和紙文彼に依存するのをやめた日 · 第2話設定≡

彼に依存するのをやめた日第2話

この話は約2117字。当サイトでは第1〜3話を試し読みできます。

「薬だけじゃどうにもならないこともあるわ」

私は尊をまっすぐに見つめた。

「今の咲良に必要なのは、気にかけてくれる人。そばにいて、安心させてくれる誰かよ」

咲良の頬がさっと赤く染まった。

「お姉ちゃん、そういう意味じゃ……」

尊の表情が険しくなる。

「俺が月城の本邸に行ってから、お前はずっと突っかかってくるな。仕事だったんだ。いちいち自分の行動をすべてお前に報告しろとでも言うのか?」

2週間前……

その日は私たちの交際記念日だった。

私は何日もかけて彼のために手料理を準備した。彼のお気に入りのワイン。好みのデザート。何ヶ月も前にオーダーメイドで頼んでいたアンティークの腕時計も、ようやく手元に届いていた。

深夜を過ぎるまで待ったが、彼は帰ってこなかった。

代わりに私の目に入ってきたのは、更新された咲良のインスタグラムだった。

彼女は、月城にある黒崎本邸の美しい庭園で、尊の隣にぴったりと寄り添って立っていた。

キャプションにはこう書かれていた。

【あなたがそばにいてくれるだけで、安心できる】

電話をかけた私に、彼の声はひどく冷ややかだった。

「外せない重役会合があったんだ。事情を話している時間はなかった。記念日は来年も来るが、今回の会合は違う。お前なら分かってくれると思っていたんだがな」

そして、彼はこう付け加えた。

「俺の予定を中心に生きるな。お前自身の人生を持て」

その瞬間、私の中の何かが決定的に壊れた。

「そういうことなのね。何があっても、私はいつも一番後回しにされるってこと」

長い沈黙の後、尊は深いため息をついた。

「帰ったら話そう」

電話は一方的に切られた。

その夜、私は西都にある外資系企業との雇用契約書にサインをした。エージェントは驚いた顔で私を見た。

「遠方の都市へ移住されるのですか?彼氏さんはご存じで?かなり大きな決断ですよ」

私は自分の名前を書き終え、ペンを置いた。

「誰の許可も必要ありませんから」

数ヶ月前、黒崎グループの投資部門に入るべきか、それとも今の財団の運営に関わり続けるべきか、尊に相談したことがあった。

彼は手元の書類から顔を上げることすらなく、「お前の人生だ。自分で決めろ」と言い放った。

それなのに彼は、咲良がグループ内でどう立ち回るべきかについては、何時間もかけて自ら指導していたのだ。

役員、顧問、彼女が将来頼るかもしれないあらゆる関係者を、彼自身の手で紹介して回っていた。

彼はいつも、私が彼に依存しすぎていると言った。

嬉しい出来事を報告しようとしても、彼はデスクの書類から目を離そうとしなかった。

どこかへ車で連れて行ってほしいと頼めば、「俺の時間はお前のためにあるわけじゃない」と釘を刺された。

一族の会食に同行したいと言えば、「俺以外の世界を持て」と突き放された。

私はずっと、それが黒崎尊という人間なのだと思っていた。

寡黙で、感情を見せず、愛するのが難しい人。長くそばにいれば、いつか私が彼の特別になれると信じていたのだ。

そんな私の日常に、腹違いの妹の咲良が再び足を踏み入れてきた。

私たちは元々、そこまで親しい姉妹ではなかった。だから母が亡くなり、天涯孤独になった彼女の面倒を見てほしいと尊に頼んだ時は、断られるとばかり思っていた。

けれど、彼はあっさりと頷いたのだ。

そして私が気づいた時には、彼女は私が何年も待ち望んでいた特別な存在になっていた。

彼女が本邸の女性陣と揉めて愚痴をこぼせば、彼は忍耐強く耳を傾けた。

彼女が夜中に甘いものが食べたいと言えば、車で街を横断して自らケーキを買ってきた。

親族の集まりでは、自ら彼女を紹介して回った。

「咲良だ。よくしてやってくれ」と。

私がそれに疑問を呈するたび、尊はいつも顔をしかめた。

「咲良はまだ子供だろう。本気で嫉妬しているのか?些細なことを騒ぎ立てるな」

子供、ね。私とたった3歳しか違わないのに。

彼が感情表現が苦手なだけだ、忙しいだけだ、愛情表現の仕方が分からないだけだ。私が彼のために作り上げてきた言い訳は、一つ、また一つと崩れ去っていった。

なぜなら、ついに真実を見てしまったからだ。

彼にだって、甘く優しい一面はちゃんとあったのだ。それが私に向けられていなかっただけなのだ。

これでよかったのかもしれない。

明日の手術が終わったら、私はこの今まで住んできた街――新京を離れる。

尊は、私が彼の子を宿したまま去っていったことなど、一生知ることはない。

スマホが鳴った。親友の浅倉彩乃(あさくら あやの)からだ。

「凛、今夜そっちに行くからね。手術の後も一緒にいてあげる。お医者さんは大したことないって言ってたけど、あんた妊娠してるんだから。一人で抱え込んじゃダメよ」

私はスマホを握る手に力を込めた。

「それに」

彩乃が声を潜める。

「尊にはいつ言うか決めたの?今度の記念日ディナー?」

私は答えなかった。もう、何も分からなくなっていたから。

「とにかく、ゲストルームを片付けておいてよね。あんたの専属ベビーシッターが、今日からお世話するんだからね」

「うん。2回もハウスクリーニングを入れたわよ。新しいシーツも買って……」

私がそう答えながら、ゲストルームのドアを開けた。

その瞬間、私の言葉は、喉の奥でつかえた。

縦書き表示中:本文は右から左へスクロールします(← → キーでも移動できます)