新婚早々、「夫を一ヶ月貸して」と言われた件第2話
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そのときだった。念美が飼っていた犬が突然駆け寄り、母の遺骨を舐め始めた。
「あっ、小春!そんなもの舐めちゃダメよ」
念美は犬を抱き上げると、そのまま母の遺骨を何度も踏みつけ、土の中へ押し込んだ。
「やめて!」
私は我を忘れて駆け寄り、必死に土を掘り返した。爪が割れ、手のひらが血だらけになっても、掘るのをやめられなかった。
「ごめんね……お母さん、ごめんね……」
その瞬間、頭に激しい痛みが走った。
悠真に髪を乱暴につかまれ、そのままリビングまで引きずられ、床へ投げ捨てられた。
「そんな芝居をしたところで、今日の罰からは逃げられない」
そう言って、悠真は念美へ目を向けた。
「念美、君がやれ。思いっきりこいつに罰を与えよう」
念美は悠真の腕に身を寄せ、不安そうに首を横へ振った。
「そんな……私にはできないよ。
また澪さんにネズミを放り込まれたら、どうしよう……」
悠真はそんな念美を優しく抱き寄せ、その頭をそっと撫でた。
「念美、君は本当に優しいな」
けれど私へ向けられた視線だけは、氷のように冷たかった。
「念美にできないなら、お前たちがやれ」
悠真はリビングにいた使用人たちを見渡し、低い声で命じた。
「やれ。こいつの顔をビンタしろ。100回叩くまでやめるんじゃねえぞ」
使用人たちは顔を見合わせたまま、誰も動こうとはしなかった。
パンッ!
静まり返った部屋に、乾いた音が響いた。
悠真の平手が容赦なく頬を打った。焼けつくような痛みが走り、頬はあっという間に腫れ上がった。
「こうするのだ。分かったか、さっさとやれ。やらないなら、この家を出ていけ!」
その言葉を聞いた途端、使用人たちは一斉に私へ群がった。誰もが悠真の怒りを恐れ、容赦なく平手を振り下ろした。
100発目が終わる頃には、私は血を吐いていた。
霞む視界の向こうにいる悠真を、私はじっと見つめた。胸に残っていたのは、もう憎しみだけだった。
「悠真……あなたは、いつか必ず後悔する」
その言葉に、悠真の瞳がほんの一瞬だけ揺れた。
だが、その揺らぎはすぐに消えた。悠真は私の前にしゃがみ込むと、腫れ上がった頬へそっと手を添えた。
「澪……つらいだろう。でも、お前は償わなきゃいけない」
私は思わず笑ってしまった。涙があふれて止まらないのに、笑いだけはどうしても止まらなかった。
「償う……?」
私は念美を指差し、声を張り上げた。
「悪いのは、あなたたちでしょう! 罪を犯したのも、償わなきゃいけないのも、あなたたちよ! 悠真……私は一生、あなたを許さない! 絶対に!」
その言葉に、悠真は一瞬だけ目を伏せた。けれど何も言わず、視線を逸らした。
すると、念美は指先を押さえながら、今にも泣き出しそうな顔で悠真を見上げた。
「悠真さん……指をネズミに噛まれちゃったみたい。痛いよ……」
悠真はすぐに念美を抱き寄せると、噛まれた指先へ優しく息を吹きかけた。
「痛かったな。もう大丈夫だ。あとは俺に任せろ」
そう言って悠真は私へ視線を向けた。その瞳に、もう迷いはなかった。
あるのは、冷え切った嫌悪だけだった。
「あいつを檻へ入れろ」
私は何も言わず、ただ虚ろな目で悠真を見つめた。
抵抗する気力もなく、使用人たちに引きずられていった。
まさか彼が、私に罰を与えるために鉄の檻まで用意した。いや、檻というよりはむしろ鉄で作られた小屋のようだった。中には無数のネズミが目を光らせ、甲高い鳴き声を響かせていた。
恐怖で体が震えた。逃げようともがいたけれど、扉は外から鍵を掛けられ、逃げ場はなかった。
次の瞬間、ネズミたちが一斉に私へ襲いかかってきた。
鋭い歯が容赦なく肌へ食い込み、肉を噛みちぎられる激痛に、私は悲鳴を上げ続けた。
檻のわずかな隙間から見えたのは、念美を抱き寄せ、荒い息を漏らす悠真の姿だった。
「悠真さん……もう、我慢できない……」
「だめだ。子どもに何かあったら困る」
「じゃあ……私がしてあげる……」
二人の声を聞いているだけで、胸が張り裂けそうだった。
どれほど檻の中に閉じ込められていたのか、もう分からなかった。
息をするたび肺が焼けるように苦しくなり、意識は少しずつ遠のいていった。
やがて檻の扉が軋む音を立てて開いた。
私は彼らに乱暴に引きずり出された。まるでゴミでも引きずっているかのように、そのまま床へ放り投げられた。
誰かが目の前で立ち止まった。
顔を上げると、念美は傷だらけの私を見下ろしていた。
「悠真さん……澪さん、かわいそう……こんな姿になっちゃって……」
そう言いながらも、口元だけはうっすらと笑みを浮かべていた。
悠真はすぐに念美の目を手で覆うと、私には冷たく一瞥をくれただけだった。
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