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愛と別れのその先へ第1話

この話は約1795字。当サイトでは第1〜3話を試し読みできます。

彼氏が性に興味ないって言うから、5年間、手をつなぐことと抱きしめることにとどまった。

キスも、親密な行為も、何もなかった。

同じ布団の中でも、彼は寄り添ってこない。

最初は、彼の性格がそうなのだと思った。

でも、ある日、彼は恩師の娘と子どもを作ると言い出した。

「ただ、精子を貸すだけだ。これは先生の遺言だから、断れないんだ。優香には、俺しか友達いないから」って。

私は、何も言わなかった。ただ、微笑んで、頷いた。

「うん。応援するよ」

もう、愛してない人のことで、正しいか間違ってるかなんて、争う必要ないものだ。

* * *

小川龍也(こがわ たつや)と付き合って、もう五年になる。

付き合う前、彼はこう言った。

「異性との、体の接触は苦手なんだ」

「もし嫌なら、別れてもいいよ」

優秀な人には、多少変な癖があるものだと思った。だから、私は特に気にしなかった。むしろ、彼のことも受け入れた。

五年来、私たちは穏やかに過ごした。

でも……

ある夜更け、突然、電話が鳴った。

龍也の恩師が、危篤だって。

電話を受けた彼は、何も言わずに服を着て、病院へ走って、翌朝、疲れ切った顔で帰ってきた。

朝食の席。

ふいに、彼が言った。

「優香と、子どもを作るつもりだ」

一瞬、聞き間違いかと思った。

「え?何て言ったの?」

彼は相変わらず穏やかな顔してる。

「先生の容態が、もう長くない。一番望んでいるのは、娘の優香が、信頼できる誰かのもとに嫁ぐことだ」

「先生は、ずっと俺を助けてくれた。その恩に、報いなければ……」

私は言葉を失った。「でも、他の人に頼めば?優香ちゃんだって、普通に彼氏とか……」

龍也が眉を寄せた。「感情のこと、そんなに軽く考えていいのか?

それに、ただ子どもを作るだけ。

精子を貸すだけ。結婚するわけじゃない」

なにそれ、平然としての?

「龍也。今、何て言ったの?

あと一ヶ月で、結婚するんでしょ?それなのに、他の女と子供を作るって、どういうこと?」

龍也の眉が、わずかに寄せられ、その目にも、初めて苛立ちが浮かんだ。

「優香は、恩師の娘だ。妹のようなものだ。どうして、他人扱いするんだ?」

「妹が、自分の兄に『妊娠してほしい』なんて言うの?!」

わからない。

本当に、わからない。

そんな私の反応は予想外だったのか、龍也が一瞬だけ固まった。

でも、すぐにいつもの無表情に戻る。「幸(さち)、そんなに無茶苦茶言わないでくれ。俺は……」

話を遮られたその時、スマホが鳴った。

彼は画面を見るなり、表情を変えた。

「わかった、すぐ行く」

龍也は私の方を、一瞥もしない。立ち上がり、足早に部屋を出ていった。

テーブルの上には、朝から丁寧に作った朝食。彼が口にしたのは、ほんの一口だけだった。

ドアが閉まる音がした瞬間、私は全身の力が抜けたように、椅子にぐったりと座り込んだ。

いつから、こんな風になってしまったのだろう?

私は過去を思い返した。

大学時代、龍也は有名だった。「氷の男神」、「高嶺の花」と呼ばれ、誰も近づけない存在だった。

彼に近づこうとする者は、誰一人として例外なく、容赦なく、遠ざけられていた。

龍也が女嫌いだなんて噂さえ、ちらほら流れていた。

でも、私は信じなかった。

三年間、執拗にアプローチし続けた。

告白も、何度も何度も。

嫌がられても、逃げられても、諦めなかった。

そしてついに、彼は心を開いて、私のことを、受け入れてくれた。

付き合い始めてからも、彼は相変わらず、感情を表に出さない。

でも、それでもよかった。だって、彼は私の恋人だったのだから。

だけど……

どうして、婚約目前で、こんな決断をするのだろう?

「異性との接触は嫌だ」と、あんなに強く言っていたのに、よくも「ただ精子を貸すだけ」って平然と言えるなんて。

私はソファに座り、夜更けまでずっと待ち続けた。

でも、やって来たのは龍也ではなく、小林優香(こばやし ゆうか)からの動画メッセージだった。

動画の中では、龍也がベッドの前に立ち、彼の先生が彼の手を握り、力なく声をかけている。

「龍也君、私の状態は分かってる。この一生、期待することも何もない。ただ、娘が良い人を見つけて、穏やかに暮らせることだけが願いだ」

龍也は目元を赤らめ、俯いたまま、何も言わなかった。

その後、優香の声が口から零れ落ちた。「龍也君、お父さんの遺言だから、今夜、私は部屋で待ってる」

手が、緊張で強張っていた。

動画の最後、龍也の声が、かすかに聞こえた。

「わかった」

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