和紙文彼女を百回許した後 · 第2話設定≡

彼女を百回許した後第2話

この話は約1564字。当サイトでは第1〜3話を試し読みできます。

カウントダウン、残り二十五日。

この五日間、普段は真っ白な彼女のSNSのタイムラインが、嘘のように賑わっていた。

昼は広場で鳩と戯れ、夜は遊園地のホテルの展望台からパレードを見下ろす。

二人が歩んだ足跡の一つ一つを、僕は見逃さなかった。

僕とした約束なんて、とうの昔に忘れているのだろう。

荷物をまとめようと立ち上がり、床に物を広げたその時だ。

突然、麗華のアシスタントから電話がかかってきた。

「旦那様、八時に夢見橋で行われる花火大会へ、忘れずにいらしてください。

もし何か手違いがあれば、西園寺社長に私が大目玉を食らってしまいますので」

僕が麗華と結婚しているこの五年間、僕を「旦那様」と呼ぶのは彼女のアシスタントだけだった。

彼女だけが、僕と麗華の婚姻関係を知る唯一の人物だ。

アシスタントを困らせるつもりはないので、僕は承諾した。

だが、いざ夢見橋へ向かうとなると、少し感傷的な気分になった。

五年前、僕と麗華が結婚したばかりの頃。

彼女は僕のためにシークレット花火ショーをプレゼントしてくれた。あの時も、アシスタントがこっそり教えてくれたのだ。

五年が経ち、同じ場所へ向かう。

だが僕の心境は、当時とは似ても似つかないものになっていた。

夢見橋の近くまで来ると、そこはすでに数え切れないほどの観光客で溢れかえっていた。

多くのメディアの姿さえある。

僕は不審に思い、場所を間違えたのではないかと麗華に電話をかけた。

電話の向こうは、無機質な呼び出し音が鳴り続けるだけだ。

もう一度かけた。

何を期待しているのか、自分でも分からない。

何度かけても繋がらず、麗華の姿も見当たらない。

時間を見ると、もうすぐ八時だ。

人混みの中から声が聞こえてくる。

「もうすぐ花火が始まるぞ」

「西園寺社長が彼氏のために用意した花火らしいぜ。俺たちも見れるなんてラッキーだな」

僕は立ち尽くした。

世間における麗華のイメージは、ずっと独身のままだ。

彼らが言う「彼氏」が、僕であるはずがない。それは別の誰かを指しているに決まっている。

花火が一番よく見える特等席は、夢見橋の最北端だと知っている。

せっかく来たんだ。見ていくことにしよう。

花火に罪はないのだから。

ただ、人が多すぎる。

僕は人の波に押され、最前列まで流された。

そこでようやく、麗華を見つけた。

彼女は特等席で、聖也を愛おしそうに抱きしめていた。

夜空に一輪、また一輪と、絢爛な花火が咲き誇る。

耳元で炸裂する音を聞きながら。

そして、人々の喧騒と花火の音に混じって聞こえてくる、麗華から聖也への愛の告白を聞きながら。

記者がマイクを聖也に向け、問いかける。

「一条さん、お返事は?」

麗華は聖也の肩を優しく抱き、期待に満ちた瞳で彼を見つめている。

聖也は照れくさそうにマイクを受け取り、口を開きかけた。

その時、僕と麗華の視線がぶつかった。

麗華は呆気にとられ、思わず声を漏らした。

「悠真……」

その瞬間、夢見橋全体が静まり返った。

花火の音さえ遠く感じるほどに。

全員の注目が彼女の言葉と、彼女が見つめる僕に集まった。

聖也が僕を見て、眉を上げて彼女に尋ねる。

「誰だい?こいつ」

麗華は気まずそうに唇を舐め、どう収拾をつけるべきか考えあぐねている。

僕は微笑み、注がれる視線を受け止めながら答えた。

「僕は柊木悠真。西園寺社長の……」

麗華はひどく焦った様子で僕を遮ろうとしたが、僕の口から出た言葉は違った。

「従兄です」

その言葉とともに、掌に食い込ませていた指の力を、ふっと抜いた。

「叔母さんに頼まれて、義弟になる人がいい男かどうか、見定めにきたんですよ。驚かせてしまいましたか?」

麗華の表情がようやく緩み、満足そうに僕に頷いた。

彼女は僕の身分が公になることをずっと嫌がっていた。彼女の母親も同じだ。

だから義母と出かける時はいつも、彼女を「叔母さん」と呼ばされていたのだ。

縦書き表示中:本文は右から左へスクロールします(← → キーでも移動できます)