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愛の終わり、帰る日のない場所へ第1話

この話は約2050字。当サイトでは第1〜3話を試し読みできます。

響音寺の境内は、読経の響きと人々の熱気で満ちあふれていた。

そんな中、望月明日香(もちづき あすか)も本堂の座布団にひざまずき、ひたすらに祈りを捧げいた。

「私、望月明日香は聖地へ向かいます。聖山を守り、二度と北嶺山地からは出ないことを誓います!」

その傍らで住職の藤原宗道(ふじわら そうどう)は質素な衣をまとう明日香を見つめた。「聖山朝霧は、最後の浄土だ。足を踏み入れるなら、執着を捨て、人の情けも欲もすべて断ち切らねばならぬ」

それを聞いて、明日香の瞳がわずかに揺れる。だがその奥にあるのは、すべてをあきらめたような静けさだった。

「はい、もう結婚も子供も望まない。すべての未練を捨てて、この身を捧げる覚悟はできているから!」

そんな彼女を見て宗道は目に憐れみの色を浮かべて言った。「聖山は空気も薄く、一年中凍えるほどの寒さだ。それだけ生活環境も厳しく、一度入れば、命尽きるまで聖地を守り続けねばならないのだ。

明日香、本当に覚悟はできているのか?」

だが、明日香は深くうなずいて言った。「はい。私は命あるかぎり一生を聖地に捧げるつもりよ!」

彼女の決意が固いのを見て、宗道もそれ以上引き止めなかった。「では3日の間、身を清めて待てなさい。その後、地元の者に聖山へ送らせよう」

明日香が向かう聖山朝霧は、仏教の聖地で、部外者が足を踏み入れることは許されていないのだ。

一旦聖地を守るために山に入れば、外の世界とは完全に切り離されてしまうことになる。

それはつまり、青木涼太(あおき りょうた)とも、もう一生、二度と会えなくなるということだった。

* * *

響音寺の境内は、読経の響きと人々の熱気で満ちあふれていた。

そんな中、望月明日香(もちづき あすか)も本堂の座布団にひざまずき、ひたすらに祈りを捧げいた。

「私、望月明日香は聖地へ向かいます。聖山を守り、二度と北嶺山地からは出ないことを誓います!」

その傍らで住職の藤原宗道(ふじわら そうどう)は質素な衣をまとう明日香を見つめた。「聖山朝霧は、最後の浄土だ。足を踏み入れるなら、執着を捨て、人の情けも欲もすべて断ち切らねばならぬ」

明日香が向かう聖山朝霧は、仏教の聖地だ。一旦聖地を守るために山に入れば、外の世界とは完全に切り離されてしまうことになる。

それはつまり、青木涼太(あおき りょうた)とも、もう一生、二度と会えなくなるということだった。

……

明日香は幼い頃に両親を亡くし、響音寺で育った。

5歳の時だった。両親とお参りに来た際に、恨みを持つ者の襲撃を受けたからだ。

あの時両親は暴漢に殺されたが、彼女は仏像の台座の下に隠れて、奇跡的に助かった。

ひとりぼっちになった明日香を見て、宗道が不憫に思い、引き取って育てあげた。

18歳のとき、明日香は涼太と出会い、一目で恋に落ちた。

当時、涼太は親が決めた政略結婚から逃げるため、北嶺山地へやって来て修行生活を送っていた。

ある夜、明日香はこっそりと彼の部屋の扉を開けた。

涼太は座布団の上で、数珠を指で繰りながらお経を唱えていたのだったが、その冷ややかで禁欲的な姿が、かえって彼女の心をかき乱した。

明日香は思い切って涼太の膝にまたがると、白い指先で強引に彼の顎を持ち上げた。

彼女のまとっている赤いドレスは薄く、なまめかしい身体のラインが透けて見えるほどだった。

数十年も「いい子」として生きてきたけれど、彼女は一度だけでいいから、羽目を外してみたかったのだ。

「青木さん、あなたはまだ未練があるでしょう?これでは、お経を読んでも心は静まりませんね」そう言って明日香は声をかけた。

一方の涼太の目線は、雪山のように冷たく鋭く、どこか触れることさえためらわせるような威圧感があった。

彼は瞳の色を少し沈め、低い声で警告するように言った。「神聖な場所で、罰当たりな真似はやめなさい。恥ずかしいと思いませんか?」

しかし、そう言われても明日香はしなやかな身体を寄せ、艶めかしく涼太の腰に腕を回す。「人には愛も欲も、喜びも悲しみもあるもので、どうして恥ずかしがる必要があるんですか?」

18歳といえば、恋に憧れ、夢を見たくなる年頃だ。

ずっと響音寺で育ってきた明日香は、外の世界に強い憧れを抱いていた。

だが、そんな艶めかしい姿を見せる彼女を目の前にしても、涼太の表情には波ひとつ立たず、目線も冷え切ったままだ。

すると、明日香はゆっくりと甘い言葉をささやいた。「青木さんは政略結婚の犠牲になりたくないのですが、家族とも揉めたくないので、ここへ逃げてきたんでしょう?

逃げるのは臆病者だけがすることで、強い人は運命を範疇に収めるために自ら立ち向かうものです!」

本来なら、涼太は寺という静寂の地に逃げ込むことで、世俗の煩わしさから離れられると思っていたのだ。

だが今、彼は明日香の言葉を聞いて、彼女の耳元に顔を寄せ、熱い吐息が吹きかけた瞬間、平常心は音を立てて崩れ去ったようだ。

その晩、蝋燭の炎が揺れ、窓のカーテンがふわりと舞う中、

部屋は甘く、濃厚な空気に満たされていった。

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