感情を消した私、後悔する夫と息子第2話
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私の前でいつも小さな顔をこわばらせ、大人ぶっていた姿とはまるで別人のようだった。
写真の中の律は、太陽のように眩しく笑っていた。
父親である紀之と同じように、その瞳はウェディングドレス姿の女性に釘付けだった。
それは、彼が私の前では決して見せたことのない笑顔だった。
私が香月家へ彼の世話をしに行くたびに、返ってくるのはいつも冷たく、突き放すような言葉ばかりだった。
「ママ、僕のこと、放っておいてくれない?家庭教師の先生に色々教わってるから、ママが口出しする必要ないよ。
ママって、本当にウザい。そんなこと、言われなくても分かってる。
ママって他にやることないの?毎日顔を出さなくてもいいのに」
......
以前は、香月家の教育が厳格だから、この子は幼いのにあんなに大人びてしまったのだと思っていた。
それに、私が観察してきた限り、多くの子供は親に対して反抗的な態度をとるものだ。
心理学で言うところの「印象操作」というやつだ。
だから、彼が私にそう接するのは、ごく普通の事だと思っていた。
だが今となっては......
「宿主、あなたは香月紀之の攻略に失敗しただけでなく、あなたの息子からも全く情を持たれていないようですね」
システムは傷だらけの私の心に容赦なく追い打ちをかけた。
涙がスマホの画面に落ち、滲む視界の向こうでは、写真の中の笑顔がもう見えなかった。
涙を拭い、スマホの電源を切った。
「香月家に行かせてくれない?彼はまだ結婚してないんでしょ?厳密に言えば、私の任務はまだ失敗じゃないはず」
私はシステムに最後の悪あがきをした。
紀之に未練があるわけではない。
十年という時間、律が生まれてすぐに引き取られたあの時から、私は自分の最終的な結末を理解しておくべきだった。
それでも諦めきれなかったのは、任務がまだ終わっていないことを言い訳に、自分を騙していたに過ぎない。
それでも納得できなかった。
十月十日、苦しんで産んだ我が子が、私に何の感情も抱かず、笑って他の女を「ママ」と呼ぶなんて。
律は、この世界と元の世界で唯一、私と血の繋がった存在。私は彼に、心血の全てを注ぎ込んできた。
律が生まれてからは、紀之の攻略任務さえ二の次にしていたほどだ。
それなのに、どうして律はこんなにもあっさりと私を見捨てられるのだろう?
私の、壁にぶつかるまで諦めない頑固な様子を見て、システムは少し黙った後、譲歩した。
「宿主がそこまで固執するのであれば、取引は延期しましょう。
最終的に任務が成功すれば、取引は当初の規定通り。失敗した場合は、あなたの感情を頂きます」
私はすぐさま香月家へと向かった。
ヴィラに着くと、内外ともに慌ただしい様子だった。
使用人が花を運び込んでいる。杏奈が一番好きだという、百合の花だ。
他の使用人たちは、紀之と杏奈のウェディングフォトを、傷つけないよう慎重にヴィラの中へ運び入れていた。
誰も私の存在に気づかなかった。
ヴィラに足を踏み入れると、ちょうど律の弾んだ声が聞こえてきた。
「パパ、本当に杏奈おばさんと結婚するの?そしたら、杏奈おばさんが僕のママになるんだよね?」
その嬉しそうな表情は、私には一度も見せたことのないものだった。
紀之は息子の頭を優しく撫で、穏やかな表情で答える。
「ああ。パパが杏奈おばさんと結婚したら、彼女がお前のママになるんだ」
「律は杏奈さんがママになるのがそんなに嬉しいの?本当のママが悲しむんじゃない?」
香月家の母親が、キッチンからフルーツを運びながら、楽しそうに律をからかった。
途端に、律の小さな顔が曇り、彼は冷たく鼻を鳴らした。不機嫌さを隠そうともしない。
「あのおばさんなんて、僕のママにはなってほしくない。センスがなくて見ていられないし、学校帰りに会うたびに恥ずかしいんだ!それに、何もできないくせに。杏奈おばさんみたいになれない、ダンスやピアノもできないし、絵も描けない。普通すぎて、僕のママにふさわしくない。
それにさ、パパと結婚してないんだから、僕のママじゃないでしょ?彼女のことなんか、死んじゃえばいいのにって思う!」
幼い声で吐き出された言葉は、あまりにも真剣で、私の心の奥底に残っていた最後の望みが、粉々に打ち砕かれた。
私は一歩後ずさり、うっかり玄関にあった花瓶にぶつかってしまった。
陶器が砕ける音に、全員が私の方を向いた。
彼らの顔には様々な表情が浮かんだ。平然とした顔、驚き、戸惑い、同情、嘲笑......
ただの一つも、罪悪感や申し訳なさそうな色は見当たらなかった。
元凶である紀之も、息子である律も。
胸が張り裂けそうで、息もできないほどだった。
「システム、私の感情をどうぞ」
「宿主、今この時でよろしいのですか?」
システムの機械的な声が私の脳内で問いかけた。
私は思った。感情がなくなれば、こんなにも苦しまずに済むのだろうか?
彼らへの感情を失えば、もう彼らを愛さなくなるのだろうか?
もう彼らのせいで悲しんだり、崩壊したりすることもなくなるのだろうか?
私は涙で霞む目で、少し離れた場所にいるあの父子を見た。
視界はぼやけているのに、彼らの顔に浮かぶ嫌悪と苛立ちだけは、鮮明に目に焼き付いていた。
私の心は完全に死んだ。私はシステムに、固い決意を告げた。
「はい、今すぐ」
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