愛も憎しみも越えた先で第2話
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「はいはい、お前が俺に惚れてるのはわかってるよ。じゃあ、また今夜な。先に彩葉を家まで送ってくる」
陸の声に、不快で惨めな記憶から無理やり引き戻された。
彼が通話を切ると、車内にはたちまち私たち二人の呼吸音だけが残った。
しばらくして、先に口を開いたのは陸だった。
「腹減っただろ。先にお前の大好きなケーキを買って、それから家まで送ってやるよ」
その声はやさしかった。
まるでさっきまでのことなど、何ひとつなかったかのように。
そのせいで、目を真っ赤にして全身を震わせている私はなおさら滑稽に見えた。
「陸、どうしてこんなことをするの?一生大事にするって言ったじゃない」
声はかすれ、悔しいほど涙もこぼれ落ちた。
けれど今回は、陸はこれまでのように、いたわるように私の涙を拭ってはくれなかった。
彼はシートにもたれ、笑っているのかいないのかわからない顔で言った。
「月城彩葉(つきしろ いろは)、最初に俺を選んでくれてたなら、たぶん本当に一生お前を大事にしてた。でも今のお前は中古だ。そんなお前のために、なんで俺が貞操を守らなきゃいけないんだ?」
そう言うと、彼は施しでもするようにティッシュを一枚差し出した。
私は反射的に身を引き、まるで悪魔でも見るように彼を見た。
私たちは大学時代の同級生だった。
数年前、彼と拓海は同時に私に告白した。
あのとき、私が選んだのは拓海だった。
陸は優しく祝福してくれて、結婚後の私は彼と距離を置いていた。
それが、拓海の浮気で変わった。
私はそのショックに耐えきれず、手首を切って死のうとした。
そのとき陸は、まるで救いの神のように、突然私の世界に現れた。
私を癒やし、地獄から引きずり上げて、この世へ連れ戻してくれた。
あれほど私に尽くしてくれたことを思い出し、私は絶望の中で尋ねた。
「そこまで気にしてたのに、どうして私に近づいて、付き合おうとしたの?」
視線がぶつかり合う中、陸はため息をついた。
「気にしないつもりだった。でも、結婚式の準備をしていくうちに――」
彼は私を見つめ、ひどく苦そうに笑った。
「お前、何もかも手慣れすぎてた。ウェディングフォトじゃカメラマン相手に値切るやり方まで知ってたし、指輪を買うときは、式場でなくしたときのために予備まで一緒に買うこともわかってた。今日だって、婚姻届を出しに行くのに、調べなくても何を着ていけばいいか知ってた……」
陸は言葉を重ねるほど、顔色を険しくしていった。
「お前のやること全部が、嫌ってほど俺に突きつけてきたんだ。俺と結婚するのは中古品なんだって。彩葉、俺はそれがどうしても納得できなかった」
涙で何も見えなくなるほどだったのに、言葉だけは逆にはっきり耳に残った。
「でも、愛してる。
だから、お前が拓海と一年結婚してたなら、俺も一年好き勝手してから家庭に戻ればいい。公平だろ?」
頬に、かすかなぬくもりが触れた。
私ははっとしてまばたきし、涙が陸の手の上に落ちた。
彼は火傷でもしたように、すぐに手を引っ込めた。
「公平なわけない!
そんなに気にしてたなら、そう言えばよかったのに!私を救っておいて、そのあとで裏切るなんて!
私、離婚する!」
叫びながら、魂そのものが引き裂かれるように痛かった。
けれど彼はただ冷え切った目で私を見ていた。
私がひとしきり感情をぶつけ終えるのを待ってから、ようやく情けをかけるように口を開いた。
「もう結婚したんだ。公平かどうかを、お前が決めることじゃない。
離婚?そんなの考えるな。受け入れられるなら受け入れろ。無理なら黙って耐えろ」
その言葉の直後だった。
陸は突然、私側のドアを開けると、何でもないことのように軽く私を突き飛ばした。
「今のお前を見てると、気分が悪い。ちゃんと頭を冷やして反省しろ」
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