彼女を百回許した後第3話
この話は約1549字。当サイトで読める3話の試し読みのうち、最後の話です。続きの第4話からは公式アプリで読めます。
五年間呼び続けてきた「叔母さん」という呼称は、この時のために用意された最高の言い訳だ。
花火ショーは続いていくが、もう誰も僕のことなど気にしていない。
あいにくの空模様で、突然の土砂降りが始まった。
麗華は急いで人混みをかき分けた。
「聖也は体が弱いの、雨に濡れちゃダメなの。みんな道を開けて!」
彼女は聖也を、それはもう大事そうに車の中へと避難させた。
僕だけが、その場に取り残された。
雨は骨に沁みるほど冷たいが、寒さは感じなかった。
たぶん、この五年の結婚生活で、心が冷え切ることに慣れてしまったからだろう。
僕は家に帰り、熱いシャワーを浴びた。
風呂から出ると、ちょうど麗華がリビングにいた。
彼女は少し躊躇ってから、意外にも僕に礼を言った。
「さっきは助け舟を出してくれてありがとう。
私たち……公表していない夫婦だし、あそこでバレたら聖也のイメージに関わるもの。
そのうち……折を見てあなたとの関係も公表するわ」
僕は彼女に言わなかった。
これからはもう、関係を公表する必要なんてないことを。
この結婚はもう終わるのだから、最初から存在しなかったことにしたほうがいい。
僕にとっても、彼女にとっても。
彼女は突然思い出したように僕を気遣った。
「ところで、どうしてあそこにいたの?」
僕は笑って、しばらく彼女を見つめた。
彼女が気まずそうに目を逸らすまで待ってから、僕は言った。
「橘川(きつかわ)アシスタントに行けって言われたんだ」
そこで彼女はようやく思い出したようだ。
今日の花火は、もともと僕に見せると約束していたものだったことを。
でも聖也との時間が甘すぎて、完全に忘れていたのだ。
「ごめんね。来週は……来週はダメだわ、出張があるの。来月、来月になったら絶対に連れて行くから」
僕は首を横に振った。
「その時にまた考えよう」
麗華は僕の物分かりの良さに満足し、軽く僕を抱きしめた。
女性の抱擁がこれほど冷たいと感じたことは、かつてなかった。
その日以降、麗華は本当に出張に行った。
ただ、聖也を連れての出張だったが。
仕事の合間に、彼らはキャンドルディナーを楽しみ、隣県の博物館へ行ったようだ。
彼女が僕とは決して行こうとしなかった、海鮮屋台にも行ったらしい。
かつて彼女は言ったものだ。
「私だって社長なのよ。あんな安っぽい場所で食事なんて、品位が下がるわ」
だが聖也の前では、麗華に社会的地位など関係ない。
ただ彼を深く愛する一人の女でしかないのだ。
カウントダウン、残り三日。
麗華がついに帰ってきた。
彼女が出張していた半月の間、僕は一度も連絡しなかった。
彼女は塵一つない別荘を見て、五年の結婚生活における僕の献身に突然気づいたかのように言った。
「あなた、お疲れ様」
五年だ。
最後にそう呼ばれたのがいつだったか、もう思い出せない。
「明後日、花火を見に行こうと思ってたんだけど、キャンセルになって……」
言い訳だとすぐに分かった。ただ僕を連れて行きたくないだけだ。
きっと、聖也に何か言われたのだろう。
「じゃあ、いいよ」
麗華は呆気にとられた。
僕が本当にあっさりと引くとは思わなかったようだ。
「あなた……気にならないの?」
以前なら、僕は狂ったように彼女を責め立てただろう。
なぜ約束を守れないのかと。
だが今は、彼女の虚飾にまみれた約束などどうでもいい。
「たかが花火だ。見なくても死にやしない」
麗華、君のことだって。
実はもう、いらないんだ。
長い沈黙の後、麗華が再び口を開いた。
「それなら明後日、一緒に西野山の別荘を見に行きましょう。
あの日、七夕祭りがあるらしいの。西野山の別荘から近いし、ちょうどいいから見に行きましょう」
スマホを見る。
カレンダーには、明後日が七夕だと表示されていた。
そんな大事な日に、彼女が僕に会いに来るだって?
どうせ口先だけの埋め合わせだろう。
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