愛の終わりは空虚だった第3話
この話は約1524字。当サイトで読める3話の試し読みのうち、最後の話です。続きの第4話からは公式アプリで読めます。
「もう疲れたの」
静野は二人を相手にする気にもなれず、そのまま背を向けて歩き出した。
翔悟が追いかけてくる。
「どこ行く。千裕たちが『緋色』でおばさんの歓迎会を開いてる。静野も来るんだ」
彼女は冷たく笑った。
「歓迎するのは彼女でしょ?私じゃないのに、なんで行かなきゃいけないの?」
「静野!今までずっと聞き分けがいいのにどうしてそんなことを言うんだ。
おばさんだって俺たちの結婚式に出るために仕事を置いて戻ってきたんだぞ。それなのにその態度は何だ!」
翔悟が静野に怒鳴ったのは、これが初めてだった。
彼女は彼を見つめる。涙が今にも溢れそうになった、そのとき――
和歌奈がしなやかな足取りで歩み寄り、翔悟の腕に手を絡めた。
「そんな言い方しないで。女の子には優しくしなきゃ。
ね、静野さん、一緒に行きましょう?」
――
静野は半ば強引に駐車場まで連れて行かれた。
車に乗ろうとしたところで、翔悟は助手席のドアを開け、和歌奈を先に座らせる。
「おばさんは車酔いするから、静野は後ろに」
静野は何も言わず、そのまま後部座席へ回った。
どうせ、もうすぐ全部終わる――そう思えば、どうでもよかった。
「おばさん、ちょっと待って」
和歌奈が乗り込む前に、翔悟はわざわざシートの角度を調整した。
和歌奈は驚いたように笑う。
「こんなに時間が経ってるのに、まだ私の好み覚えてるのね」
翔悟の声は、やけに柔らかかった。
「当然だろ。おばさんの好きなものは、全部覚えてる。それと、好きなみかんも用意してあるよ」
彼は収納ボックスを開け、中から一番良さそうなみかんを取り出し、手慣れた様子で皮を剥き始めた。
和歌奈は甘えるように笑う。
「こんなことまで覚えてるの?あの白い筋、翔悟くんは毎回私のためにちゃんと取ってくれるのよね。本当に優しいんだから」
その光景を見て、静野はまるで冷水を浴びせられたようだった。
ずっと、自分にだけしてくれていることだと思っていた。
けれど、違った。
彼の優しさは、すべて偽物だったのだ。
この3年間、自分が感じてきた愛情は、一度たりとも自分のものではなかったのか。
涙が頬を伝う。
静野は唇を強く噛み、声を漏らさないように必死に堪えた。
そのとき、スマホが震える。
以前訪れたウェディングドレスショップの店長からだった。
何着ものドレスの写真が送られてくる。
【砂川様、以前ご覧になっていたドレスです。挙式ではどれをお選びになりますか?】
――結婚式。
そういえば、自分と翔悟の挙式日程は、すでに決まっていた。
けれど今は、もう結婚する気にはなれない。
【結婚式はキャンセルするつもりなので、ドレスは不要です。今までありがとうございました】
「この子ったら、結婚するのにまだこんなに軽口ばかり!静野さんはいい子よ。ちゃんと大事にしなさい」
「おばさん、今回はどれくらいいるんだ?」
「どれくらい?翔悟くんの結婚式が終わったら帰るわよ。もしかしておばさんに会えなくなるの、寂しいの?」
前の席では、二人が軽口を叩き合いながらじゃれ合っている。
静野の存在など、まるで意識していないかのように。
彼女は何も言わず、ただ静かに翔悟の祖母――洋子(ようこ)の連絡先を開き、メッセージを送った。
【申し訳ありません、洋子さん。私、翔悟との結婚を取りやめたい】
次の瞬間、すぐに電話がかかってきた。
「どうしたの、静野ちゃん?どうして急に結婚を取りやめるなんて......翔悟は?あの子に代わりなさい」
「ごめんなさい、これは私の意思です。彼には聞かないでください。今は少し用事があるので、あとで直接お話しに伺います」
電話を切った直後、翔悟が振り返った。
「誰と電話してた?何を取りやめるって?」
「別に。大したことじゃないものを、取りやめるだけだから」
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