愛してたのは本当、別れても後悔しない第3話
この話は約1721字。当サイトで読める3話の試し読みのうち、最後の話です。続きの第4話からは公式アプリで読めます。
紗良は彼の無傷の身体をじっと見つめ、心の底から冷え切っていた。
自分のせいで直樹が怪我をしたと思い込み、反省していた自分が馬鹿みたいだった。車に気を取られていたことを悔やんでいたのに――
なんと、あれも彼の周到な芝居だったのだ。
三年間の付き合いの中、一体どこまでが本当だったのか。
もう何も信じられなくなった。
紗良は踵を返してその場を去った。スマホすら持ち帰る気になれなかった。
別荘に戻った彼女は、いつもなら作るはずのスープも作らず、黙々と荷物の整理を始めた。
自分のものはすべて実家に送り返す準備をし、直樹からもらったものは、すべて捨てた。
一つでも目に入るだけで吐き気がする。
あんな男の贈り物に、どんな裏があるかわからないし、誰かに盗撮されて笑いものにされるかもしれない!
片付けてみると、二人の思い出が思いのほか多いことに気づかされた。
どれも紗良が大事に保管していたもので、新品同様に綺麗だった。
そのとき、下の階から玄関のドアが大きく開く音が響いた。
紗良は箱を隠し、部屋を出ようとしたところ、いきなり胸元にぶつかった。
直樹だった。息を切らし、額には汗が滲んでいる。顔は険しく、左手には紗良のスマホを握っていた。
「なんで夜になっても病院に戻らないんだ?」
低い声でそう問いかけながら、彼はスマホを突きつけてきた。
「さっき友達申請が届いたんだ。メッセージには『あなたの婚約者です』って書いてあったけど、どういうことだ?」
紗良は一瞬固まり、すぐに目を伏せて表情を整えた。
「婚約者なんていないよ。誰かが間違えて送ったんじゃない?」
直樹はじっと彼女の顔を見つめていたが、完全には疑いを拭えない様子だった。
「それにしても、スマホのパスワードが変わってたよな?前は俺の誕生日だったろ?」
紗良は内心でほっとした。
昨日目が覚めたあと、すぐにパスワードを変更しておいて本当によかった。今のタイミングで直樹に真実を知られるわけにはいかなかった。
少し考えてから、無邪気な表情を作って言った。
「よく考えたら、あなたの誕生日ってバレやすいでしょ?もし誰かに見破られたら困るし」
直樹の目が一瞬だけ曇った。
「バレてもいいだろ。いっそ、俺たちの関係を公にすればいい」
その言葉に、紗良は驚いたように彼を見つめた。
これまで何度か遠回しに関係を公表したいと伝えてきたのに、直樹はいつも即座に否定していた。
三年間、ずっと秘密の恋人だった。
デートのほとんどは、ホテルのベッドの上だった――
「紗良、今は我慢だよ。将来は毎日一緒にいられるんだから、ずっと一緒に歳を重ねよう」
その言葉にすがって、紗良はずっと耐えてきた。
なのに今さら、何を気まぐれに言ってるのか。
紗良は皮肉めいた笑みを浮かべた。
「最近どうしたの?ずっと疑ってばかりで。私がどれだけあなたを愛してるか、あなたが一番わかってるでしょ?何か隠してた?他の男と関係持ったことある?」
紗良は見た目も性格もよく、家柄も申し分ない。言い寄ってくる男は後を絶たなかった。
それでも直樹と付き合っていた三年間、彼女は一切浮ついたことをせず、どんな誘いもきっぱりと断ってきた。
それを一番知っているのは、直樹のはずだった。
案の定、その言葉を聞いた直樹の表情は少し和らいだ。
彼は片腕で紗良を抱き寄せ、そのままベッドへと引っ張った。
「だって、君に言い寄る男が多すぎるんだよ。嫉妬するに決まってるだろ」
そう言いながら、器用な指先で紗良の胸元のボタンを三つ外し、滑らかな肌に触れてきた。
紗良は慌てて真っ赤な顔で彼の手を止めた。
「ちょっ……あなた、まだ怪我してるでしょ!」
直樹は彼女が心配しているのだと勘違いし、にやりと笑って横になった。
「平気だよ。上に乗って……自分で動いて。
君を助けたお礼ってことで、いいだろ?」
紗良の顔から血の気が引き、肩が小刻みに震えた。
信じられなかった。
この男は本当に、平気でこんな下劣なことを言えるのか。
怪我なんてしていないし、助けたのも演技だった。
なのに、それを口実に彼女の身体を求めてくるなんて。
彼の中にあるのは愛なんかじゃない。ただ肉体への執着だけ。
三年間で、紗良が直樹の求めを拒んだのはこれが初めてだった。
「やめて……お腹が痛いの」
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