恋の勝負、夜明けまで待てない第3話
この話は約1733字。当サイトで読める3話の試し読みのうち、最後の話です。続きの第4話からは公式アプリで読めます。
だから、私たちの関係を知っているのは、数人の共通の友人だけだった。
胸が何かに重く押し潰されそうになる。
旭とはもう別れたはずなのに、あの動画を見た時、息ができないほど胸が痛んだ。
薄い壁越しに、また談話室から寮友たちの声が聞こえてきた。
「梓、推薦入試、あんたも東雲大学に受けるの?」
梓は少し黙り込み、それから小さく肯定するように返事をした。
「旭も行くから、一緒にいたくて」
私は目を開け、部屋の天井を長い間見つめていた。
それからスマートフォンを取り出し、大学院推薦入試の出願ページを開く。
東雲大学。
それは旭がずっと目指していた大学であり、私も本来選んでいた志望校だった。
そのために、私たちは何年も前から計画を立てていた。
けれど今はもう、その必要はない。
画面に表示された出願先の入力欄を見つめる。
画面の上で、指先が数秒間立ち止まる。
そしてゆっくりと東雲大学を削除し、別の大学を入力し直した。
旭からも、梓からも遠く離れた場所へ。
この先一生、二度と顔を合わせることもないほどの距離へ。
送信完了の通知がポップアップした時、私はようやくホッと息をついた。
スマートフォンを枕の下に突っ込み、無理やり目を閉じて眠りについた。
翌朝早く、私はバッグを背負って図書館へ向かった。
これまで集めた資料はすべて、東雲大学の推薦入試に向けて準備したものだった。
志望校を変えたからには、研究の方向性も、指導教員も、推薦入試の内容も、すべて調べ直さなければならない。
二階に着いた途端、不意に旭と梓の姿が目に入った。
二人は手を繋ぎ、とても親しげにしている。
私は足を止め、踵を返して立ち去ろうとした。
だが、旭はすでに私に気づいていた。
彼は片眉を上げ、笑みを含んだ声で言う。
「杏梨、偶然だな?それとも、わざと俺に会いに来たのか」
私は彼を無視して、そのまま前へ歩き続けた。
しかし、梓が小走りで追いかけてきた。
「杏梨、もしかしてまだ怒ってる?昨日のことは、本当にあなたが思ってるようなことじゃなくて……」
梓が最後まで言い終わらないうちに、旭が鼻で軽く笑った。
「こいつに説明なんかしてやる必要ないだろ。分からないか? わざと俺の前に姿を現して、俺に機嫌を取らせたいだけなんだよ」
梓はハッとしたように言葉を失った。
「旭……」
旭は私を見つめていた。その眼差しは自信に満ちていて、それでいて気怠げだ。
「杏梨のこういうやり口、俺は知り尽くしてるんだよ。冷たいフリをして、気にしてないフリをする。要するに、気を引くための駆け引きだろ」
私は本を握りしめ、指の関節が少し白くなっていた。
「それ、自分のことを言ってるの?」
そういう駆け引きはすべて、旭自身がいつも使っている手だ。私ではない。
旭の顔に浮かんでいた笑みが少しこわばった。反論しようとしたが、言葉が見つからないようだった。
ふと、旭の視線が私の手元に落ちた。まだ返却しそびれていた本だ。
次の瞬間、旭は笑った。
「東雲大学の推薦入試の資料?」
旭は手を伸ばして一番上の本を抜き取り、パラパラと数ページめくってから、再び視線を上げて私を見た。
「杏梨、お前もなかなか演技が上手いな。口では別れるなんて言いながら、結局、推薦入試の出願先は東雲大学のままか?なんだ、あそこが俺の志望校だって知ってるから、こっそりついてきて俺を驚かせようとでも思ったのか」
旭はその本を私の胸元に投げ返し、嘲るような口調で言った。
「やっぱり気を引くための駆け引きじゃないか。まだ認めないのか? ほら、やっぱり図星だろ」
私は反論しなかった。
彼の言っていることは、半分当たっていたからだ。
以前は確かに、そのつもりだった。
卒業後は実家の会社でインターンをするようにと、すでに家族からお膳立てされていたにもかかわらず。
それでも、旭が東雲大学に行ってもう数年学びたいと言ったのを聞いた途端、私は実家の話を断ったのだ。
あの頃の私は彼に寄り添い、どんな時も一緒にいたいと願っていた。
だから必死にGPAを上げ、論文の準備をし、推薦入試の対策をしてきた。
旭の未来を、私の未来の中にも組み込んでいたのだ。
けれど今はもう、違う。
私は確かにまだ大学院へ推薦で進学したいと思っているが、それはもう東雲大学ではないし、旭のためでもない。
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