弾丸を遺し、私は夜明けの海へ第2話
この話は約1412字。当サイトでは第1〜3話を試し読みできます。
通話を終えて屋敷に戻ると、私のショールを手にしたダンテが階段を降りてくるところだった。
私の姿を捉えた瞬間、彼は露骨に安堵の表情を浮かべた。
「なんでこんなに長く外にいたんだ?」
彼はショールを私の肩にふわりとかけ、冷え切った頬にそっと触れた。
「夜は冷え込むんだ。体を大事にしてくれ」
そして、私の顔をまじまじと見つめ込む。
「エレナ、泣いていたのか?」
手で私の頬を包み込み、赤く腫れた目元に視線を這わせる。
「誰かに何かされたのか?」
彼の瞳に浮かぶ心配の色に、嘘偽りはないように見えた。だが、それがかえって私の心を深く抉った。
「ダンテ、私のこと、愛してる?」
彼は一瞬だけ動きを止め、それからゆっくりと片膝をつき、私の手を自分の胸元に押し当てた。
「その答えは、世界中の誰よりも君自身が一番よく分かっているはずだ」
「もし、いつかあなたが私を裏切ったら?」
「そんなことは絶対にあり得ない」
「でも、万が一そうなったら?」
ダンテは私の目を真っ直ぐに見据え、はっきりと告げた。
「その時は、ファミリーの銃で俺の心臓を撃ち抜いてくれ」
掌から伝わる彼の鼓動に、少しの乱れもない。その瞳にも、一切の揺らぎはなかった。
すでに私を裏切っているというのに、彼はいけしゃあしゃあとロマーノの名に懸けて誓ってみせたのだ。
「エレナ、一体何があったんだ?」
「なんでもないの。悲恋の映画を見たら、少し感傷的になっちゃって」
彼はほっとしたように息を吐き、私の額にキスを落とした。
「映画なんて、観客の感情を揺さぶるために作られてるだけの作り話さ」
彼は優しく微笑んだ。
「明日は、結婚記念日のプレゼントを選びに行こう」
翌朝、彼は私をある超高級ジュエリーサロンへと連れ出した。
そこはロマーノ・ファミリーの息がかかった店で、この6年間、彼から贈られた重要なジュエリーはすべてここで仕立てられたものだった。
支配人自らが私たちをVIPルームへと案内する。
「ドン、マダム。デザイナーがすでに準備を整えてお待ちしております」
ダンテは私の前に分厚いカタログを置いた。
「好きなペアを選んでくれ。記念日の夜は、これを着けて過ごそう」
ページをめくり、私はシンプルなプラチナのペアリングに目を留めた。私の指輪の裏に彼の名を、彼の指輪の裏に私の名を刻印できるデザインだ。
「これはどうかしら?」
「君が気に入ったなら、何でもいいよ」
彼は私の隣に座り、椅子の背もたれに腕を回して、結婚してから今日まで1日たりとも欠かしたことのない深い愛情を示していた。
支配人が恭しく微笑む。
「ドンは毎年、マダムへの贈り物を御自ら選ばれますからね。ニュー・エデンでマダムを羨まない女性など1人もおりませんよ」
私はダンテを見つめた。周囲の人間から見れば、彼は今でも「自分の命よりも妻を大切にする夫」なのだ。
もし彼が別の女に双子を産ませていたと知っても、皆はまだ私を羨むだろうか?
突然、ドアをノックする音が響いた。
スタッフが慌てて外の人物を止めようとしたが、時すでに遅く、ドアは無遠慮に押し開けられた。
そこに立っていたのは、白いドレスに身を包み、余裕のある笑みを浮かべた1人の女――ビアンカだった。
彼女の後ろの廊下には、シッターに手を引かれた5歳くらいの双子が立っている。
部屋の中のダンテが見えなかったのか、幼女は背伸びをしながら尋ねた。
「ママ、パパがここにいるって言ったでしょう?どこに?」
ダンテの顔から、さっと血の気が引いた。
縦書き表示中:本文は右から左へスクロールします(← → キーでも移動できます)