愛という名の嘘第2話
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その記事には、もう一枚写真が載っていた。
写真の中の耕平は、きっと嬉しそうに笑っているのだろうと思った。
私は二階の廊下の突き当たりにある部屋まで歩いた。そこは耕平のコレクションルームだった。
彼はよく、そこで一日中過ごしていた。
私が見えないこともあってか、彼は一度も私を気に留めたことがなかった。
ドアを押し開けて中に入ると、私はスマホで部屋の隅々まで写真を撮った。
撮った写真をネットに投稿し、写っているものが何なのかを見た人に尋ねた。
コメントはすぐについた。
【これ、画家の江坂香奈美の作品じゃない?投稿者さん、かなりのファンなんだね】
【正直、江坂香奈美の絵って受賞作の何点かを除けば、同じ人が描いたとは思えないものばかりで、コレクションする価値はないと思う】
【こんなにあるの?数えてみたら、全部で百二十枚もあった】
そこで私は、香奈美についてネットで調べてみた。
この二年、彼女は作品で国内外の賞をいくつも受賞していて、そのたびに耕平はわざわざ会場まで足を運び、直接祝っていた。
香奈美の知名度を上げるためなら、耕平は多額の資金を投じて、彼女の絵を高額で落札することさえ惜しまなかった。
香奈美の夫の会社が経営危機に陥ったときでさえ、宍戸グループの資金援助によって救われていた。
本当に、耕平は香奈美を深く愛しているのだ。
彼女に苦労をさせたくなくて、自分の恋敵にまで手を差し伸べるほどに。
香奈美に向ける彼の愛は、まっすぐで疑いようもないものだった。
その一途さに、胸が震えるほど心を揺さぶられてしまった。
翌朝、私は立て続けに三つの病院で目の診察を受けた。
どの病院でも答えは同じだった。角膜移植を受ければ、かなり高い確率で視力が戻るというのだ。
実はその三つの病院には、どこも以前、耕平に連れられて来たことがある。けれど当時の医師たちは、そろって「治療は不可能だ」と言っていた。
――これで確信した。
耕平は最初から、私の目が治ることを望んでいなかったのだ。
病院を出た途端、私はこらえきれず、その場にしゃがみ込んで泣いた。
悔しさも、戸惑いも、苦しさも――洪水のように胸へ押し寄せてきた。
この二年間の嘘には、もう耐えられなかった。
しばらくして気持ちが落ち着くと、私は弁護士事務所へ向かい、離婚協議書を二通受け取った。
それをバッグにしまい、路肩に立ってタクシーを待つ。
やがて一台の車が目の前で止まり、運転席の女が窓を下ろした。
「心未じゃない。どうして一人でこんなところにいるの?ちょうど耕平の会社に行くところなの。乗って、一緒に行きましょう」
香奈美の声だった。
断る間もなく、彼女は車を降りてきて私の腕をつかみ、そのまま車の中へ押し込んだ。
道中、彼女はずっと私を見下すような言葉ばかり並べ立てた。
「昔、先生がクラスのみんなの前で言ってたわよね。あなたはきっと大画家になるって。なのに皮肉よね、目が見えなくなった今、どうやって絵を描くの?
それに、私に感謝しなきゃだめよ。私が耕平を断らなかったら、あなたが彼と結婚できるはずなかったんだから。目も見えないあなたじゃ、一人で生きていくことだって難しいでしょう?」
膝の上に置いた手を、私は知らないうちに強く握りしめていた。
香奈美は私の目を奪い、人生まで壊しておきながら、よくもこんなことを平然と言えるものだ。
耕平と本当にお似合いだと思った。まさに似た者同士だった。
車を降りて会社に入ると、すぐに社員たちのひそひそ話が耳に入ってきた。
「あの人が社長の奥さんでしょ?江坂さんと並ぶとさすがにちょっとね。片方は白杖ついてるし、もう片方はあんなに仕事もできて華やかで」
「だから社長、パーティーにはいつも江坂さん連れてくるんだよ。目の見えない奥さん連れて歩きたい人なんて、普通いないでしょ」
「でも社長と奥さんって幼なじみなんでしょ?あえて外に連れ出さないのも、守ってるつもりなんじゃない?」
エレベーターに乗り込むと、香奈美がふいに笑い出した。
「心未って、本当にかわいそう。ちょっと同情しちゃいそう。
安心して。あなたの代わりに、この世界は私がちゃんと見ておいてあげるから」
長いあいだ胸の奥に積もっていた怒りが、その瞬間、弾けた。
私は白杖を放り出し、手を振り上げて彼女の頬を打とうとした。
けれど香奈美は、あっさりと身をかわした。
そのくせエレベーターの扉が開いた途端、耳をつんざくような悲鳴を上げた。
「心未、どうして私を叩くの?」
次の瞬間、誰かが駆け込んできて、私は勢いよく床に突き倒された。
その人はすぐに、床にしゃがみ込んだ香奈美を抱き起こした。
――耕平だ。
彼の声には、はっきりと怒りがにじんでいた。
「心未、お前、なんで香奈美に手なんか出すんだよ。
香奈美はたまたまお前を見かけて、親切にここまで送ってくれただけだろ。何してるんだよ」
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