愛の終わり、帰る日のない場所へ第2話
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初恋を知った明日香。彼女は外の世界の華やかさに、すっかり目を奪われていた。
そのまま宗道に別れを告げて、涼太と共に東都へ旅立つことにしたんだ。
宗道は明日香を引き留めようとした。「外の世界は誘惑ばかりで、欲望に飲み込まれて、本当の自分を見失ってしまうことがある。
ここでの暮らしも悪くないし、外の世界が想像ほど素晴らしいとも限らないんだぞ」
でも、明日香の決意は揺るがなかった。「大丈夫。また、時間ができたら、会いに戻ってくるから!」
こうして、彼女は涼太に青木家へ連れて行かれ、何不自由のない贅沢な暮らしをさせてもらった。
このことは東都の社交界でも噂となって、なにやら涼太が美人を囲んでいるなどと広まっていたのだ。
それからの5年間。涼太はとことん明日香を甘やかして、大切にしてきた。
彼女が機嫌を損ねれば、数億円の商談なんて放り出して、海外から夜通し飛行機を飛ばして、ご機嫌を取りに戻ってくるほどだ。
ある日、明日香が事故でプールに落ち、重い肺炎にかかってしまった時のこと。医師には「覚悟をしてください」とまで言われた。
涼太は土砂降りの雨の中を飛び出し、彼女の命をつなぐお守りを求めるために観音寺へ走った。
何百段の階段を、一段進むたびに深々と祈りを捧げて登りきると、彼の足はガクガクになっていたのだった。
そして、涼太は20億円を投じて小惑星の命名権を買い、そこに明日香の名前を付けたりもした。
さらに、愛染堂という縁結びに縁がある名所では敬虔に祈りを捧げ、二人の名前を刻んだ縁結びの錠を自らの手でかけたこともある。
だから、周りの人も皆、涼太が明日香に心底惚れていると言っていたのだ。
しかし、5周年の記念日。プレゼントを用意して涼太の元へ向かった明日香は、友人たちと談笑する彼の声を耳にしてしまうのだった。
「霞は海外で療養してるけど、随分良くならないんだ。彼女の最大の願いは、俺との結婚式だからさ。とびきり盛大な式を挙げてやるって約束したよ」
すると友人たちがからかうように尋ねた。「明日香さんに知られたら、大変なことになるんじゃないか?」
すると、涼太は気だるげに瞼を上げた。「明日香は嫉妬深いからな。お前らも口裏を合わせて、上手く隠し通してくれ」
それを聞いて友人は更に囃し立てた。「あなたたちの婚姻届が本当は手続き行われていなかったなんて知ったら、彼女はショックで倒れちまうだろうな!」
それを聞いて、明日香は息が詰まり、あふれ出る涙をどうしても抑えることができなかった。
金田霞(かねだ かすみ)こそが、涼太の心に住み着く「高嶺の花」であり、永遠の想い人なのだ。
霞と涼太は若い頃に愛し合ったが、家族が猛反対し無理やり別れさせようとした。
そのために、生まれつき心臓に病気を持っていた霞を、青木家は療養名目で海外へ追い出したのだ。
そして、そんな幼なじみである彼女の高額な治療費を、涼太がずっと肩代わりし続けているのだった。
一方で涼太は友人の言葉など全く気にしていないようで、逆にとろけるような優しい目で言った。「霞は賑やかなのが好きだからさ。結婚式の日は、お前ら絶対盛り上げに来いよ!」
「明日香さんはお前にベタ惚れで、この5年間ずっと尽くしてきたってのになぁ」
その言葉に周囲は下卑た笑い声が響いた。「あんな極上の女だ、ベッドの上じゃさぞかし楽しんだろうな?」
すると、涼太は腕の数珠ブレスレットを弄りながら答えた。「霞は体が弱いから、指一本触れるのも惜しい。だから俺は、抑え込んだ欲求を全部、明日香にぶつけて処理してたんだよ。
あいつは何でも受け入れるからな。ベッドでの趣向も豊富で、ありとあらゆる体位を試させてくれたぜ!」
それを聞いて、明日香は奈落の底に突き落とされたような気分だった。そして息がつまり、呼吸ができなくなるほどになった。
すると今度は友人たちが涼太に知った風な口調で忠告した。「涼太、あんまり感情を入れ込みすぎるなよ?潔く別れるのが難しくなるぞ」
だが、涼太は眉を軽く上げた。「明日香が毎日飲むミルクに、俺がこっそり避妊薬を混ぜてるんだ。子供なんてできないし、あと腐れになることもないさ」
一方でそれを聞いていた明日香は、思わず結婚指輪が皮膚に食い込むほど手をぎゅっと握りしめ、その突き刺す鋭い痛みを感じた。
涼太の今まで自分に向けた優しさはすべて、計算ずくの偽りだったなんて。
そう思うと、明日香は指輪を引き抜くと、変形するほどの力を込めて、ゴミのように放り投げた。
それから彼女がドアを勢いよく開けると、個室に響いていた笑い声がピタリと止んだ。
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