心にも降り積もる嘘の雪第3話
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「当然?」私は冷笑した。
「じゃあ、私と言継が結んだ協定は何ですか?ただの紙切れ?」
「椿!」
おじい様の声が少し強くなる。
「お前は久我家の女主人だ。もっと先のことを見据えなきゃ。あの女が門をくぐらず、お前の地位を脅かさなければいい。
外では言継に多少の面子を立ててやることぐらい、できるだろう?それに……」
おじい様が視線を私の平らな腹に落とした。意味深長な眼差しだ。
「この五年、お前はずっと妊娠しないだろう。久我家ほどの家業、誰かに継がせねばならん。言継が外で後継ぎを残すのも、久我家のためだ」
私は全身が冷えるのを感じた。彼らの目には、私が子供を産めないことが原罪なのだ。
言継の浮気は心が弱いから。私生児は跡継ぎ。そして私の怒りは、大局が見えていない証拠。
「もし私が、離婚すると言ったら?」
私はおじい様を見つめた。彼の顔色が一変し、激しく湯のみを卓上に叩きつける。
「ふざけるな、離婚が冗談だとでも思っているのか?
久我グループの株価は今、動揺に耐えられん。
お前が持っている半分の株は、久我家がお前に与えた保障であり、牽制でもある。
久我家の金を持って出て行こうなどと?そう簡単にはいかんぞ!」
おじい様は目を細める。私は拳を握りしめた。爪が肉に食い込む。
この家には情なんて一切ない。あるのは損得勘定だけだ。
その時、オフィスのドアがノックされた。秘書が気まずそうに入ってくる。
「会長、社長がいらっしゃいました……それに、あのお子様も」
続いて言継が入ってきた。彼は陽向を抱き、後ろには怯えた様子の瑠璃が続く。
「おじい様」
言継は私を見ようともせず、直接子供をおじい様の前に抱いていく。
「陽向が、曾おじい様がここにいると聞いて、どうしても会いたいと」
陽向は顔色こそ悪いが、それでも利発に声をかけた。
「曾おじい様、こんにちは」
おじい様の硬かった表情が、一瞬で緩んだ。「いい子だ、本当にいい子だな」
おじい様は子供の頭を優しく撫でる。瑠璃は部屋の隅に立ち、こっそりと私の方を見た。その目には、彼女の柔弱な外見とは違い、少しばかりの得意げな光が宿っている。
おじい様がこの曾孫を認めれば、彼女は門をくぐれなくとも、久我家の大功労者だ。そして私は、遅かれ早かれ追い出される。
言継が私を見る目に、少し自信が加わった。
「椿、おじい様もこう仰っているんだ。久我家のために……」
私の胃からこみ上げる吐き気がもう抑えられず、口を押さえてトイレに駆け込み、天地が逆さまになるほど吐いた。
戻ると、瑠璃が突然私の前に跪き、涙を流していた。
「白石さん、私が帰ってきてはいけないのは分かっています。でも陽向の心臓病も手術が必要なんです。
国内で最高の専門医が隣市にいるんです。私は子供の命を救いたいだけなんです!」
彼女は顔を上げ、その表情は憐れを誘う。
「陽向の手術が成功したら、すぐに連れて出て行きます。絶対に邪魔はしません。
白石さん、あなたも女性です。お子さんを持ったこともおありでしょう。お願いです、母親の心を憐れんでください……」
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