愛は風に散って、二度と戻らない第2話
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真夜中、喉が渇いてぼんやり目を覚ます。隣の南翔を起こして水をお願いしようとするのに、彼はそもそも眠っていない。
真っ暗な部屋の中で、スマホが光っている。私を起こさないように、彼は音を消しているらしい。
私は彼の背中越しに、彼が誰とやり取りしているのか静かに見つめる。
画面に表示されるのは「美々うさぎ」という名前だ。彼女からのメッセージにはこうある。
【今日、奥さんとやった?一番好きなのは美々の体だって言ったでしょ?今日は火曜だから妊活の日じゃないよね?】
南翔は、私たちの妊活スケジュールまで彼女に話しているなんて。
彼は【変なこと考えるな。俺と静良のことに口を出すな。静良は、君みたいな人間と比べられる存在じゃない】と返信する。
しばらく既読がついたまま返事がなくて、南翔は不安になるのか、疑問クマのスタンプを送る。
するとすぐに、美々からも「お利口クマ」のスタンプが返ってくる。
【わかったわかった。先生の奥さんが一番ってこと、ちゃんと知ってるよ。美々はお利口だから。
じゃあご褒美に、一番得意な豚の角煮作ってくれる?】
南翔の得意料理は本来、私が学生時代しょっちゅう食事を抜いているのを見かねて、私のために身につけたものだった。
彼はそう言った。「きっと美味しいと思えるものに出会ってないだけだ。俺が必ず、君の忘れられない一品を作ってみせる」
そして彼は毎日毎日、違う料理を作り続けて、最終的に百種類の料理から選ばれたのが豚の角煮だった。
その日、彼は誇らしげに言った。「これで逃げられないな。君の胃袋は俺が掴んだから。
この料理は静良の専属だ。俺のこの手は、君のためにしか動かない」
なのに今、私は目の前で彼が美々に返信するのを見てしまう。
【いいよ、ご褒美に作ってやる】
満足そうにスマホを抱くまま、南翔は眠りにつく。寝返りを打つこともない。
同じ布団にいる私は、顔が涙に濡れている。
翌朝早く、南翔は台所でせっせと料理をしている。
私が起きてくると、彼はからかうように笑う。
「お寝坊ちゃん、早く手を洗って朝ごはん食べろ。ほら、君の大好きな豚の角煮作ったぞ」
心の中で冷笑する。どうせ美々に作ったついでだろう。
私は腕を組んで台所の入り口から見つめる。「朝から角煮なんて、重くない?」
私に気づかれないように、彼は弁当箱をロッカーの奥に押し込む。
私はそれ以上何も言わず、トイレに駆け込む。あと一秒でもここにいたら、涙を堪えられないから。
南翔が学校に出かけると、私はすぐに弁護士相談のページを開く。
「離婚協議書を作成してください。お願いします」
私たちはキャンパスカップルだった。結婚したばかりの頃は何もなく、家も両親が買ってくれた。
一年後、南翔の仕事は順調に進み、有名大学の教授になり、収入も家計をまかなえるほどになった。それで彼の希望どおり、私は仕事を辞めて家庭に入った。
だから離婚の条件は簡単だ。結婚後の財産はいらない。両親が買ってくれた家だけ返してもらえばいい。
私は学歴もあるし、また仕事を探せばどうにでもなる。
弁護士が作ってくれた離婚協議書のファイルを南翔に送ろうとするそのとき、病院からの電話が鳴る。
「安井さん、おめでとうございます。妊活が成功しました。妊娠三週目です」
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