷静で気品があり、彼女を骨の髄まで愛している響矢とは、まったく違う響矢。
さらには動画まで送られてきた。動画の中の響矢は、心羽を助けたせいで目を失ったことをどれほど後悔しているかを、心羽にしたことは一生かかっても償いきれないと言い、それならば自分が抑圧された感情を解放したっていいじゃないか、と自ら語っていた。
心羽は涙を流しながら、写真を一枚一枚アルバムに保存した。
彼女はベッドの端に座り込み、何度も何度も泣き続けた。もう一滴の涙も流れなくなるまで。
心羽は手を上げ、まぶたにそっと触れ、擦った後、病院に電話をかけ、角膜移植に関する事柄について問い合わせた。
響矢、どうせ私にはもう残された時間がない。
あなたがこれを私の借りだと思っているなら、返してあげるわ。
これで、私たちはお互いに借りはない。
死んでも、もう関係はない。
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