愛さなければよかった第2話
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電話の向こうで荒い息遣いが二秒ほど続き、やがて元紀は怒りを込めて笑った。
「上等だ、清子。いい度胸だな」
電話を切り、私はラインを開いて、以前に追加した弁護士の唐沢遊真(からざわ ゆうま)にメッセージを送った。
【先生、離婚の手続きについてご相談があります】
スマホを置くと、使用人の伊藤彩(いとう あや)がすでに荷造りを始めていた。
「奥様、これらは本当にすべて置いていかれるのですか?」ファミリークローゼットの壁一面に並ぶブランド品を見つめながら、彩は私に尋ねた。
それらはすべて、パーティーに出席するために元紀が買ってくれたものだ。
彼は言った。「清子、お前の過去がどうだったかは知らん。
だが、神前家に嫁いだ以上、その貧乏くさいしけた雰囲気はしっかり隠してもらわないと困る。俺の顔に泥を塗るな」
そう思い出し、私は首を振って明るい声で言った。
「そのブランド品もドレスも、全部いらないわ。残りのものだけ詰めてくれればいいから」
彩は困惑した表情を浮かべた。
「ですが、奥様……これらを除けば、お荷物になるようなものはほとんど……」
私は一瞬きょとんとして、思わず吹き出してしまった。
――ああ、そうね。元紀と結婚して七年、私が本当に自分のものと呼べるものは、ずっと少なかった。
この広い別荘の中で、私に許された居場所といえば、寝室のベッドの半分だけだった。
この半分のベッドこそが、私の七年間そのものであった。
その夜、元紀は帰ってこなかった。そのおかげで、私はぐっすりと眠ることができた。
翌日、私はまとめた荷物を手に家を出ようとした。
一つのスノードーム以外、何も残さずに。
それは、元紀と付き合い始めてから結婚するまでに貰った、唯一のプレゼントだ。
進学のためにU市へ出てきたばかりの私に、元紀は一目惚れした。
あの頃の彼は裏表がなく情熱的で、ただ二言三言言葉を交わしたいがために、毎日私の通学路で待ち伏せしていたのだ。
このスノードームも、その頃彼がくれたものだ。
親の金に頼らず、初めて自分で三日間アルバイトをして買ったプレゼントだと言っていた。
ドームの中の雪が決して溶けないように、私への愛も永遠に消えることはないのだと。
七年が過ぎた今も、スノードームの中の雪は変わらず舞い続けている。
けれど、彼の愛はもう必要ない。
家を出た私は、ホテルに泊まった。
一日も経たないうちに、元紀から電話がかかってきた。
「清子、どこへ消えた?
さっさと戻ってきて、お前のガラクタを片付けろ!」
私は淡々と答えた。
「いらないわ。あなたが捨ててちょうだい」
元紀は言葉に詰まり、何度も問い返した。
「清子、本気か?」
「ええ」
私の声は弾んでいる。本当にどうでもよかったからだ。
「捨てていいわよ。どうせ、大したものじゃないし」
しかし元紀は、まるで痛いところを突かれたかのように声を荒げた。
「大したものじゃないだと?お前、これが俺があの時……」
「あの時、何?」
私は鼻で笑い、彼の言葉を遮った。
「三日間バイトして稼いだお金で買ったって?そのスノードーム、定価で千円くらいだよ。
ねえ、元紀。三日間も働いて、それだけしか稼げないバイトって、一体何なの?」
これは結婚後、元紀が泥酔した際に口を滑らせて明かした事実だ。
彼はこう言った。「百円ショップで適当に選んだスノードーム一つで、お前を落とせたんだ。
清子、お前って本当に騙されやすくて、しかも安上がりな女だな」
その時、私は悟った。元紀は変わったのではなく、ただ偽るのが面倒になっただけだと。
電話を切り、私は予約していた法律事務所へ向かった。
対応してくれた弁護士の遊真は、事情を聞くと渋い表情を浮かべた。
「神前さん、ご自身でもよくお分かりの通り、神前家の地位を考慮すると、穏便に離婚を成立させることはほぼ不可能です」
――もちろん、それは承知の上だ。だからこそ、私は当然の権利すら放棄するつもりだ。
「財産分与を一切求めないとしたら、どうですか?身一つで家を出ても構いません」
遊真の表情は少し和らいだものの、まだ躊躇いが見えた。
「そもそも、ご主人は離婚に同意されていますか?」
私は首を横に振り、心が重くなるのを感じた。
元紀から離れようとしたのは、これが初めてではない。
五年前、初めて離婚を切り出した時、元紀は何も言わず、ただ一ヶ月もの間、私を別荘に閉じ込めていた。
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