和紙文新婚早々、「夫を一ヶ月貸して」と言われた件 · 第3話設定≡

新婚早々、「夫を一ヶ月貸して」と言われた件第3話

この話は約1871字。当サイトで読める3話の試し読みのうち、最後の話です。続きの第4話からは公式アプリで読めます。

「自業自得だ」

自業自得……ね。私は思わず口元がゆるみ、小さく笑いが漏れた。

「……何がおかしい?」

悠真が訝しげに私を見つめた。

私はその視線をまっすぐ受け止め、一言ずつ噛みしめるように告げた。

「私の人生で一番の間違いは……あなたを好きになったことよ」

この男を愛したせいで、父も母も失った。

生まれてくるはずだった子どもまで奪われ、私は何度も踏みにじられ、辱められた。かつて湊ヶ丘市一の令嬢と呼ばれた私も、今では道端の雑草にも及ばない。

「……今、何て言った?」

悠真の表情が凍りついた。顔から血の気が引き、その瞳が一瞬揺れた。

そのとき、念美はお腹を押さえ、小さく声を漏らした。

「悠真さん……お腹が痛いの……」

「どうした!? 大丈夫か!?」

悠真の表情が一変した。慌てて念美を横抱きにすると、使用人へ声を張り上げた。

「すぐに黒田先生を呼んでこい!」

その焦り切った横顔を見た瞬間、不意にあの子のことを思い出した。

私の最初の子どもを。

まだこの世に生まれることもできず、父親だった男に蹴られ、そのまま失われた小さな命を。

呆然としたまま、私はふらつく足で部屋へ戻った。

救急箱を取り出し、とっくに使用期限の切れた消毒用アルコールを傷口へ流し込んだ。

焼けるような痛みが全身を駆け抜けた。

その痛みがなければ、胸の奥に広がる苦しみに押し潰されていた。

「あんた、ほんとしぶといわね」

ヒールの音が、廊下の向こうからゆっくりと近づいてきた。

部屋へ入ってきた念美からは、いつもの楚々とした雰囲気がもう消えていた。

その口元には、勝ち誇った笑みが浮かんでいた。

「まさか、あの名門・白石家のお嬢様が、こんな惨めな姿になるなんてね」

私は顔も上げず、小さく鼻で笑った。

「自分を演じるだけでも一苦労なのに、お腹の子まで隠し通さなきゃいけないなんて……本当にご苦労さま」

念美の笑みがふっと消えた。

「あんた……全部知ってたの? 私が死んでなんかなくて、ただ名前を変えただけだってことを」

けれど次の瞬間、念美はまた勝ち誇ったように口元を緩めた。指にはめたダイヤの指輪を弄びながら、ゆっくりと言った。

「あのとき、私に悠真さんの花嫁にならせてくれてたら、こんな面倒なことにはならなかったのに。

お父さんも死んで、子どもまで失って……

あとは病弱なお母さんだけか。あの人も、あとどれくらいもつのかしらね」

念美はお腹を優しく撫でながら、くすりと笑って続けた。

「そうそう、言い忘れてた。

悠真さんね、この子を桐生家の跡取りにするって約束してくれたの」

胸の奥から込み上げる絶望を押し殺し、私は歯を食いしばって立ち上がった。そして、口の中に溜まった血を念美へ吐き捨てた。

「……あなたには、きっと報いが来るわ」

念美は眉をひょいと上げ、鼻で笑った。

「ふふ……報いを受けるのがどっちなのか、楽しみね」

そのとき、廊下の向こうから足音が近づいてきた。

次の瞬間――

「きゃっ!」

念美は悲鳴を上げると、わざと後ろへ倒れ込んだ。駆け寄った悠真は、とっさにその体を抱き留めた。

「お前! 念美に何をした!?」

悠真の姿を認めた途端、念美の瞳はたちまち涙で潤んだ。

「悠真さん……違うの。

澪さんを責めないで……私が勝手に転んじゃっただけなの……

私、ただ澪さんのケガが心配で来ただけだったのに……まさか、こんなことになるなんて……」

悠真の呼吸は次第に荒くなり、その表情には怒りが滲んでいた。

「澪……何か言うことはないのか」

昔の私だったら、きっと必死に弁解していた。何もしていないと、ただ信じてもらいたかった。

けれど今は違った。私はただ、悠真を静かに見つめ返した。自分でも驚くほど、心は冷え切っていた。

「……私の言葉を、信じてくれるの?」

悠真は鼻で笑った。

「お前みたいに平気で嘘をつく女の言葉なんて、誰が信じるか」

そう吐き捨てると、悠真は私の髪を乱暴につかみ、そのまま階段まで引きずっていった。

「念美に手を出したこと、後悔させてやる」

そう言うや否や、悠真は容赦なく私の下腹部を蹴り上げた。

激しい衝撃に、私はそのまま階段を転げ落ちていった。何度も体を強く打ちつけ、最後は床へと叩きつけられた。

下腹部に鈍い痛みが走った。

次の瞬間、温かいものが太ももを伝い落ち、赤黒い血が床へと広がっていった。

すぐそばにいた使用人が、思わず悲鳴を上げた。

「奥様が……! 血が……!」

悠真の目に、一瞬焦りが走った。

慌てて階段を駆け下りようとした悠真の腕を、念美がそっとつかんだ。

「悠真さん……私、澪さんが羨ましいな。

ちょっと血が出ただけで、そんなに心配してもらえるんだもの」

縦書き表示中:本文は右から左へスクロールします(← → キーでも移動できます)

第4話は公式アプリで

当サイトでの試し読みはここまでです。アプリをインストールし、下のアプリ用コードを入力すると、この作品の第4話からそのまま読み進められます。

S51177
  1. 下のボタンから公式アプリをインストールします(無料)。
  2. アプリを開き、「コードを入力」にこのコードを入れると、この作品が本棚に入ります。
iPhone・iPad
で入手
Android
で入手

アプリで第4話を読む

作品ページへ戻る 当サイトに掲載しているのは試し読みの章だけです。