愛はそこで途切れた第2話
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家に戻った途端、耳をつんざくような音楽が聞こえてきた。
ポチは怖がって、庭の隅で震えながら身を隠していた。
私は無表情のまま扉を開けると、五段重ねの大きなケーキが目に飛び込んできた。
本来なら会議にいるはずの直樹は、拓海を抱きかかえ、人混みの中央に立っていた。
大人と子ども、よく似た二つの顔には同じ喜びが溢れていて、その隣には真由の姿があった。
「真由先生、お誕生日おめでとう!」
拓海が勢いよく拍手すると、直樹と真由は彼をはさんで目を合わせ、ほほえみ合った。
まるでテレビCMに出てくる、幸せそうな「家族三人」の一幕だ。
私は前へ進んだ。
直樹が反射的にこちらを見て、みるみる顔色を変えた。
拓海も拍手の手をぴたりと止めた。
「ママ、今日はおばあちゃんのところにいるはずじゃなかったの?どうして帰ってきたの?」
直樹は落ち着き払って言う。
「母さんのほう、ちゃんと済んだのか?」
私は笑って返した。
「実の息子も孫も顔を出さないところへ、嫁の私が三年通って看病してきた。もう十分、務めは果たしたよね?」
【真由お姫さま、お誕生日おめでとう!】
ケーキに書かれた文字を見つめ、私はそれを指さして、鼻で笑いながら直樹に問うた。
「これが子どもを連れて会議に行くってこと?息子の幼稚園の先生の誕生日を、家で祝うタイプの会議なの?」
直樹は潔癖で、清潔にうるさい人だ。
亡くなった母から私が引き取ったポチも、何度も頭を下げてやっと家に置かせてもらい、活動は庭に限定。家に入ったら、私は隅から隅まで大掃除をしてきた。
彼に不快な思いをさせないよう、機嫌を損ねないよう、私はいつも気を張っていた。
それなのに、いまここは他人の誕生日会場になった。
もう汚れも散らかりも平気ってこと?じゃあ、これまで私が飲み込んできた悔しい思いは、全部当然の報いだったの?
直樹は私より先に動き、真由をかばって背後に下がらせる。
「結菜、今日は真由の誕生日だ。拓海がいちばん好きな先生だろ。君がクレームを入れて職を失わせた。その埋め合わせをしているだけだ」
息子までが両腕を広げて真由の前に立ちふさがり、まるで私が悪事の限りを尽くす悪魔であるかのようだ。
「ママ、真由先生をいじめないで。先生を元気づけたくて、家でお誕生日会してあげただけだよ」
二人には見えていないのだろう。背後の真由が、私に向かって得意げにウインクしていることが。
この女のたった数言で、手塩にかけて育ててきた息子は私を敵視するようになった。
数滴の涙で、七年連れ添った夫は私の評判さえ投げ捨てて私への報復を選んだ。
私はただ一言たずねただけなのに、二人は次から次へと私を責め立てる。
まるで私が、彼らの後ろにいるあの女に何か良くないことをするんじゃないかとでも思っているかのように。
胸の奥に広がるのは虚しさばかりだった。なんて滑稽なんだろう。
これが私の夫で、私の息子なのだ。
私は黙ったまま、隅でおそるおそる顔をのぞかせていたポチを抱き上げて階段を上った。
部屋に戻って間もなく、真由がケーキを持って扉の外に現れた。
「結菜さん、これ、一番最初のひと切れ。特別に持ってきたよ」
それから声を落として、刺すような口調で続ける。
「今日は私の誕生日。直樹が遊園地を貸し切ってくれたの。拓海はね、生まれてからずっと貯めたお年玉で、私にブランドバッグを買ってくれた。あなたは妻であり母親として、そんな待遇を受けたことある?
私が少し泣いてみせただけで、あの親子は慌てふためく。あの写真は、私があなたに仕返しするためのものよ。みんなの前で恥をかかされる気分、どう?
結菜、女としてそこまで堕ちるくらいなら、いっそ飛び降りでもしてくれば?本当に役立たずね。あなたなんて、早くその短命だったお母さんみたいに消えればいいのよ、さっさとね!」
私は茫然としていたけど、やっと目が覚めた。
目の前のこの人の顔が、記憶の中にある甘い顔をしながら冷たい心を持つあの顔と重なった。
十五年前の大雪の夜。
私と母は、あの女の甘ったるい笑い声の中で家を追い出されたんだ。
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