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彼を選んだ日、兄と幼馴染が泣いた第3話

この話は約1474字。当サイトで読める3話の試し読みのうち、最後の話です。続きの第4話からは公式アプリで読めます。

二人は、私の予想外の返答に目を見張った。しばらくして、輝が何かに気づいたように声を上げた。

「まさか俺たちのために、お守り取りに来たんじゃないよな?俺、ああいうの身につけないからな」

「俺もいらない」誠もすぐに言い添えた。

「もう帰れよ。ここからまだ先は長いし、誰もお前を背負ってくれないぞ」

私は二人を無視して、早足で山道を登った。これ以上、言葉を交わす気にもなれなかった。

二人は、私がまた芝居をしていると思ったに違いない。つかず離れず、私の後を追いながら笑っていた。

けれど私はもう、彼らの存在を意識することさえなかった。

本堂で香を手向け、深く頭を下げたあと、おみくじを引いた。

――大吉。

その紙を見つめていると、友紀が鼻で笑った。

「お姉ちゃん、神様にお願いしたの?私より可愛がってもらえますように、って?でもね、人の心なんて思い通りにならないの。神様でも無理よ」

輝はその言葉の裏にある挑発に気づいたようで、急いで彼女を宥めながら、私を責めた。

「もういい歳だろ。友紀ちゃんと張り合うなんて、みっともないぞ」

私は冷めた目で彼らを見やり、皮肉を込めて言った。

「自意識過剰ね。私がお願いしたのはあなたたちのことじゃないわ」

友紀はわざとらしく目をそらし、くるりと背を向けて去っていった。誠は信じられないといった顔で、私の手にあるおみくじを覗き込む。

そこに書かれた名前を見て、彼は目を見開いた。

「……優弥?お前、あの廃人のために来たのか?」

輝も驚いたように口を開いた。

「もしかして、良心が痛んだのか?友紀ちゃんが植物状態の男と結婚するのが気の毒だから、代わりに祈りに来たとか?」

誠が鼻で笑う。

「偽善者め。本当に悪いと思うなら、自分が嫁げばいいだろ。あの廃人に」

彼らの声は友紀に聞こえないように、やけに小さかった。

――そんなふうに誰かを思いやるような優しさを、私は昔、一瞬だけ知っていた。

藤野山から戻った夜、私は夢を見た。

優弥が、木南家の古い屋敷の回廊の先に立っていた。陽の光がトレリスを抜け、青い石畳に影を落としている。その光景を見ているうちに、胸の奥に妙な既視感が広がった。

――この場面、どこかで見たことがある。

彼に近づこうとしたその瞬間、騒がしい声に現実へ引き戻された。

窓辺に駆け寄ると、誠と輝が友紀に乗馬を教えていた。

彼女が「馬に乗ってみたい」と口にしただけで、輝は自分の牧場から最上の馬を連れてきたのだ。

その光景を眺めながら、私はふと夢の続きを思い出した。そして、何となく木南家へ行ってみようと思い立った。

だが、屋敷の門に近づいた途端、背後から馬のいななきが響いた。

振り向いた瞬間、馬の前脚が高く上がり――私の顔を狙うように迫ってきた。

私は反射的に身を伏せ、地面に転がった。砂利の中を何度も転がったせいで、腕は擦り傷だらけになり、紫色のあざが浮かび上がる。

皮膚の下で血が滲み、痛みに涙がこみ上げた。

馬上の友紀は口元だけで笑った。

「ごめんなさい、お姉ちゃん。まだ上手く乗れなくて……怪我、しちゃった?」

誠は私を一瞥することもなく、すぐに彼女を抱き下ろして、優しく声をかけた。

「大丈夫だ、あいつは丈夫だから。お前のほうこそ怖かったろ?」

悔しさで喉が詰まり、涙を堪えながら俯いたとき――

ふいに、温かい手が私の肩を支えた。その手には、どこかで見覚えのある紙の札が握られていた。

――藤野山で、私が引いた大吉のおみくじ。

「馬に乗れないなら、無理して出てくるな。見っともない」

低く響く声。嘲るようで、どこか懐かしい響きだった。

顔を上げた瞬間、息が止まった。

――優弥だった。

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