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愛も憎しみも、ここで終わり第2話

この話は約2157字。当サイトでは第1〜3話を試し読みできます。

九死に一生を得て産み落とした我が子。私はそっと息子の額に唇を落とす。

夫はもういらない。今日から私はあの男を捨て、この子と二人だけで生きていくのだ。

出産を終えたばかりの体は、ひどく衰弱していた。

傷口の激しい痛みに耐えながら、なんとかベッドから降りようとしたその時、姑の早瀬和子(はやせ かずこ)が勢いよくドアを押し開け、嫌味な口調で言い放った。

「蓮はどこにいるの?出産なんて一大事なのに、あの子に知らせてないわけ?」

「蓮なら、『時空を越える』と言い残して消えましたよ」

私は口元に冷ややかな笑みを浮かべてそう答えた。

姑は途端に顔を曇らせた。どうやらそれが息子のいつものくだらない口実だと察したようで、忌々しそうに吐き捨てる。

「まったく、夫ひとりまともにつなぎ止められないなんて、本当に甲斐性のない嫁ね」

しかしそう嫌味を言ったかと思うと、すぐに視線をずらし、私の傍らにあるベビーベッドを覗き込んで満面の笑みを浮かべた。

「まあ、湊(みなと)はなんて可愛らしいんでしょう。パパにそっくりね」

私はただ黙っていた。

この姑の嫌味な態度には、とうの昔に慣れっこだった。

思えば、私の祖父と蓮の祖父はかつての戦友だった。

私の両親が公務中に相次いで殉職して身寄りをなくした私を、祖父が臨終の際に早瀬家に託したのだ。

それが縁で、私は早瀬家に嫁ぐことになった。

これまで私がこの家で耐え忍んできたのは、ひたすら蓮の祖父の思いに報いるためであり、「早瀬家に跡継ぎを残す」という約束を果たすためだった。

そして今、その約束はようやく果たされた。息子・湊が「お宮参り」を迎える生後一ヶ月のその日に、私はこの家を去るつもりでいた。

和子は孫の顔を一目見て満足したのか、私のことなど気にも留めずに病室を出て行った。

あとに残されたのは、病院のベッドで一人きり、孤独に赤ん坊を抱く私だけだった。

入院中、私はほとんど眠ることもできず、一人で湊の世話に追われた。そして退院の日を迎えても、結局蓮が姿を見せることはなかった。

その間にも、探偵からは彼と美桜が仲睦まじく過ごす写真が次々と送られてきていた。

ようやく退院して早瀬家に帰ると、あろうことか和子は雇っていたお手伝いさんを勝手に解雇しており、悪びれもせずこう言い放った。

「子供っていうのはね、母親が自分の手で育てなきゃいけないの。そうしないと親子の絆が深まらないでしょ?」

まだ回復していない体で、24時間休む間もなく続く授乳と夜泣きの対応。私の心身はすでに限界に達していた。

絶え間ない湊の泣き声と、ストレスで抜け落ちていく髪の毛を見つめる日々。

この一ヶ月間、私は何度も心が折れそうになりながら、ギリギリのところで理性を保っていたのだ。

そんな私をあざ笑うかのように、スマホには美桜からの挑発的なメッセージまで届き始めた。

【ねえ、優奈(ゆうな)さん。蓮と結婚したからって、それが何?

彼が心から愛しているのは、昔も今も私だけなのよ】

添付されていた動画を開くと、二人がベッドで肌を重ね合う生々しい映像が目に飛び込んできた。

スマホのスピーカーからは、男の荒い息遣いと、女の甘ったるい嬌声が入り混じって漏れ聞こえてくる。

夜が更け、私は湊の静かな寝顔を見つめながら、ただひっそりと胸を痛めるばかりだった。

スマホを開けば、SNSには美桜と蓮が海外旅行を楽しむ写真が次々とアップされているのが目に入る。

観光名所を訪れるたびに、二人の親密なツーショットが残されている。

その何百枚にも及ぶ写真を、私はまるで自らを傷つけるかのように、ただ黙って見つめ続けていた。

コメント欄には、蓮の友人たちからの冷やかしの書き込みが並んでいる。

【早瀬、お前すげえな。奥さんが出産で大変な時に、世界一周旅行かよw】

【で、今回はどんな言い訳で家を抜け出してきたんだ?】

蓮はそれに対し、悪びれもせずにこう返信していた。

【今回は「時空を越える」って言ってやった】

【マジかよ、そんなふざけた言い訳思いつくのお前くらいだろ。奥さんガチギレしねえの?】

すると蓮は、こう書き込んだ。

【この三年間、あいつはずっと文句も言わずに僕に従ってきたんだ。今回も同じさ。どうせ家で大人しく僕の帰りを待ってるよ】

この三年間、私が我慢して必死に耐え忍んできたことのすべてが、彼やその友人たちにとっては単なる笑い話の種でしかなかったのだ。

だが、今回はもう決して彼を許すつもりはない。

その夜、私は一人で涙が枯れるまで声を殺して泣き続けた。やがて夜が明け、外が明るくなった頃、突然玄関から激しいノックの音が響き渡った。

「優奈、ただいま。湊にお土産も買ってきたぞ」

重い足取りでドアを開けると、そこには完璧にメイクしておしゃれに身を包んだ美桜が、蓮に寄り添うようにして立っていた。

彼女は人を小馬鹿にしたような笑みを浮かべて言った。「優奈さん、どうしてそんなにボロボロな格好してるの?女はもっと自分のケアをしなきゃダメだよ」

その時の私は、よれよれの部屋着のままで、襟元には湊に飲ませた母乳の染みがくっきりと残っていた。

美桜は露骨に鼻をつまむと、自分のバッグから香水を取り出して辺りにシュッシュッと振りまき、嫌悪感を隠そうともせずに言った。

「なんか、ミルクの腐ったような匂いがするわ。ほんと、くさい」

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