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愛してたのは本当、別れても後悔しない第1話

この話は約2784字。当サイトでは第1〜3話を試し読みできます。

温もりの余韻に包まれた後、南條紗良(なんじょう さら)はようやく気づいた。桐生直樹(きりゅう なおき)が避妊していなかったことに。

妊娠してしまったかもしれない――その恐怖に震える紗良をよそに、直樹は笑いながら言った。

「うちと南條家は犬猿の仲だろ?子どもができれば、君のお父さんも認めざるを得ないさ。堂々と君を嫁にもらえるってわけだ!」

顔を真っ赤にしながらも、紗良は直樹の好きにさせてしまった。

だがある日、彼の親友たちの話を偶然耳にしてしまう。

「さすが直樹さん、やり口がえげつないね。妊娠させて捨てるとか、紗良の評判は地に落ちたし、南條家の面目も丸つぶれだ!」

直樹は鼻で笑いながら答える。

「誰が紗良なんかに、真琴の優秀卒業生代表の座を奪わせたってんだ。あいつのせいで真琴は傷ついて、海外にまで行く羽目になったんだぞ?このくらい当然だろ。俺は真琴のために、きっちり復讐してやってんだよ」

家族に隠れて、三年間も直樹の秘密の恋人でいたことを思い出し、紗良は羞恥と怒りで胸が張り裂けそうになった。

悔しさに唇を噛みながらも、涙をこらえ、震える手で電話を取る。

「……お父さん。言ってた政略結婚、私……受けます」

* * *

「今回は着けてないの?」

紗良は温めたミルクを飲みながら、床に落ちている使用済みのひとつだけをちらりと見た。けれど、今夜直樹は確かに三回も彼女を抱いたはずだった。

彼女の顔色が一瞬で真っ青になる。

「う、嘘でしょ……まさか、忘れたなんて……?もし妊娠でもしてたらどうするのよ?」

だが直樹はまったく動じる様子もなく、薄いシフォンの下に手を滑り込ませながら笑った。

「わざとだよ」

彼は紗良の耳たぶを甘く噛み、優しく弄ぶ。

「もし子どもができたら、俺は君と結婚する。盛大な式を挙げて、子どもにも堂々とした家族を与える。君の父親にも認めてもらえるようにする。どう?」

頬を赤らめた紗良は、慌てて口元を手で覆い、これ以上の下品な言葉を遮った。

そんな彼女の、恥じらいと怒りが交じる表情を、直樹は何よりも愛していた。

「またそんなことを……」

直樹は彼女の柔らかな首筋に顔を埋め、そっと香りを吸い込む。その声はかすれていた。

「もうこれからは使わなくていいだろ?子どもができたら、それを口実に君の父親に正式に結婚を申し込めるんだから」

紗良の心がわずかに揺れた。

南條家と桐生家は、商業の世界で長年にわたり激しく対立してきた。

そんな中、いつもは従順な紗良が、両親に隠れて直樹と密かに交際していたのだ。

もしかすると、子どもを利用すれば、両親の心を動かせるかもしれない……

眠気が一気に押し寄せ、彼女はそのままうとうとと眠りに落ちた。

だが、間もなく腹部の激しい痛みに目を覚まし、トイレに駆け込み、飲んだミルクをすべて吐き出してしまった。

「桐生坊ちゃん、本気で紗良を孕ませて結婚するつもりなのか?」

リビングでは、直樹が煙草に火をつけ、スマホのスピーカーをオンにしていた。

「前半は正解。でも結婚?フッ、ありえないだろ。

子どもが生まれたら、あいつはポイだよ」

紗良はまるで悪夢を見ているような気分だった。

だが、太腿を強くつねった痛みが、これが現実であることを容赦なく突きつけてくる。

電話の向こうからは、爆笑が響いてきた。彼の計画を絶賛する声が飛び交う。

