愛してたのは本当、別れても後悔しない第2話
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足音が聞こえた瞬間、紗良はすぐに電話を切った。
ベッドの横がわずかに沈み、直樹が背後からそっと彼女を抱きしめてきた。
耳元には、そっと落ちる優しいキス。
紗良は拳をぎゅっと握りしめ、眠っているふりをした。
本当に感心する。あんなに自然に、完璧に嘘を演じられるなんて。
彼女が再び目を覚ましたときには、すでに朝日が差し込んでいた。
ベッドの脇には一枚のメモが置かれており、その上には精巧な苺のショートケーキが丁寧に乗せられていた。
「紗良、今日は会社の接待があるよ。君の大好きなスイーツを用意しておいたから、起きたらまずお腹を満たして、それからおばさんにご飯を作ってもらってね」
紗良は呆然と座り込み、直樹の勢いのある美しい筆跡をじっと見つめた。
その時、携帯にメッセージが届いた。
「直樹が今何をしてるか知りたい?『酔夜』の888号室に来て」
紗良はしばらく黙ったまま、ゆっくりと立ち上がり、身支度を整えて、ドライバーに指定された住所まで送ってもらった。
車を降りた瞬間、目に飛び込んできたのは『酔夜』の豪華な巨大スクリーンに映し出された文字。
「真琴姫様、帰国おめでとうございます!」
紗良の足は一瞬止まったが、すぐに決意を固めて中へと入っていった。
個室の扉はわずかに開いており、賑やかな笑い声と騒ぎ声が絶え間なく漏れてくる。
直樹の隣には、長い髪に白いワンピースを着た、清楚で美しい女性が座っていた。
彼女にお酒を勧める者もいたが、すべて直樹が途中で止め、代わりに自分で飲み干していた。
新垣真琴(あらがき まこと)――紗良の大学時代の同級生で、同じ専攻だった。
大学四年間、どんな試験でも、どんな課題でも、紗良がいる限り、真琴は常に二番手だった。
だからこそ、紗良が代表の座を奪ったなんて話は、まったくのデタラメだった。
「直樹、紗良と付き合ってもう三年になるんでしょ?」
直樹が答える前に、横から親友が口を挟んだ。
「真琴、誤解すんなよ!桐生坊ちゃんは、全部お前のためにやってんだ。紗良に仕返しするためだけにさ!」
「俺が証人だよ。去年の誕生日のとき、桐生坊ちゃんが自分で作ったプレゼントをわざと蓮の池に落とした話、覚えてる?」
「ははは、俺のスマホにまだ写真残ってるぞ!泥だらけの中で必死に探してる彼女の姿、まるでメスゴリラみたいだったな!」
紗良の全身が震え、ドアノブを握る手は白くなるほど力が入っていた。
はっきり覚えている。あの時、直樹はプレゼントを彫刻するために、両手が傷だらけだった。
彼女は感動して、心配して、専門のダイバーを待つ間も惜しんで、自ら悪臭のする泥の中に飛び込んだ。
結果、足はヒルに何度も噛まれて血だらけになったが、何も見つからなかった。
「キャー、直樹!これって去年あなたがくれた翡翠のペンダントだったの?自分で彫ったの?」
真琴が襟元からネックレスを引っ張り出し、驚きの声を上げた。
直樹は彼女の白い鎖骨をじっと見つめ、目に驚きと喜びが浮かんだ。
「ずっと身につけてたのか?」
真琴は微笑みながら唇を引き結んだ。
「あなたがくれたものを、大事にしないわけないでしょ?」
一年越しに、紗良はようやくそのプレゼントの正体を目にした。
本当に、美しかった。
だけど、それは他の女の首にかかっていた。
皆が集まって、スマホの写真を見ながら腹を抱えて笑い転げていた。
その時、誰かがドアの外に立っている彼女に気付いた。
「え……紗良?」
直樹の目が鋭くなり、すぐに立ち上がった。
「紗良!いつからいた?」
紗良は込み上げる吐き気を必死にこらえ、何事もなかったように振る舞った。
「たまたま通りかかっただけ」
直樹は紗良の表情をじっと観察したが、特に異変は読み取れなかったようで、ほっと息をついた。
彼は手を伸ばし、彼女を中に招こうとしたが、紗良はさっと身を引いた。
「みんなで盛り上がってるところ、邪魔したくないから」
直樹の目に陰りが差した。
「さっきの話、聞いてたのか?」
紗良は心の中の皮肉を押し殺して、笑顔を作った。
「私たちの関係って、みんなに公表してないでしょ?今ここに入ったら、私ってどんな立場?場違いだよね」
そう言い残し、直樹の表情を見ることもなく、紗良は『酔夜』を飛び出した。
その道すがら、止めようもなく涙があふれた。
笑われ、騙された屈辱よりも――
何よりも、枕を共にした最愛の人からの裏切りが、一番痛かった。
ぼんやりとした意識の中、突然、耳をつんざくブレーキ音が響いた。
黒いセダンがどこかで制御を失い、猛スピードで紗良に突っ込んでくる。
あまりの恐怖に体が動かず、もうダメだと目を閉じた瞬間――
「危ない!」
誰かの叫びとともに、紗良を庇うように人影が飛び込んできて、そのまま地面を数回転がった。
目の前が、真っ赤に染まった。
紗良は震える手で、直樹の頭を抱きかかえ、叫び声を上げた。
復讐のためだったはずなのに――なぜ、命を懸けて助けるの?
この三年間で、少しは彼の心も温もりを覚えたのだろうか……
直樹の唇は真っ青で、右腕も不自然な方向に曲がっている。
それでも彼は、自分のことなど気にもせず、紗良を心配するばかりだった。
「紗良……怪我はない?」
紗良はまだ震えが止まらないまま、首を横に振った。かすり傷程度だった。
その答えを聞いて、直樹は安堵したように、そのまま意識を失った。
病院での検査結果は、骨にヒビと軽い脳震盪。
何を食べても吐いてしまう直樹のために、紗良は家に戻ってスープを作ることにした。
しかし途中で携帯を忘れたことに気づき、病室へ戻った時、思いがけない光景を目にした。
あの放蕩仲間たちがベッドの周りに集まり、笑いながら話していた。
「どうだった?俺たちが用意した偽の血のり、うまくいったろ?医者も全部グルだぜ」
「ははは、紗良が震えながら必死で泣いてたの見た?口の端に水ぶくれまでできてて、マジでウケた!」
直樹の頭の包帯は解かれ、額は綺麗なまま。
骨折してるはずの腕も、何の問題もなく箸を持って料理を食べていた。
「今日、勝手に彼女を呼び出すなって言ったろ?バレるかと思って焦ったけど、どうやら問題なさそうだな」
「心配すんなって。紗良みたいなバカ女、今まで何回騙されてきたと思ってんだよ。あれだけ桐生坊ちゃんに惚れてんだから、バレたってしがみついて離れねーよ」
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