彼を選んだ日、兄と幼馴染が泣いた第2話
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二人はその言葉を聞くなり、ほっと胸をなでおろした。
向こうがビデオ通話を切ると、ようやく私の腕を取ってきた。
「明菜ちゃん、痛かっただろ?本当にごめん。友紀ちゃんがね、もしミッションを達成できなかったら、ご飯を食べないって。あの子、体が弱いだろ。食べないなんて絶対に駄目だし……だから、お前に我慢してもらうしかなくて」
黙り込む私に、二人は焦ったように立ち上がった。
「悪かった、つい力が入っちゃって……ほら、行こう。病院で診てもらおう」
そのとき、また友紀から電話がかかってきた。
彼女の声は、相変わらず弱々しく甘い。
「お兄ちゃん、輝、ずっと何も食べてなくて、低血糖で動けないの。庭まで迎えに来て、部屋まで背負ってくれない?」
二人の表情が一変した。電話を切るとすぐに、私のことなどすっかり忘れたように、庭へ向かって駆け出していった。
その背中を見送りながら、私は冷ややかに笑った。
――こんなこと、もう何度目だろう。
けれど、もうどうでもよかった。
翌朝の食卓でも、友紀は相変わらずみんなの中心だった。
私の少し腫れた頬を見て、彼女は申し訳なさそうに顔をしかめた。
「お姉ちゃん、顔まだ腫れてるのね?ごめんなさい、昨日はただの遊びのつもりだったの。まさか本当に叩くなんて思わなかったのよ」
誠と輝も、私の頬を見たが、そこに同情の色はひとかけらもなかった。
むしろ笑いながら友紀をなだめた。
「たかがビンタ一発だ。肉が削げるわけじゃなし。友紀ちゃんは本当に優しすぎるんだ」
私は黙って、ただ箸を動かし続けた。
朝食が終わり、二人が出かけると、部屋には私と友紀だけが残った。
人前ではおしとやかな友紀も、今はまるで別人のように唇を吊り上げた。
「明菜、気づいてないの?二人とも、もうあんたのことなんて好きじゃないのよ。いくら本物のお嬢様だって言ったって、結局ビンタされる身でしょ?
お兄ちゃんも輝も、私のことが大事で仕方ないのよ。ご飯食べたくないって言うだけで、あの人たち大慌てなの」
最初のうちは、そんな言葉に胸を刺されていた。
けれど、何度も繰り返されるうちに、もう何も感じなくなった。
「――好きにすればいいわ。そんなクズ、欲しいなら全部あげる」
冷たく言い放つと、彼女は目を見開いた。
私が言い返すなんて、思ってもいなかったのだろう。
次の瞬間、彼女は食器を床に落とし、そのまま派手に倒れ込んだ。
音を聞きつけた誠と輝が、慌てて駆け込んできた。
私が何が起きたのかも分からないうちに、友紀は顔を手で覆い、涙をにじませながら言った。
「お姉ちゃんの顔を心配しただけなのに……いきなり叩かれたの。これは昨日の仕返しよって」
輝は信じられないという顔で私を睨みつけ、目の奥に怒りの炎を宿らせた。
誠も激昂して叫ぶ。
「自分が菅原家の本当の娘だからって、友紀ちゃんをいじめていいと思ってるのか?お前はいつか嫁いでいく身だ。でも友紀ちゃんは――永遠に俺たちの姫なんだからな」
私は何も言わず、そのまま背を向けて部屋を出た。背後では怒鳴り声と責め立てる声が交錯していた。
――けれど、もうどうでもよかった。
屋敷を出て、私は藤野山へ向かった。
藤野山の神社はご利益があると評判の神社だった。
私はただひとつ願いたかった。
――未来の夫が、一日も早く目を覚ましますように。
けれど、世の中とは皮肉なものだ。
山道の先で、輝と誠が友紀を交代で背負い、汗を流しながら登っているのが見えた。汗を流しながらも、どこか嬉しそうに笑っている。
私の存在に気づくと、三人の足が止まる。
友紀が眉をひそめ、不快そうに言う。
「お姉ちゃん、まさか私たちがここに来るのを知ってて、ついてきたの?」
私は静かに首を振った。
「あなたたちの予定になんて、興味ないわ」
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