愛と別れのその先へ第2話
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動画が終わった。
それでも、私はじっと画面を見つめたまま、動けなかった。
気づいたら、もう一度、最後の部分だけを再生していた。
何度も何度も、龍也の言葉を確かめるように。
……あの「わかった」を。
私は溺れている人みたいに、必死に、何かにすがろうとしていた。自分を騙すための一本の藁に縋り。
十三回目にその言葉を聞いた時、ぽたりと涙が画面に落ちた。
慌てて顔を拭って、いつの間にか、涙で頬が濡れていた。
かなしい?
ううん、そうでもない。
つらい?
少しだけ。
では、なぜ涙が溢れるのだろう?
バスルームに行って、水を両手で掬って、顔に当てる。顔を上げた瞬間、鏡の中の自分を見て、思わず息を呑んだ。
これは私?
髪はボサボサで、肌はどこか黄色っぽく、目の周りは真っ赤に腫れている。
今朝の私は、こんなじゃなかった。
本当に、誰かを好きになりすぎると、自分が変わってしまうんだね。
龍也のことを、好きで好きでたまらなかった。
五年も一緒にいて、ついに結婚するんだって、私は信じていた。
これで、全部うまくいくんだって。
でも、その「うまくいく未来」は、最初からもう臭く、腐っていた。
【結婚したいんだけど、新郎がいないんだよ。誰か応募してくれる人~?】と投稿する……
友達から、あっという間に返信が届き始めた。
みんな、私が龍也のことをどれだけ好きか知っている。だから、この投稿を真に受けるやつはいない。
コメントには、いっぱい「マジ?」や「本人?」、「冗談でしょ?」って言葉が並んでいた。
私はそれを見て、自嘲するように笑った。
でも、その時。スマホが震えた。
南秀康(みなみ ひでやす)だ。
その名前を見た瞬間、瞳が、わずかに縮んだ。
秀康は私の幼馴染。でも、別に仲が良いわけじゃない。
むしろ、小さい頃から喧嘩ばかりしていた。
小学生の頃から高校まで、彼はいつも私の肩を抱えるようにして、「お前は俺が守る」とか言って、周りには、「俺の兄弟だ」と吹聴していた。
大学に入ってからは、別々の町に行き、ほとんど連絡を取らなくなった。
正直言うと、私は龍也と付き合うために、自然と疎遠になったんだ。
なんで、今さら電話してきたんだろう。
迷ったけど、出た。
「よお、ブラザー。どうしてこんなに返事遅いんだよ、あにきからの電話に……」
相変わらずの、いつもの軽口。
その声を聞いた途端、胸の中にあった暗い雲が、少しだけ晴れた気がした。
「どうしたの?急に電話して」
彼は珍しく少し沈黙してから、口を開いた。その声は、少し深くなっていた。
「その、投稿、マジで言ってんの?」
私は彼の変化に気づかず、ふわっと返した。
「へぇ、来るの?」
「来るよ!
ダメ?」
今度は、私が黙る番だった。
考えてみたら、もし本当に結婚相手を変えるなら、秀康はちょうどいい相手かもしれない。
家柄もいいし、私たちの関係も長い。
「もちろん、いいよ。でも、理由を聞かせて」
「理由?当たり前だろ、お前のことが好きだから」
秀康の声が、いつもの大らかな調子に戻ってた。
「お前のことずっと好きだったんだぜ。夢の中でもお前を娶って家に連れて帰りたかった。だから、チャンスを逃すわけにはいかねぇだろ?」
「これ、結婚なんだよ!遊びじゃない」
「わかってるよ」
彼はにやりと笑った。
「へへっ、だからだよ。お前を嫁にもらうだけじゃなくて、小川龍也よりもっとお前を愛させてもらうぞ」
もっと彼を愛するのか?
それ、私にできるのかな。
でも、どうでもいいや。
「いいよ」
私はそう答えた。
「手元のことを済ませたら、また連絡するわ」
秀康は、それ以上何も聞かなかった。
いつもそうだ。
彼は賢い。聞くべきことと、聞かないほうがいいことを、ちゃんとわかっている。
電話を切ったあと、あの投稿を削除した。
それから、秀康の名前を友達リストのトップに置き、ニックネームも変更した——「夫」。
龍也が、他の女と子供を作るなら、私は、別の男を「夫」にするだけ。
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