愛は風に散って、二度と戻らない第1話
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結婚して七年目、藤村南翔(ふじむら)は恋に落ちたみたいだ。
ジムに入会して、体型管理に気を遣うようになる。
ネクタイを結んであげているとき、南翔はいきなり「赤いチェック柄に替えてくれ」と言う。
「歳を取るとさ、明るい色が好きになるんだ」
メッセージを送るときも、いつも堅い彼が、珍しくクマのスタンプで返してくる。でも、すぐに送信取消になる。
それでも彼は相変わらずきっちり定時に帰宅して、毎日花を買ってきて、ご飯を作ってくれる。
自分が絶対に考えすぎだと思い込んで笑う。南翔が一番愛しているのは私だ。浮気なんて、あり得ない。
だがある日、私は何気なくドライブレコーダーの映像を再生してしまった。
そこには、南翔が教え子と車の中で必死に絡み合い、甘い言葉を囁き合っている映像があった。
その子は見覚えがある。うちに来て、一緒に食事をしたこともあり、私のことを「先生の奥さん」と呼んだ。
* * *
結婚して七年目、藤村南翔(ふじむら)は恋に落ちたみたいだ。
ジムに入会して、体型管理に気を遣うようになる。
ネクタイを結んであげているとき、南翔はいきなり「赤いチェック柄に替えてくれ」と言う。
「歳を取るとさ、明るい色が好きになるんだ」
メッセージを送るときも、いつも堅い彼が、珍しくクマのスタンプで返してくる。でも、すぐに送信取消になる。
それでも彼は相変わらずきっちり定時に帰宅して、毎日花を買ってきて、ご飯を作ってくれる。
自分が絶対に考えすぎだと思い込んで笑う。南翔が一番愛しているのは私だ。浮気なんて、あり得ない。
だがある日、私は何気なくドライブレコーダーの映像を再生してしまった。
そこには、南翔が教え子と車の中で必死に絡み合い、甘い言葉を囁き合っている映像があった。
その子は見覚えがある。うちに来て、一緒に食事をしたこともあり、私のことを「先生の奥さん」と呼んだ。
彼女は笑顔の明るい子で、話すときはいつも南翔を見て、憧れの色を隠しきれなかった。
映像の中で南翔は彼女にこう言った。「静良(せいら)には絶対に知られちゃダメだ。彼女は妊活中なんだ。傷つけたくない。俺は彼女を本当に愛してる」
私の心が沈んだ。私を愛していても、他の子を好きになるのは別なんだね?
私はその映像をスマホにコピーし、道路脇に座り込んでぼんやりしている。
やがて、定時に帰宅する南翔がバラの花を抱えて現れる。スーツ姿は相変わらず上品で、いつも通りだ。
「静良、どうして帰らないんだ?」
彼は宝物みたいにバラを差し出して笑う。「ほら、今日は特別に花屋さんに頼んで、一番新鮮なのを選んでもらったんだ。
花屋さんは『百合ばっかり七年も贈り続けたら飽きるだろ?たまには違うのもいいでしょ』と言った。どう?気に入った?」
私はそのバラを見つめ、心臓が一瞬止まる気がする。
眉間を押さえ、私は疲れる声を漏らす。「私、バラの花にアレルギーあるって、前に言ったよね」
南翔はやっと夢から覚めるみたいに、「ごめん、静良。学校のことで頭がいっぱいで、すっかり忘れてた」と言う。
彼はその場でバラをゴミ箱に投げ捨てる。
「次は絶対に、こんなバカな間違いはしない」
結婚七年目にして初めて、彼は私のアレルギーを忘れる。
いや、たぶん別の人がバラが好きだ。彼は記憶が入れ替わってしまうだけだ。
自然と、映像の中の宮下美々(みやしたみみ)のことを思い出す。
澄む声で、若くてみずみずしい体は、まるでその赤いバラみたいに艶やかだ。
昔の私は「氷の美人」と呼ばれていた。南翔と一緒にいたばかりの時、誰もが「お似合いのカップルだ」と言った。
けれど七年経った今、私の腹は傷だらけだ。妊活のために何度も刺した注射の痕跡ばかりだ。
私は婚約指輪の跡がくっきり残る手を見つめ、思わず呟く。
「南翔……私たち、本当に最後まで一緒にいられるのかな」
彼の顔色が変わり、突然私の手を強く握って真剣に言う。「静良、俺たちは絶対に添い遂げる。死になっても、一緒の墓に入るんだ。
この心臓は、一生君のためだけに動いてる」
そう言って、彼は私の手を引き、家に連れ帰る。そしてスーツを脱ぎ、台所に立ち、夕飯を作り始める。
南翔は、本当にいい夫だ。七年の間私の世話をして、一度も私に料理をさせたことがない。
食卓に並ぶ料理は美しく整っているのに、私は喉を通らない。
「南翔、あのね……」
勇気を振り絞って、美々のことを聞こうとするそのとき、彼のスマホが鳴る。
「ちょっと待って」
画面を確認する彼は、一瞬眉をひそめるが、すぐに首を振り、食卓の写真を撮る。
「今の学生は本当に生意気でさ、俺の料理の腕前を信じようとしないんだ」
口では文句を言っているが、彼は顔に優しい笑みが浮かんでいるのに気づかない。
私は胸が冷たくなり、その相手は美々だと思い込んでいる。
「美々でしょ?」
彼は何事もないように頷く。「そうそう。あの子はおてんばで、口数も多くてさ。相手してると白髪が増えそうだ」
その言葉を聞いて、胸がさらに痛くなる。
「じゃあ、他の教授に任せればいいじゃん。この間で、私と旅行に行こうよ。
本当なら新婚旅行に行くはずだったのに、学校の急な仕事でずっと延期になったでしょ。ちょうど夏休みも近いし、今度こそ一緒に気分転換しに行こうよ」
「ダメだ」南翔は眉をひそめて断る。
「途中で院生を他の教授に任せるなんてあり得ない。夏休みは彼らの論文も見てやるって約束したんだ。時間なんてない」
強すぎる口調に気づくのか、彼はすぐに声を和らげ、私の頭を撫でる。
「静良、いい子にしてろ。夏休みが終わったら、ちゃんと休みを取って一緒に行くから」
心臓に大きな穴が空いて、風がスースー抜けていくようだ。
「もういい」
私は立ち上がり、寝室に戻る。
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