「未婚で妊娠して、しかも宿敵に捨てられるとか、紗良の名誉は地に落ちるな!誰がそんな女と結婚するかね」

「それに南條貴弘(なんじょう たかひろ)のじじいも、顔面丸潰れだろ?孫が敵の血を引いてるとか、ショックで倒れて寝たきりになるんじゃねぇか?」

だが、その中にひときわ異質な声が混じっていた。

「南條貴弘を潰すために、娘っていう無関係の人を巻き込むのはやりすぎじゃないか?」

その疑問は、紗良自身も知りたかった。

三年前、卒業祝いにと友人たちとバーに行った夜。

酔った勢いで混ぜ物された酒を口にしてしまい、複数の酔っ払いに個室へと引きずり込まれ、服を引き裂かれた。

そのとき、直樹が現れて彼らを叩きのめしてくれた。

意識が朦朧とする中、紗良は彼にしがみつき、狂ったように求めた。

翌朝、目を覚ました彼女は、直樹だと気づいて顔を真っ赤にし、体に残る無数の痕跡に羞恥と怒りで泣きそうになった。

「安心しろ。このことは誰にも言わない。君の父親にもな」

紗良はハッとして目を見開いた。

彼は自分の正体を知っていたのに、どうして助けたのか?

あのまま乱暴されていたら、桐生家にとっては絶好の弱みになったはずだ。

「ずっと前から南條家には注目してた。でも、君には……どうしようもなく惹かれてしまった」

シャツをそっと彼女にかけながら、直樹は言った。

「俺、潔癖なんだ。知らない女なんて指一本触れたくない。でも君だけは……理性がぶっ飛んだ」

その、どこか困ったようでいて深い愛情をたたえる眼差しに、紗良の心は完全に捕まってしまった。

だが、直樹の冷笑が彼女を現実に引き戻す。

「無関係?はっ……大学の卒業式の日、紗良が目立ちたいって言い出したせいで、真琴が代表スピーチの枠を奪われたんだぞ。

真琴が抗議しに行ったら、貴弘に侮辱されて追い返された。あいつ、泣きながらそのまま海外に行ったんだよ。

だからその夜に、俺はバーでヒーローを演じて復讐を始めたんだ!」

その真実は、紗良が想像していたよりも遥かに残酷だった。

まさか、二人の始まりさえも、すべて計算だったなんて――

下半身にまだ残る余韻、一夜の愛の痕跡さえも消えていないというのに。

それでも紗良は、頭がクラクラしてその場に倒れそうになった。

直樹は何かを察知したのか、鋭く部屋の隅に目をやった。

そこには誰もいなかったが、彼は不安そうに眉をひそめた。

だが、ミルクに睡眠薬を混ぜたことを思い出し、また安心したようだった。

紗良は口を押さえながら、そっと寝室へと戻った。

ベッドに崩れ落ちた瞬間、涙が頬を伝ってこぼれ落ちる。

スマホが震え、画面には「お父さん」の文字が表示されていた。

「紗良、藤原おじさんの息子が七日後に海外から戻ってくる。今回はちゃんと家同士の縁談を受けて。

君も外で遊び回って何年も彼氏いなかったし、気に入ったらすぐ婚約してくれ」

直樹の立場がデリケートなため、紗良はずっと両親に「恋人はいない」と嘘をついてきた。

彼に心を捧げ、何でも許してきたのは、いつか本気になってくれると信じていたから。

愛が深まれば、彼も自分のために父の前で頭を下げてくれると思っていた。

結局、笑われていたのは自分だけだった。

涙をこらえながら、紗良は静かに答えた。

「お父さん、お母さん……私、考え直した。縁談、受けるわ」

貴弘は大喜びだった。

「それは良かった!お父さんは藤原おじさんと一緒に、事業の中心を海外に移すつもりだったんだ。君が行かないって言うかと心配してたけど、これで家族みんな一緒にいられるな!」

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