彼に依存するのをやめた日第2話
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「薬だけじゃどうにもならないこともあるわ」
私は尊をまっすぐに見つめた。
「今の咲良に必要なのは、気にかけてくれる人。そばにいて、安心させてくれる誰かよ」
咲良の頬がさっと赤く染まった。
「お姉ちゃん、そういう意味じゃ……」
尊の表情が険しくなる。
「俺が月城の本邸に行ってから、お前はずっと突っかかってくるな。仕事だったんだ。いちいち自分の行動をすべてお前に報告しろとでも言うのか?」
2週間前……
その日は私たちの交際記念日だった。
私は何日もかけて彼のために手料理を準備した。彼のお気に入りのワイン。好みのデザート。何ヶ月も前にオーダーメイドで頼んでいたアンティークの腕時計も、ようやく手元に届いていた。
深夜を過ぎるまで待ったが、彼は帰ってこなかった。
代わりに私の目に入ってきたのは、更新された咲良のインスタグラムだった。
彼女は、月城にある黒崎本邸の美しい庭園で、尊の隣にぴったりと寄り添って立っていた。
キャプションにはこう書かれていた。
【あなたがそばにいてくれるだけで、安心できる】
電話をかけた私に、彼の声はひどく冷ややかだった。
「外せない重役会合があったんだ。事情を話している時間はなかった。記念日は来年も来るが、今回の会合は違う。お前なら分かってくれると思っていたんだがな」
そして、彼はこう付け加えた。
「俺の予定を中心に生きるな。お前自身の人生を持て」
その瞬間、私の中の何かが決定的に壊れた。
「そういうことなのね。何があっても、私はいつも一番後回しにされるってこと」
長い沈黙の後、尊は深いため息をついた。
「帰ったら話そう」
電話は一方的に切られた。
その夜、私は西都にある外資系企業との雇用契約書にサインをした。エージェントは驚いた顔で私を見た。
「遠方の都市へ移住されるのですか?彼氏さんはご存じで?かなり大きな決断ですよ」
私は自分の名前を書き終え、ペンを置いた。
「誰の許可も必要ありませんから」
数ヶ月前、黒崎グループの投資部門に入るべきか、それとも今の財団の運営に関わり続けるべきか、尊に相談したことがあった。
彼は手元の書類から顔を上げることすらなく、「お前の人生だ。自分で決めろ」と言い放った。
それなのに彼は、咲良がグループ内でどう立ち回るべきかについては、何時間もかけて自ら指導していたのだ。
役員、顧問、彼女が将来頼るかもしれないあらゆる関係者を、彼自身の手で紹介して回っていた。
彼はいつも、私が彼に依存しすぎていると言った。
嬉しい出来事を報告しようとしても、彼はデスクの書類から目を離そうとしなかった。
どこかへ車で連れて行ってほしいと頼めば、「俺の時間はお前のためにあるわけじゃない」と釘を刺された。
一族の会食に同行したいと言えば、「俺以外の世界を持て」と突き放された。
私はずっと、それが黒崎尊という人間なのだと思っていた。
寡黙で、感情を見せず、愛するのが難しい人。長くそばにいれば、いつか私が彼の特別になれると信じていたのだ。
そんな私の日常に、腹違いの妹の咲良が再び足を踏み入れてきた。
私たちは元々、そこまで親しい姉妹ではなかった。だから母が亡くなり、天涯孤独になった彼女の面倒を見てほしいと尊に頼んだ時は、断られるとばかり思っていた。
けれど、彼はあっさりと頷いたのだ。
そして私が気づいた時には、彼女は私が何年も待ち望んでいた特別な存在になっていた。
彼女が本邸の女性陣と揉めて愚痴をこぼせば、彼は忍耐強く耳を傾けた。
彼女が夜中に甘いものが食べたいと言えば、車で街を横断して自らケーキを買ってきた。
親族の集まりでは、自ら彼女を紹介して回った。
「咲良だ。よくしてやってくれ」と。
私がそれに疑問を呈するたび、尊はいつも顔をしかめた。
「咲良はまだ子供だろう。本気で嫉妬しているのか?些細なことを騒ぎ立てるな」
子供、ね。私とたった3歳しか違わないのに。
彼が感情表現が苦手なだけだ、忙しいだけだ、愛情表現の仕方が分からないだけだ。私が彼のために作り上げてきた言い訳は、一つ、また一つと崩れ去っていった。
なぜなら、ついに真実を見てしまったからだ。
彼にだって、甘く優しい一面はちゃんとあったのだ。それが私に向けられていなかっただけなのだ。
これでよかったのかもしれない。
明日の手術が終わったら、私はこの今まで住んできた街――新京を離れる。
尊は、私が彼の子を宿したまま去っていったことなど、一生知ることはない。
スマホが鳴った。親友の浅倉彩乃(あさくら あやの)からだ。
「凛、今夜そっちに行くからね。手術の後も一緒にいてあげる。お医者さんは大したことないって言ってたけど、あんた妊娠してるんだから。一人で抱え込んじゃダメよ」
私はスマホを握る手に力を込めた。
「それに」
彩乃が声を潜める。
「尊にはいつ言うか決めたの?今度の記念日ディナー?」
私は答えなかった。もう、何も分からなくなっていたから。
「とにかく、ゲストルームを片付けておいてよね。あんたの専属ベビーシッターが、今日からお世話するんだからね」
「うん。2回もハウスクリーニングを入れたわよ。新しいシーツも買って……」
私がそう答えながら、ゲストルームのドアを開けた。
その瞬間、私の言葉は、喉の奥でつかえた。
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