彼を選んだ日、兄と幼馴染が泣いた第3話
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二人は、私の予想外の返答に目を見張った。しばらくして、輝が何かに気づいたように声を上げた。
「まさか俺たちのために、お守り取りに来たんじゃないよな?俺、ああいうの身につけないからな」
「俺もいらない」誠もすぐに言い添えた。
「もう帰れよ。ここからまだ先は長いし、誰もお前を背負ってくれないぞ」
私は二人を無視して、早足で山道を登った。これ以上、言葉を交わす気にもなれなかった。
二人は、私がまた芝居をしていると思ったに違いない。つかず離れず、私の後を追いながら笑っていた。
けれど私はもう、彼らの存在を意識することさえなかった。
本堂で香を手向け、深く頭を下げたあと、おみくじを引いた。
――大吉。
その紙を見つめていると、友紀が鼻で笑った。
「お姉ちゃん、神様にお願いしたの?私より可愛がってもらえますように、って?でもね、人の心なんて思い通りにならないの。神様でも無理よ」
輝はその言葉の裏にある挑発に気づいたようで、急いで彼女を宥めながら、私を責めた。
「もういい歳だろ。友紀ちゃんと張り合うなんて、みっともないぞ」
私は冷めた目で彼らを見やり、皮肉を込めて言った。
「自意識過剰ね。私がお願いしたのはあなたたちのことじゃないわ」
友紀はわざとらしく目をそらし、くるりと背を向けて去っていった。誠は信じられないといった顔で、私の手にあるおみくじを覗き込む。
そこに書かれた名前を見て、彼は目を見開いた。
「……優弥?お前、あの廃人のために来たのか?」
輝も驚いたように口を開いた。
「もしかして、良心が痛んだのか?友紀ちゃんが植物状態の男と結婚するのが気の毒だから、代わりに祈りに来たとか?」
誠が鼻で笑う。
「偽善者め。本当に悪いと思うなら、自分が嫁げばいいだろ。あの廃人に」
彼らの声は友紀に聞こえないように、やけに小さかった。
――そんなふうに誰かを思いやるような優しさを、私は昔、一瞬だけ知っていた。
藤野山から戻った夜、私は夢を見た。
優弥が、木南家の古い屋敷の回廊の先に立っていた。陽の光がトレリスを抜け、青い石畳に影を落としている。その光景を見ているうちに、胸の奥に妙な既視感が広がった。
――この場面、どこかで見たことがある。
彼に近づこうとしたその瞬間、騒がしい声に現実へ引き戻された。
窓辺に駆け寄ると、誠と輝が友紀に乗馬を教えていた。
彼女が「馬に乗ってみたい」と口にしただけで、輝は自分の牧場から最上の馬を連れてきたのだ。
その光景を眺めながら、私はふと夢の続きを思い出した。そして、何となく木南家へ行ってみようと思い立った。
だが、屋敷の門に近づいた途端、背後から馬のいななきが響いた。
振り向いた瞬間、馬の前脚が高く上がり――私の顔を狙うように迫ってきた。
私は反射的に身を伏せ、地面に転がった。砂利の中を何度も転がったせいで、腕は擦り傷だらけになり、紫色のあざが浮かび上がる。
皮膚の下で血が滲み、痛みに涙がこみ上げた。
馬上の友紀は口元だけで笑った。
「ごめんなさい、お姉ちゃん。まだ上手く乗れなくて……怪我、しちゃった?」
誠は私を一瞥することもなく、すぐに彼女を抱き下ろして、優しく声をかけた。
「大丈夫だ、あいつは丈夫だから。お前のほうこそ怖かったろ?」
悔しさで喉が詰まり、涙を堪えながら俯いたとき――
ふいに、温かい手が私の肩を支えた。その手には、どこかで見覚えのある紙の札が握られていた。
――藤野山で、私が引いた大吉のおみくじ。
「馬に乗れないなら、無理して出てくるな。見っともない」
低く響く声。嘲るようで、どこか懐かしい響きだった。
顔を上げた瞬間、息が止まった。
――優弥だった。
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